あらまし
- 昨今、社会全体で若者を支援していく必要性が認識され、さまざまな制度設計や団体による支援の幅も広がっています。
そんな子どもや若者に長年寄り添い続けてきた2つの団体の取組みから、活動するなかで見えてきた若者の変化、自立にむけて求められることを考えます。
活動を通じて見えた若者の変化
東京都は、この3月に「東京都社会的養育推進計画(2025-2029)」を策定しました(以下一部抜粋)。
東京都社会的養育推進計画(2025-2029)について ▶︎「新しい社会的養育ビジョン」に基づき策定 ▶︎目標6に「社会的養護のもとで育つ子供たちの自立支援」を設定 ▶︎具体的な取組みとして「社会的養護自立支援拠点事業(以下、「拠点事業」という)」の拡充を計画 |
今年度拠点事業の補助事業者として決定を受けた団体のひとつである『(特非)日向ぼっこ』は2006年に発足。社会的養護の当事者参加推進団体としての活動を皮切りに、今ではさまざまな背景をもつ若者に向けた活動を行っています。具体的には、居場所事業、相談事業、発信事業の3つを柱とし、若者たちが交流する場や相談できる機会づくりをすすめてきました。
日向ぼっこにつながる若者の多くが児童養護施設や児童相談所などの関係機関からの紹介とのこと。活動を始めて約20年、この間関わってきた若者の変化について、スタッフの木本ゆうさんは次のように話します。「やはり社会状況の変化は大きいですよね。例えば就職にあたってはコミュニケーション力が求められ、SNSを見ると“コミュ力がある”人が目につくようです。『こんな風にならないと』と思ってしまう一方で、若者自身の意思が感じられないなとも思います。自分で決めるという経験も乏しく、若者の欲求が分かりづらくなっていると感じます」。
また、社会的養護経験者は施設環境や制度の充実により、「衣食住が満たされ頼れる施設職員がいる、そんな安心感からか『施設を出ることに不安がある』と感じているかもしれません」とスタッフのAさんは言います。
拠点事業を活用したさらなる活動への展望
日向ぼっこは、発足当初に掲げていた“社会的養護の当事者団体”の看板を2013年に下ろし、当事者も含め「多様性が尊重される社会の実現」をめざす方向に舵を切りました。これまで大切にしてきた「本人の意思の尊重と一人で抱え込まないこと」に通じる文言が法改正の趣旨などにみられるようになり、自分たちのすすみ方が間違っていなかったと感じると話します。そして若者が自立に向かっていくためにこれからも大切にしていきたいことのひとつとして、さまざまな関係機関や専門職との連携・協働を挙げます。若者が頼れる先が自団体以外にもあること、これにより閉じた関係にならないことが重要だと言います。今後は拠点事業を活用した一時避難的かつ短期間の居場所提供も視野に入れているとのこと。「このような場所を必要としている若者は多くいます。これまでの取組みを継続しながら事業の枠組みをうまく活用してつながりをどう維持していけるか考え続けたい」と2人は展望を語ります。
子どもシェルターの設立から拡大へ
こども家庭庁では2024年度に新たに「こども若者シェルター・相談支援事業」を立ち上げました。この事業は、親からの虐待等に苦しみ、家庭等に居場所がない若者への居場所の提供や各種支援を行うことを想定しています。一時保護や施設入所等を望まない、あるいは年齢により対象とならない若者の受け皿となります。「第3期東京都子供・若者計画」においては社会的自立に困難を有する子供・若者やその家族への支援のひとつとして本事業を掲げており、一時的に身の安全を確保できる場が増えるのではと期待されています。
この事業の創設前から東京都内で子どもシェルターを運営している『(社福)カリヨン子どもセンター』は、2004年に特定非営利活動法人として設立し、全国で初めて子どもシェルターを開設しました(その後法人格を変更)。開設の経緯を理事で弁護士の馬渕泰至(まぶちやすし)さんは次のように振り返ります。「子どもたちからの相談を受ける窓口として、1985年に東京弁護士会・子どもの人権救済センターが開かれました。さまざまな事情で家に帰れない子どもたちの声を聞くなかで、『もっと受け皿がないと支援が続かない』ことに気づきました。さまざまな分野の支援者らの思いも重なり、シェルターをつくる機運が高まっていったと思います」。2011年には「子どもシェルター全国ネットワーク会議」を発足させ、現在約20団体が正会員として活動しています。
羽休めをして次にすすむにあたって
「家や繁華街に居続けて怖い思いをしないように準備をして入居する子もいますが、『今日行く場所がない』という子も多いですね」と話すのは子どもシェルターのスタッフのBさん。「子どもたちの安全を守るため、入居にあたってはある程度のルールや制限を設けています。シェルターの方針を理解したうえで今後の生活をどうしていきたいかという目標がない子は、入居しても長続きしづらいです。また、入居期間をおおむね2か月以内としているため、わたしたちができることも限られます。その期間でそれぞれの状況を理解し、シェルター退居後の支援先等につなげています」と、シェルターが果たす役割を話します。
「こども若者シェルター・相談支援事業」について2人は、「私たちのシェルターは児童自立生活援助事業の一類型として運営しています。すべての子どもに『子ども担当弁護士』をつけ、関係機関と連携しながら支援しています。今回の事業創設でより多くの子ども・若者の受け皿が増える可能性があることを期待したいです。これまで支援につながらなかった子にもシェルターを知ってもらうきっかけになればと思います。とはいえ、シェルターの運営は安定した財源や継続的なスタッフの関わりが求められますので、今後の事業の展開については注視していきたいです」と話します。
また、Bさんはシェルターを利用する子どもたちについて、「以前は多くの子が『早く大人になりたい、自由になりたい』と話していましたが、今は大人になるのが不安な様子です」と言います。家を出たいけど友人と同じように進学したいと話す子もいて、進学に関する情報や制度を調べることも増えてきたと感じています。本人の意思を尊重し、現実との折り合いをつけながら自立に向けてどうすすむのか、シェルターにいる間に本人の意向を確認しながら整理していく支援をしています。
自立に向けた一歩を踏み出すために
両団体の話から共通して見えてきたのは、“与えられた環境以上に希望を抱きづらい”、そして“周りと同じであることを必要以上に気にする”若者の様子です。不安や悩みを抱えながらも自分の生き方を自分で決められること、その一歩一歩が自立につながっていくこと。そんな経験ができる機会を増やすことが求められています。そして子ども・若者のみなさんには、今回ご紹介したような団体に遠慮なく頼りながら自分の生き方を自分で決めることにチャレンジしてほしいと思います。
2019年に日向ぼっこに取材した様子をふくし実践事例ポータルに掲載しています。
https://hinatabokko2006.com/
(社福)カリヨン子どもセンター
https://carillon-cc.or.jp/