『それぞれの女性支援と、これからの協働』フォーラム
それぞれの女性支援と、これからの協働~「分野を超えて、考えるフォーラム」開催レポート~
掲載日:2025年5月13日
2025年5月号 NOW

あらまし

  • 東社協では2025年3月、女性支援に関するフォーラムを開催しました。 「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(「女性支援法」)」施行から約1年が経ち、それぞれの支援現場の現在地とこれからの協働を語り、考える場となりました。

 

女性の権利の尊重やエンパワメント、ジェンダー平等の推進を再確認する「国際女性デー」の3月8日、 東社協では、フォーラム『それぞれの女性支援と、これからの協働』を開催しました。2025年度からの新たな東社協中期計画のキーワードである“協働”を推進するため、 東社協「児童・女性福祉連絡会」※1との共催です。

 

「女性支援法」が2024年4月に施行されて約1年を迎える中、法が生まれた背景や意義、さまざまな支援現場からみえる女性たちの状況などを学びながら、女性支援を一緒に考える場として企画しました。当日は、さまざまな分野の福祉施設、自治体、相談機関のほか、大学生や一般の方も含め、100名近くにご参加いただきました。

 

講演「新たに生まれた女性支援法とは?」

第1部では、お茶の水女子大学 名誉教授の戒能(かいのう)民江さんより、「新たに生まれた女性支援法とは?」と題した講演をいただきました。女性支援法は、支援現場の切実な声をもとに、脱売春防止法化と、新たな女性支援の枠組みの構築を目標に、超党派の議員立法として2022年5月に成立しました。女性を「保護更生」の対象ではなく「支援」対象とする新法成立まで、66年もの年月がかかりました。その背景には、社会の無関心や女性の人権軽視があり、人権問題として政治課題にはあげられなかったのです。法成立後、基本方針が示され、都道府県基本計画が策定され、新法施行から約1年となりますが、自治体や支援現場での取組みも、市民への周知も、十分とはいえないのが現状です。

 

戒能さんは「女性は、性被害や予期せぬ妊娠等のリプロダクティブヘルス・ライツ※2の侵害、社会経済的困難等を受けやすく、また若年女性やDV被害者等は支援が必要でも相談へのハードルが高い状況です。これらは個人の問題でなく『女性であることにより』直面しやすい困難であるという見方への転換が必要です。こうした背景のもと、新法では『女性福祉』の構築がうたわれています」と話します。女性支援法の基本理念に、「当事者中心主義の支援」と、「民間と行政の協働による支援」が位置づけられたことも大きなポイントです。戒能さんは「困難に直面した女性自身を真ん中にした支援への意識改革が必要です。視野を広げて、困難が起こる背景を社会の問題と捉え、協働で取り組みましょう」と語り、会場からも大きな拍手が起こりました。

 

講演で、女性支援法の現状と今後の協働を語る戒能民江さん。

 

クロストーク「それぞれの女性支援と、これからの協働」

第2部は、女性自立支援施設慈愛jiaiの施設長、熊谷真弓さんをファシリテーターに、4人のゲストスピーカーを迎えてクロストークを実施しました。熊谷さんは「新法でも民間と行政の協働が求められています。それぞれの取組みをしっかり聴き、“協働”の芽を探しましょう」と口火を切りました。

 

まず、女性自立支援施設「いずみ寮」施設長の横田千代子さんが、旧売春防止法に基づき「管理」が役割とされた旧婦人保護施設で勤務した約40年を振り返ります。「当事者と接するなかで、性被害からの回復、人権尊重が最も重要だと感じてきましたが、これまでの法制度では施設として支援に取り組みたくても限界がありました。地域や同じ女性から偏見の眼差しを向けられることもありました。しかし、新法では女性の福祉や回復支援について明文化がされました。多様な関係者や市民と、やっと私たちが『手をつなぐことができる』のが今回の法律なんです」と話します。

 

続いて、アフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美さんが、取組みや現状を語ります。「ゆずりは」は、児童福祉法の社会的養護自立支援拠点事業に依拠し、親や家族などの身近な人を頼れず、子ども時代に虐待等で苦しい思いをした方たちを、年齢や性別、障害の有無などによらずサポートしています。「女性だけが支援対象でない私たちも、今日の議論に加われることを嬉しく思います。ゆずりはで出会う方の中でも特に、幼少期から家庭で性虐待を受けた方たちの、トラウマの強さや苦しみの深さを目の当たりにしています。専門の医療機関も少なく、回復には相当な困難があります。また、こうした方たちを支える、女性相談支援員など女性支援の職に就く人の8割が非常勤であることも問題で、待遇改善が必要です」と語ります。

 

児童福祉法上の社会的養護施設で唯一、親子で一緒に生活できる母子生活支援施設の立場から、「リフレここのえ」の施設長、横井義広さんが語ります。母子生活支援施設の入所理由の半数以上がDV被害であることをふまえ、「入所する母には、①DVによる傷つき②母自身がきちんと育てられていないという傷つき③子どもを産み、離婚したこと等、母に向けられた社会一般の『自己責任論』という傷つきの『3つの傷つき』があります。安心して住める場を提供しつつ、子と母それぞれに寄り添い、生活再建に向け総合的に支援する中で、自分自身で納得できる人生に出会えることをめざしています」と話します。

 

次に、地域の中でDV被害や生活困窮女性の自立支援に取り組むNPO法人「くにたち夢ファーム Jikka(ジッカ)」の責任者である遠藤良子さんは、「DVの被害者支援では、安全のため隠して逃がすことが一般的ですが、被害者が長く逃げ続ける状況に疑問を感じ、“開いた居場所”としてJikkaを運営してきました。DV防止法下での支援の限界も、女性支援法で超えられます」と言います。また、知的障害を持ち、幼少期から家庭で性被害を受け、障害や社会的養護などさまざまな施設を転々とせざるを得なかった、女性として尊重もケアもされてこなかった方の事例を紹介します。「この方はまさに『女性福祉』の対象者だと感じます。『当事者中心』を掲げる女性支援法に沿って、彼女が自分のことを考えられるように、支援しています。さまざまな福祉の現場において、女性支援の理念が実現されるべきです」と語ります。

 

クロストークの一コマ。登壇者の熱い思いに会場の共感が生まれます。

 

それぞれの取組みや想いを受け、今後の“協働”を考える中で、横田さんは「支援対象が違っても抱える背景は共通であり、社会問題と捉えて取り組む必要があります」と言います。横井さんは、緊急一時保護の実施や「東京都妊産婦等生活援助事業Frill(フリル)」の運営もふまえ、「ジェンダーの課題や家庭の中で女性に求められる役割の中に、生きにくさにつながる問題があります。単身か母子か、妊娠中かなどの状態によらず、女性が必要な支援を得られるよう、関係者のより一層の連携が必要です」と認識を語ります。

 

高橋さんは「困難な状況で妊娠した時、まず『妊娠してすみません』と謝らざるを得ない状況は問題です。そうではなく、本人に寄り添える社会にしたいと思います。孤立せず人とつながるための支援が必要だと考えているため、今後、Jikkaさん同様、困難を抱える方が街の人とつながり、支援者も抱え込みすぎない“半開き”のシェルターを開設予定です」と言います。遠藤さんは「多様な背景の方を支援する中では、さまざまな分野の人、行政との協力が欠かせず、そうして私たちもつながりをつくってきました。人間は総合的に生きており、総合的に支援する視点が必要です。一人の当事者が多くの機関をつなげてくれます。女性支援法を使う人たちが、社会を変えていってほしいと思っています」と力強く語りました。

 

現場の想いや取組みを受け、少しずつ新法の理念が萌芽し、社会の変化の兆しが見える中、参加者一人ひとりが今後の協働を考える場となりました。詳細は、 東社協ホームページに公開した、当日の動画をぜひご覧ください。

 

※1) 東社協 児童・女性福祉連絡会… 東社協の会員施設が所属する児童や女性の支援に関わる5つの部会で構成され、情報共有や調査研究、施策提言等を行う連絡会。

※2)リプロダクティブヘルス・ライツ…「生と生殖に関して保障される健康と権利」。1994年にエジプト・カイロで開催された国際人口開発会議で提唱され、発展してきた概念。

取材先
名称
『それぞれの女性支援と、これからの協働』フォーラム
概要
フォーラム動画URL 
※視聴期間 5/8〜6/8

https://www.tcsw.tvac.or.jp/2025-josei_cothink-forum.html
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