土井 京子さん
1995年から点訳ボランティアを開始。
(社福)日本点字図書館所属のボランティアの点訳者として、
これまで61タイトル、約29,000ページの点訳実績がある。
趣味はウォーキング。
あらまし
- 点訳とは活字を点字に訳すこと。視覚障害者の読書の充実を図るために30年以上もの間、ボランティアで点訳に励む土井京子さんに、点訳との出会いやあまり知られていない点訳の世界についてお話いただきました。
広報誌から点訳を知る
点字を知るまでの私は、普通の主婦でした。ある時、住んでいる地域の広報誌に掲載された点字サークルの記事が目に留まり、興味を持ったことが始まりです。さっそくサークルに参加し、点字のいろはを手取り足取り教えてもらい、その面白さに目覚めました。しばらくしてサークルの先生から、「本格的に勉強をしてみないか」と点訳者としての道を勧めていただき、いくつかの団体を教えてもらいました。日本最大の点字図書館の「(社福)日本点字図書館」がボランティアの点訳者を募っていて、養成のための通信講座を開いているということを知り、受講することにしました。
それまでは趣味の一環で楽しみながらやってきたのですが、点訳者を育てる講座だとそうはいきません。課題を提出し、間違いがあったらやり直しになります。わからないことは図書館でとことん調べて挑みました。余談ですが、 点訳の担当の方から添削結果が返送されてきた時に、「このままだと点訳者にはなれませんよ!」との注意が添えられていました。課題提出も時間がかかり、マイペースでやっていましたので、その言葉をいただいて、期待されているんだなと自覚も新たにしたのでした。20数回の課題提出を経て、晴れて点訳者として日本点字図書館に登録となり、今に至ります。
表現できないものはない、点訳の奥深さ
現在は、日本点字図書館から依頼を受けて点訳をしています。担当するのは小説や実用書が多いです。日本点字図書館から原本が送られてくるので、それを3か月~半年かけて点字に訳していきます。 点字は縦3列、横2列の6つの点で構成されていて、この点の組み合わせで文字や記号を表します。 英語や数字、単位、音符なども表現できます。
(提供 :社会福祉法人日本点字図書館)
訳す作業では、読み方を点字で表すので、漢字を正しく読めるかが重要になります。意味が分からない言葉や読めない言葉が出てきたら、とことん調べます。納得できるまで調べつくす作業は、何とも言えない達成感が味わえます。実際の点訳には、パソコンを使います。以前は点字器という点字を打つ道具を使って、紙に直接1点1点打って点訳していましたが、今は一般のキーボードを使って点字データを作るソフトや、完璧ではありませんが、テキストデータを自動的に点訳してくれるソフトなども出てきて、大変便利になりました。 いったん点字データに整えた後 、何度かの見直しを経て、日本点字図書館へ提出するというのが私の作業の流れです。
通常の文字と比べて違う点は、点字は話し言葉のように音で表すこと。たとえば、「私は」の「は」の助詞は、点字では「わたしわ」と訳します。「佐藤さん」は「サトーさん」です。また「分かち書き」といって単語のまとまりごとにスペースを空ける、点字を読むときは凸面(読む面)の左から右へ、点字を書くときは、紙を裏返して右から左へといったように特有のルールがあります。これが点字の難しさでもあり面白さでもあるところです。長くやっていても、まだまだ学ぶことがたくさんあり、奥が深いです。
最近は、さまざまな書物がデジタル化していて、視覚障害者の中にも音声で本を楽しむ方がますます増えてきました。でも、耳で聞くより点字で読みたいという方はまだまだいらっしゃるので、人が手掛ける点訳はなくなることはないと思っています。「必要な人に届くのが一番」と思いながら、日々作業をしています。
点訳で使用する各種テキスト類。
国語辞典や百科事典、人名、医学など
本のジャンルによって専門の辞書にあたることも。
点訳は新しい世界を広げてくれる存在
「誰かのために」といった気持ちよりは、自分が点訳をやっていて楽しいから今まで続けてこられました。以前、私が手がけた本を読んでくれた目の不自由な方から、日本点字図書館を経由して本の感想とお礼をお手紙でいただいたことがありました。その方とは個人的にしばらく手紙のやり取りをしていました。「読んでくれている人がいる。やってきてよかったな」と温かな気持ちになります。
また、自分自身では手に取らないようなジャンルの本の点訳依頼が来ることも多く、読んだらハマってしまった作家さんもいます。ずっと主婦をしていたら知るはずもなかった新しい世界に触れることができるのはありがたいことです。
これまで点訳の世界に長く携わってこられたのは、家族や日本点字図書館をはじめ、いろいろな人の協力やお導きがあったから。無我夢中であっという間でしたが、私の世界を広げてくれた点字には感謝しています。これからも、点訳のボランティアをできるだけ長く続けていければと思っています。
https://www.nittento.or.jp/index.html