社会福祉法人 聖オディリアホーム 聖オディリアホーム乳児院
心理士 戸田 尭裕さん
あらまし
- 心理職として働く戸田尭裕さんに、乳児院での仕事を選んだきっかけ、日々の仕事の喜びや葛藤などについてお話を伺いました。
思春期・成人期から児童、そして乳幼児の道へ
大学・大学院では、思春期・成人期の方とのカウンセリングを主に学んでいたのですが、大学院の時に経験した子どものセラピーをきっかけに「もしかすると子どもの領域も面白いかもしれない」と興味を持ちました。その経験から大学院卒業後は教育相談所で働きました。そこでは小・中学生とその保護者に関わることが多く、対象児童を理解するためには早期の母子関係や幼少期の育ちを知ることが重要視されていました。自分の中で「幼少期の育ちはそんなに大事なのか。もう少し勉強した方がいいかもしれない」と感じていました。ちょうどその頃、大学時代の先輩に乳児院での仕事を紹介してもらい、乳児院なら子どものこころの発達を学べるのではと思い、教育相談所を辞めて新しい領域に踏み込んでみました。また、今の施設で働きはじめたとき、いくつかの病院でも働いていて、そこでは思春期・成人期のクライエントを対象としていました。そこで出会うクライエントのなかには、家庭環境に問題があったり経済的に厳しかったりと、幼少期に大変な経験をしている人が少なからずいました。乳児院にもさまざまな背景で入所する子どもがいますが、その子たちが将来困らないように、できることをやれたら、そう思ったのが乳児院で仕事を続けようと思ったきっかけの一つです。
乳児院ならではの子どもとの関わり方
思春期・成人期と違い、言葉でのコミュニケーションが難しい乳幼児に対しては、じっと観察したり、目線の合いやすさや抱っこをしたときの身体の硬さ、遊び方や大人との関わり方を見たりしています。散歩について行って、公園で遊ぶところを見たり、歩行がどの程度安定しているか観察することも。赤ちゃんも3~4か月になると、しっかり大人を意識してきます。アイコンタクトを取ることでどれくらい大人を信用しているか、どれくらいコミュニケーションが取りやすい子かを観察します。その上で一人ひとりの特徴を職員と共有し、「この子にはこんな特徴があるから、こういう風に関わっていくといいかもしれません」など、関わり方の助言をすることがあります。
なかには、退所後に遊びに来てくれる子や保護者の方がいます。中学校にあがったと報告してくれる子や、小さい時に自分がどんな所で過ごしていたかを知りたくて訪ねてくる子も。その子の成長を感じる瞬間で、職員も交えて当時の思い出話ができるのが嬉しいです。一緒に振り返ることがその子の人生の役に立てばいいなと思います。
他にも印象に残っているエピソードがあります。私が子どもたちを観察する時、後ろで腕を組んで歩いていることがあるのですが、ある時2歳ぐらいの子どもたちの間でその姿を真似て歩く「戸田さんの真似」が流行ったことがあります。私の方が子どもたちを見ているつもりでも、子どもたちも大人をよく見ているんだなと感じた出来事でした。
悩むことがあっても、信頼できる先輩がいるから頑張れる
さまざまな事情を持つお子さんが入所しますし、そのなかで難しいこともたくさんあります。この子に対して何ができるだろう、その子へのいい支援方法がなかなか思い浮かばない……。そんな考えが頭をよぎることもあります。
悩みや迷いが多い仕事ですが、とても信頼している大学時代の先輩と一緒に働けていることが、仕事へのモチベーションにつながっています。相談しやすく、自分が気づけなかったことを教えてもらっています。一緒に働いているとたくさんの学びがあり、自分の支えにもなっています。
今後のキャリアについて、明確なビジョンがあるわけではないのですが、乳児院という施設のことや、ここで生活している子どもたちがいるということをもっと多くの人に知ってもらえたら嬉しいです。
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