“ちょっと休憩”できる場所をつくりたい
西新宿の雑踏の先にひっそりとたたずむ一軒家「れもんハウス」。ここでは、子どもショートステイをはじめとした短期宿泊事業と居場所事業を行っています。
れもんハウスの運営を担う(一社)青草の原代表理事の藤田琴子さんは、母子生活支援施設で社会福祉士として働く中で、子育てに行き詰ってしまう母親を多く見てきたといいます。「母親や子どもが夜、事務所に泣きながら駆け込んできたこともありました。母親は「こうあるべき」という理想と現実のギャップに悩まされていました。入所中だと職員が仲介に入ることができますが、退所後はなかなか難しい。一時保護とまではいかないけれど、親だけでなく子どももクールダウンしたいとき、気軽に休憩できる場所が必要だと思い、れもんハウスをつくりました」と話します。
れもんハウス流ショートステイとは
れもんハウスでは、新宿区が実施する「子どもショートステイ事業」の協力家庭として、福祉関係に限らずさまざまな経験をもつ有志のチームメンバーが子どもを受け入れています。受け入れるチームメンバーはシフト制で複数の大人が関わるため、子どもはさまざまな価値観や多様性に出会うことができます。チームメンバーの個人宅でもなく、施設でもない。多様な大人たちが過ごすれもんハウスでのショートステイは、全国でも珍しいスタイルです。
子どもショートステイ事業のほかに、親子で利用することができる「親子ショートステイ」や、22時までの「トワイライトステイ」、制度に含まれない宿泊なども合わせて「れもん留学」と呼んでいます。
制度を利用しなくても、家族と少し距離を置きたい子どもや親がここに来て、チームメンバーと話をしたり泊まったりすることもあり、そんな柔軟な過ごし方ができるのは、れもんハウスならではだと藤田さんは話します。「ここで知り合った親御さんに夕食に誘われてお宅にお邪魔したり、同じ日に利用していた人同士が意気投合してつながったりと、支援する、されるという関係性があいまいになり、ご近所づきあいのようなゆるく温かなつながりに発展しています」。
もうひとつの事業である居場所事業では、「あなたでアルこと、ともにイルこと」を掲げ、「イルひと」と名付けた10人のメンバーがご飯会をしたり、イベントをしたりと主催者となって場づくりをすすめています。ここで出会った人たちがつながって新たなイベントを主催したり、ショートステイを利用した子どもが親と一緒にイベントに参加するなど、新たなつながりや可能性がここから生まれています。
しんどくなる前に、気軽に利用してほしい
児童虐待相談対応件数が増加の一途をたどる中、子どもたちの一時的な保護所の整備が課題になっています。れもんハウスのようにショートステイもできる地域にひらかれた場所があったら、虐待を未然に防ぎ、安心して子育てができるのではないかと藤田さんは力説します。「子どものショートステイの認知度はまだまだ高くありません。高齢者のショートステイのように『使うことが当たり前』となり、本当にしんどくなる前に気軽に使える制度であってほしいです。そのために、れもんハウスのような多様な受け皿が地域にもっと増えたらいいなと思います。これまでの受け入れの中で蓄積されたノウハウがあるので、別の地域でもれもんハウス流のショートステイを広めていけたら。そのための仕掛けもいろいろと考えていきたい」と藤田さんは語ります。
子どもも親も、誰もが羽を休め、新たなつながりを生む場所として、れもんハウスはこれからも訪れた人を温かく迎え入れます。
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