上智大学学生サークル wel-bee
(左から)高田 翼咲(つばさ)さん、鎌田 直樹(なおゆき)さん、代表 前田 一葉(かずは)さん
あらまし
- 子ども・若者にとって“福祉”が身近な存在であるためには―。そうした問いを考える本連載の第2回では、「福祉を“みんなごと”にしたい」と学生の視点から同世代に向けて福祉を発信する上智大学のサークル「wel-bee(ウェルビー)」を取材しました。
「オシャレに楽しく福祉を発信 学生による学生のための福祉メディア」を掲げる上智大学の学生サークル「wel-bee」は、webメディア、フリーペーパー、SNSを通して、若者に向けて福祉の幅広い情報を発信しています。2010年から始まった本サークルは一度廃部になったものの、2022年に現代表の前田一葉さんにより復活。現在では、社会福祉系の学部以外からもさまざまな学部や他大学のメンバーが参加しています。

それぞれの媒体には、福祉や福祉と交わる仕事で働く人たちへのインタビュー、社会福祉法人が運営するおしゃれなカフェに「行ってみた」体験レポート、「一ヶ月手話チャレンジ」など興味をひくタイトルと写真が並びます。
「福祉はある特定の対象のためのことで、自分とは関係ないと考えられてしまいがちですが、wel-beeは福祉をみんなに関係があり、みんなで意識していく『みんなごと』だと考えています。なのであえて福祉に関係なさそうな見た目やコンテンツを考え、興味のない学生にも関心を持ってもらうことをめざしています」と前田さんは話します。
そうしたビジョンに共感し参加しているメンバーにとって福祉が「みんなごと」になったきっかけはそれぞれ。今年の4月から加入している高田翼咲さんは、高校のSDGs活動で学習支援などの活動に取り組む地域の人に話を聞いたこと、前田さんは、マンションで一緒にラジオ体操をしていた高齢の方たちが心身の不調をよく訴えていたことが気になったことだといいます。また鎌田直樹さんは「体調を崩し、一度大学を退学しました。その経験の中で福祉が自分ごとになり、みんなの根本にあることなんだと思うようになりました」と振り返ります。
若者に福祉との出会いを届けるために
高田さんは「福祉を学んでいない友達と話していると、『福祉=力仕事・低賃金』といった固定観念があると感じます」と話します。自分たちは福祉を身近に感じていても、周りの若者はそうではない。そうした状況を変えるために、「自発的に調べないと情報を得にくいwebメディアだけでなく、偶然手に取れるフリーペーパーも発行しています」と前田さん。また、知るハードルを下げるべく「福祉×身近なもの」で知ってもらおうという意識も。例えばある記事では、かわいい犬の写真に惹かれて読み始めると、福祉分野で取り入れられているドッグセラピーがどのようなもので、何が課題なのか、と次第に興味が湧いていく構成になっています。
さらに、大人が運営する福祉メディアとの差別化を図る意味でも、「学生ならではの目線で発信する」「自分たちが体験する」ことも大切にされています。その際に、さまざまな学科のメンバーがいることも強みになっています。理系のメンバーが「福祉×DX」をテーマに取材で鋭い質問をしたり、食べることが好きな栄養学科のメンバーの発案で福祉事業所で作られている食べ物を取材しに行ったり。そんなwel-beeの発信を「高校生のときから知っていた」と入部してくれる学生もいるそうで、同年代の多様なメンバーたちそれぞれの関心や「好き」にもとづいた体験と発信が、若者にとっての手の届きやすさにつながっているようです。
大学構内のラックやイベントを通じて配布されるフリーペーパー。
表紙には「何だろう」と思わず手に取りたくなるキャッチーな
見出しが散りばめられている
同世代の若者に向けて
インターネットを通じていろいろな情報が手に入るようになった現代ですが、実際の体験を通して他者を知ることができる機会は限られています。wel-beeの3人は、そんな今だからこそ、同世代や年下の若者に大切にしてほしいことを次のように語ります。
「大学に入るまで障害のある人と関わったこともなく、福祉も全然身近ではありませんでした。高校生のときは特に進学校などでは勉強漬けになりがちですが、いろんな人と出会ったり、いろんな経験をすることが大事かなと思います」と高田さん。前田さんは「『こういう人がいる』とニュースで見て知っていても、背景を知らないと『その人がリアルな人間として実在している肌触り』は感じにくい。関心をもったらちょっと踏み込んで調べてみるといいかも」といいます。
また、「みんな生き急いでいる感じがあるなって思います。『普通』というレールに当てはめすぎると苦しくなるけれど、たとえばひきこもりの背景に障害や介護・貧困など想像しにくいものもあるように、現実にはいろんな人がいて、表面からは見えないいろんな背景や価値観、生き方があります。そう考えると、“自分も今これが苦しいけど、焦らずゆっくりいこう”という気持ちになれるのでは。自分を大切にしてほしいです」と鎌田さんは思いを明かします。

若者に福祉を身近に感じてもらうには——。3人の言葉から、若者が身の周りの他者や出来事に一歩深く関われたり、自分も他者も大切にしようと思える環境づくりの重要さに改めて気づかされます。それぞれの想いを胸に、wel-beeでは若者が「福祉っておもしろいかも」「自分ごとなのかも」と思えるきっかけを、これからも届けていきます。
https://wel-bee.com/








