左から 社会福祉連携推進法人WTBASE
業務執行理事 事務局長 五箇 忠司さん
社員 三鴨 香奈さん
(〈社福〉ほうえい会 特別養護老人ホーム栄光の杜 施設長)
代表理事 中村 正人さん
(〈社福〉亀鶴会 特別養護老人ホーム神明園 施設長)
社員 小山 雄也さん
(〈社福〉瑞仁会 特別養護老人ホーム良友園 施設長)
社員 窪島 裕也さん
(〈社福〉福信会 特別養護老人ホーム麦久保園 施設長)
あらまし
- 社会構造の変化に伴い、多様化・複合化する福祉ニーズ。地域福祉の中核を担ってきた社会福祉法人もまた、人材不足や物価高、頻発する災害等により、その経営環境は大きく揺れ動いています。そうした社会変化に応じながら、各法人が経営基盤強化を図り、地域の福祉ニーズに応え続けるために求められる法人間の連携。今号では、西多摩地域の4法人が社員として参画し設立した「社会福祉連携推進法人WTBASE」の取組みから、法人連携の今をみていきます。
2025年時点で社会福祉法人の数は2万超えと微増傾向にあるなか、人材不足、人件費や物価高騰等の影響を受け、全体の3割超、とりわけ介護主体の法人の4割が赤字経営を強いられる厳しい状況にあります。社会変化に応じながら、各法人が経営基盤の強化を図り、地域ニーズに応え続けるために大切になってくるのが横のつながり。東京都内でも、福祉人材の確保や育成、災害等非常時の体制整備、地域に向けた取組みなどにおいて、小規模法人による連携をはじめ、各地域の社会福祉法人によるネットワークや都域での業種ごとの部会といった多様な取組みが展開されてきました。
国としても、今年5月の「地域共生社会の在り方検討会議」中間まとめにおいて、法人間連携の重要性を改めて強調。2022年には、法人間の円滑な連携、協働をすすめるしくみとして、「社会福祉連携推進法人制度」が創設されています。同じ目的意識を持つ社会福祉法人等が社員として参画し、新たな法人を設立する制度。それぞれの自主性を保ちながら、連携規模を活かした法人運営が可能になることを意図したものになります。2025年3月末時点では全国で30法人、そのひとつである「WTBASE」は2024年12月に連携推進法人として認可を受けました。
西多摩で生まれた社会福祉連携推進法人WTBASE
西多摩地域で高齢事業を主体とする4つの社会福祉法人(亀鶴会、福信会、ほうえい会、瑞仁会)が社員として参画するWTBASEは、“西多摩から信用ある魅力的な未来に繋がる高齢者福祉を創造する”ことを理念に設立されました。認定されてからわずかですが、設立につながるきっかけはコロナ禍前に遡ります。ともに特別養護老人ホームの施設長である、WTBASE代表理事の中村さんと窪島さんが今後の持続的な施設経営に危機感を覚え、その具体策を模索する中で、社会福祉連携推進法人制度に行き着いたことが始まり。中村さんは当時を振り返り、「将来的にどの施設も老朽化したり、人材面だったりいろいろなところで経費が膨らんでいきます。そうした時に、自分たちが支援において譲れない部分を守りながら、経営を続けていくには今何ができるのか。法人間で合理化できるところは、一緒に考え、取り組んでいくことができたらという思いでした」と話します。続けて窪島さんは、「経営や運営面でどの施設も共通の課題を抱えています。その課題を乗り越えていくには1法人や1施設だと限界があって、結果として取り組めるキャパも決まってきます。連携というかたちでその大枠を広げることで、創意工夫が可能となり、取組みの幅も広がっていくと感じました」と背景に触れます。その後、同じく特養の施設長である小山さんと三鴨さんに声がかかり、2023年度から4法人による協議を開始。2024年6月に一般社団法人を立ち上げ、12月の認可につながりました。
図:WTBASEロゴマーク
ビジョンをともにし、お互いの内情を明かすことから
施設の開設年度も、置かれている状況も似ているという4法人。一方で、もともとゆかりのない4法人がわずかな期間で連携のかたちを築き、それを活かした実践を可能としている理由に、「ビジョンをともにしていること」が挙げられます。設立準備段階から参加法人の管理者層による定例会が月1回以上開かれ、WTBASEの目標や取り組む内容、設立に向けた進捗状況を確認しながら、法人間での意思疎通がしっかりと図られてきました。そうした中で、各法人の内情を共有してきたことも大きかったと中村さんは言い、「合意形成ができていたとしても、法人間で細かい部分をすり合わせていかないと、一歩踏み込んだ取組みを考えることができません。表向きの情報だけじゃわからない、恥ずかしいところも見せ合いながらすすめてきました」と話します。
そうした法人間の調整で大きな役割を担っているのが、WTBASEの専任職員である五箇さん。参画法人の職員が兼任して取り組むケースもあるなか、いずれの法人にも属さない、フラットな立ち位置から各法人に関わる存在は、法人間の連携をすすめていく上で欠かせなかったといいます。
つながることで、本当の課題に取り組んでいける
WTBASEが現在取り組んでいる業務は、社会福祉連携推進法人に求められる6業務のうち、貸付業務を除く、5つの業務(主な内容は下図)になります。
図:WTBASEの主な取組み
そのなかでも、単なる仲の良い施設ではなく、連携というかたちだからこそ一歩踏み込むことができたものに、経営支援業務があります。それぞれが実情を明かすことから、加算算定状況の確認や取得、規程、契約関係の見直しなどが図られ、各法人の経費削減や体制強化につながっていきました。今後は、バラつきが大きい顧問契約を中心に、契約をまとめていくことが課題であるといいます。五箇さんは「複数だからこそ、他法人や、さらには社会一般と比較して変えていくことができます。法人内では当たり前になっていて自施設では変えにくいことも、WTBASEとして取り組んでいければ」と複数法人による連携の重要性に触れます。
また、こうした経営面とともに、連携の効果が発揮されているものとして“人材”への取組みが挙げられ、三鴨さんは「職員体制が厳しくなった時に、連携推進法人に誘われて、アドバイスを受けたり、実際に人も紹介してもらったりして、行き詰まりを感じていたところでとても助かりました。WTBASEに参画したのもそうですが、柔軟性を持って、自分たちも変化していくことが重要」と話します。
人材にまつわる具体的な取組みとしては、外国人材や採用担当などのカテゴリー別の月1回の情報交換会や職種別の研修の実施、他施設への出向など、職員が自施設以外を知ることにつながる取組みが次々と生まれています。小山さんはこうした動きについて、「1法人だと職員が人間関係等を理由に辞めたいと思った時に異動先が限られますが、そんな時に法人間で調整することができれば、その人が福祉で働き続けることができます。また、実際に他施設の業務に入って体験することで、異なる視点を経て自分たちの業務を見直すことができます。ただの近隣施設ではない、この距離感だからこそできる一歩踏み込んだ取組みといえます」と話します。法人間でダブルワークをする職員や、非常時における小規模な職種の体制確保のしくみも模索されるなど、連携により働く人を支える選択肢が広がっています。
将来を見据えながら、今できることにコミットしていく
設立から半年が過ぎるWTBASEですが、今年度はより「人」にフォーカスし、出向による法人間の職員の行き来や、管理者層の採用・育成などに注力していきたいといいます。窪島さんは、「取組みを通じて、職員が自身の強みや可能性を発揮できる機会や、働き続けられる選択肢を生み出していきたいです。『どうやったら働く人を守り切れるか』を常にイメージしながら、課題を口にするだけでなく、アクションをしていきたい」と思いを明かします。最後に、中村さんはWTBASEについて、「前例のない取組みですが、1人じゃなくて、みんなとだから考えていけます。制度上の課題もありますが、誰かがやらないと課題もみえないし、すすんでいきません。私たちの取組みが他法人の糧になることができたら」と話します。
新たな取組みもすでに動きだしているWTBASE。その関係性を大切にしながら、これからも福祉の未来の創造に向けて、前例にとらわれることなく、西多摩地域からチャレンジしていきます。
https://www.wtbase.jp/