社会福祉法人 子どもの虐待防止センター 医師 山口有紗さん
あらまし
- 本連載では、2024年10月号からの計6回にわたり、「若者の孤独・孤立のいま」と題し、子ども・若者支援にそれぞれの角度から取り組む団体に取材をしてきました。最終回となる今号は、小児科医の山口有紗さんに、これまでのご自身の経験や活動から、子ども・若者を取り巻く周囲の大人や地域にとって大切となる視点を伺いました。
子ども・若者の生きづらさは社会の映し出し
SNSの普及で、他者とつながりやすくなった一方、身近に行き場がなく、孤独・孤立を感じる若者は増えています。そうした若者の生きづらさは、不登校児童数や若年層の自殺者数の高止まり、孤独死の増加や性被害、闇バイトなど、さまざまなかたちで表出し、子ども・若者に対する支援の必要性が社会としてもようやく高まってきました。
多くの子どもや周囲の大人と向き合ってきた山口さんは、子ども・若者の生きづらさを考えるときの視点やあり方について、「子どもの“問題”と捉えると、それを解決するためにどうしようかという思考に、私もなりがちです。目の前の子どもたちを支援対象として見るだけではなく、“これは子どもたち自身の問題ではなくて社会を映し出しているのかも”と受け取る。子どもたちの様子や行動は私たち大人や社会へのメッセージであると常に捉えるように意識しています」と言います。続けて、「私自身、しんどかった時期に、そのしんどさを取り除こうとしてくれる人はありがたい存在であったけど脅威でもあったなと。しんどい渦中に一緒にいてくれて、解決を急がないでいてくれて、真剣に向き合ってくれる安心安全な大人の存在。それは専門家だけでなく、周囲のさまざまな大人が担える役割です」と、自身の経験をふまえて話してくれました。「子どもの声を聴くこと」の機運が高まっている今、改めて、大人都合の解釈や誘導になっていないだろうか、目の前の子ども・若者が見えている世界や本当の願い、幸せとは何だろうかと考え続けることが求められています。
弱さの共有から本当の連携が始まる
子ども・若者の生きづらさに対しては社会全体で取り組まなければならず、福祉や教育・医療など、どこか一つの分野だけでは完結しません。しかし、連携が大事だと分かっていても分野が異なると協働しにくくなるのも事実です。これまでの本連載の中でも、連携・協働の大切さとともに難しさが言及されています。
山口さんは研修医時代から「こども専門家アカデミー」という、子どもに関わる専門職らが集まり、日ごろの活動や思いなどを話す場づくりに取り組んできました。そこで大切にしているのは、“弱さ”も含めてお互いにつながれること。「つい、専門分野の特色や得意なことを共有したくなりがちで、そうした場も必要ですが、それだけだとお互いが一線を越えていけない。『私には分からない、できない、失敗しがちで……』と弱さを出しても大丈夫と思える安心な場で定期的に顔を合わせること、分野の垣根を越えてもいいと思えることが本当の意味での連携につながっていくと考えています」と言います。
市民一人ひとりの小さな行動が社会を変えていく
子ども・若者がしんどいことがあっても生きていてもいいと思える社会には、一人ひとりの意識が大切です。山口さんは「これは壮大なことのように思えるけれど、社会を変えていくヒントは私たち一人ひとりの行動や生活にあると思います。自分以外の誰かのために立ち止まることができるか。気づいたら声かけができるか。窮屈で余白がなくなっている社会かもしれないけれど、電車に子どもが乗っていたらちょっと気にかけるとか、店員さんの目を見てお礼を言ってみるとか、自分自身を小さく変えていくことはできる。私たちそれぞれが社会に流れる空気をつくり、誰かの小さな幸せの担い手になっている。そんな意識を持つことが必要なのではないでしょうか」と語ります。
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