れもんさん
子どもの立場から伝えたい。つながることの大切さ
NEW 掲載日:2025年10月8日
2025年10月号 くらし今ひと

れもんさん

母親の双極性障害発症を機に不登校に。生きづらさを抱えながらも、社会福祉士、精神保健福祉士の資格を取得し、現在は精神科病院で働く。

 

あらまし

  • 精神疾患のある親に育てられた子どもとして、思春期を過ごしたれもんさん。れもんさんのこれまでをふり返り、現在の活動や社会に願うことなどを伺いました。

 

母親の発症を機に不登校に

母が双極性障害です。私が中学1年生の時に発症しました。それまで、教員の父と教育熱心で責任感の強い母、双子の妹と、ごく普通の生活を送っていました。母の異変に気付いたのは、薬のオーバードーズによる自殺未遂を起こしてからです。すぐに救急搬送され、双極性障害と診断されました。きっと私たち姉妹の中学受験などのストレスや心労が重なって限界だったのだろうなと、今は思います。

 

双極性障害は、気分が高揚する「躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す病気です。特に「躁(そう)状態」の母と一緒に生活することは、とてもしんどかったです。1日に何百万と買い物をしたり、暴言を吐いたり一日中しゃべっていたり。診断を受けてしばらくの間は、母が双極性障害という病気だということを、父は私たち姉妹への心理的不安を心配し、教えてくれませんでした。子どもに心配をかけまいと気遣ってのことだと思いますが、当時は私のせいだと自分を責め続けました。次第に家にいることが苦痛になり、学校に行っても授業に集中できず、中2から不登校に、そして高校も2度、中退しました。

 

私が18歳の頃、母の病状が悪化したことで私のメンタルが限界を迎え、精神科に入院します。ある日、病院のベッドでテレビを見ていると、東日本大震災のニュースが流れてきました。その惨状を見て「私より大変な思いをしている人がたくさんいる」と考えたことをきっかけに、療養しながら高卒認定試験を受け、医療系の短期大学に合格。その後、大学に編入して社会福祉士と精神保健福祉士の資格を取得しました。今は、精神科病院で精神保健福祉士として働いています。

 

短大・大学時代は、とても人に恵まれたと思います。友達や先生にたくさん助けてもらいました。中学・高校とずっと不登校で体力が落ちていたこともあり、入学当初は休みがちだったのですが、友達や先生の協力や励ましもあり、少しずつ登校できるようになりました。部活にも入部してだんだんと体力もつくようになると、活力も湧いてきて、充実した学生生活を送ることができました。ようやく“自分の時計”が動き始めた、そんな感じがしました。

 

「こどもぴあ」との出会い

精神科で働いていると、いろいろな患者さんや家族と出会います。自分の過去を思い出してつらくなることもありますが、大変なのは私だけではないと共感しながら、あの頃の自分が救われたような気持ちになることもあります。精神疾患を持つ親に育てられた子どもであった私が、今こうやって支援者として患者さんやその家族の回復に立ち会えることにも強くやりがいを感じています。

 

働き始めてしばらくして、妹が立ち上げに関わったことから「こどもぴあ」の存在を知りました。「こどもぴあ」は精神疾患をもつ親に育てられた子どもたちが出会う場で、東京に本部があり、家族学習会や自らの悩みや苦労を語る「つどい」などを開いています。初めて「つどい」に参加した時、つながることの大切さを実感しました。「つどい」で出会った人たちと話していると、私の経験を超えるエピソードがあったり、「うちも!」と共感してもらえたり、当時はつらくて誰にも話せなかったことも、同じ当事者同士なら笑い話にもできる。場に一体感のようなものが芽生え、「こどもぴあ」に出会えて本当に良かったです。

 

「こどもぴあ」に参加したことで、私と同じような経験をした人ともっと近くでつながれたらいいなと思い、支部を立ち上げました。当事者同士がつどう場だけでなく、精神疾患についての学習会や啓発活動など、多様な活動を細く、長く続けていけたらと思っています。

 

「知りたい」気持ちに寄り添ってほしい

「子どもの権利条約」に則って、子どもが親の病気について知る権利や聞く権利が保障される社会になってほしいです。父に母の病気を隠されたことで自分を責め、悔やみましたし、どんな病気だったか知っていれば、母への対応も変わっていたのではないかと思わざるを得ません。子どもは親の状況に敏感ですし、自分に関連付けて考えてしまう傾向があります。そうならないためにも、子どもにもわかるようにきちんと疾患について説明する義務が社会や大人にはありますし、いつでも相談や質問ができる機会が保障されていれば、子どものメンタルヘルス不調が防げたり、和らげたりする可能性が高まるのではないでしょうか。

 

病気の啓発や福祉教育もとても重要だと思っています。子どもや若い世代で精神疾患を発症する割合は年々増えています。精神疾患に対する偏見もまだまだあります。小中学校の義務教育のころからみんな等しく、精神疾患や支援などについて知る、学べる機会があったら理解がすすむと思うのです。できれば、当事者に出会う機会もあればいいなと考え、おととしから勤務先の精神疾患を発症した患者さんに協力いただき、精神科医と一緒に母校の中学校へ行き、その方の経験や体験談を話す授業を行っています。これからも、当事者の一人として社会に発信できる機会を、無理なく続けていきたいと思っています。

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