社会福祉法人友興会 児童養護施設クリスマス・ヴィレッジ
主任・心理療法担当職員/公認心理師・臨床心理士・社会福祉士
長澤 克樹 さん
あらまし
- 児童養護施設で心理職として働く長澤克樹さんに、子どもの心と向き合う際に大切にしていることや、主任として組織への想いなどをお聞きしました。
大学では心理や福祉など幅広い分野を学ぶ
私が中学生くらいのころ、少年による凶悪犯罪が立て続けに起きた時代で「自分と同じくらいの年の子が、なぜそんな事件を起こすのか」と疑問に感じていました。それから人の内面や心に対して関心を持ち始め、大学では臨床心理学のゼミに入って心理を学びました。同時に、人の役にも立ちたいと思っていたので、児童福祉の分野も学びながら、臨床心理学系の大学院に入り、2009年にクリスマス・ヴィレッジに心理職として入職しました。
生活をともにして子どもの心を理解していく
児童養護施設では、子どもの背景や生活する姿などをしっかり理解した上で、衣食住の基本的な生活を支えながら、日々の何気ない温かな関わりを積み重ねていきます。加えて、個々の子どもに必要な心理的なケアを盛り込みながら、一人ひとりの自立支援計画書をつくっていきます。実際に子どもを支援するのは生活をともにするケアワーカーですが、心理職だからといって心理室に閉じこもっているわけではなく、生活場面で子どもと一緒に遊んだり、食事をしたりしながら子どもの状態の理解に努め、ケアワーカーとともに子どもを支えています。
また、日々の生活の中で子どもの気持ちをダイレクトに受けとめているケアワーカーを黒子のように支えることも大事な姿勢です。生活をする中で、時に暴言を吐いたり、望ましくない行動を起こしたりしてしまう子どももいます。暴力や暴言は許されないことですが、そうせざるを得ない何かが子どもの中にあるのです。「何がそのような行動を引き起こしているのか」「心の内はどうなっているのか」を冷静にアセスメントし、生活の場で実践的にどう関わればいいのかをケアワーカーと一緒に考えて、時にアドバイスしています。生活の中に入っていき、子どもの声に耳を傾け、ケアワーカーとコミュニケーションを取りながら同じ目標を持って子どもを支える心理士でありたいという想いは、常に持ち続けています。
子どもへのきめ細やかな対応の必要性
少し前の話ですが、施設で暮らす高校生の子が私に話してくれたことがあります。その子は、どちらかというと手のかからない子でした。「職員のみんなは私のことを優秀というけれど、そんなことはない。そうやって決めつけられるのは嫌だ」と。それを聞いてハッとしたことを覚えています。集団生活の場では、手がかかる子、かからない子がいて、支援する側は毎日忙しくどうしても手がかかる子に目が行きがちです。「あの子はこうだから」と固定化した見方をしてしまうこともあります。その子が本当はどう思っているのか、子どもの小さな声や変化をキャッチできるようにしっかりアンテナを張らなければならないと気づかされました。
「葛藤力」を持ち続けながら支援していく
心理士の仕事のほか、心理士や自立支援担当職員、里親支援専門相談員などの専門職で構成される部署と、幼児と小学校低学年の子どもたちが生活するグループホームの主任としての仕事もしています。最近は、心理職の実務よりもこちらの方が多くを占めています。一人ひとりの子どもの自立支援計画書の進捗確認やファミリーソーシャルワーク(※)などを担当しています。職員から相談を受けたり、助言したりしながら、職員をエンパワーメントして生き生きと働ける環境づくりをめざしています。職員が元気でいることが、巡り巡って子どもへのいい支援につながると思うので、心理職としても主任としても共通する大事な部分です。
児童養護施設の子どもたちへの支援は、すぐに結果が出るわけではありません。自分たちが行った支援が必ずしも功を奏すかは分かりませんし、結果が目に見えてわかるわけでもありません。大学時代の恩師から言われて今も大切にしているのが「心理士として、悩まなくなったらおしまい。悩み続けられる力=葛藤力を持て」という言葉です。その言葉のとおり、常に悩み、葛藤しながらここまで来ました。とはいいながらも前向きに、ユーモアを持って子どもたちと接することも大切です。悩み続けられるしなやかさとバランス感覚を持ち、楽しみながら子どもたちと関わることが専門職として求められる姿勢なのかなと思っています。
クリスマス・ヴィレッジの理念は「子ども時代をかけがえのない大切なものと考え、一人ひとりの子どもが『愛されている』という実感を持てる関わりを追究していく」です。ここではアフターケアにも力を入れていて、子どもが卒園してもつながりを持ち続け、生活や自立を見守っています。ほぼ毎日のように卒業生が顔を見せに来てくれて、私たちもとても嬉しいです。これからも「ここで育ってよかった」と思ってもらえる施設をめざして、心理職としても主任としても成長し続けたいです。
(※)児童養護施設で暮らす子どもの家族に対して、相談や援助を行うこと
https://yukokai.or.jp/christmasvillage/