あらまし
- 2025年は東京都内で複数の災害が発生した年でした。
今後東京でもさまざまな災害が起きることが想定されるなか、災害が起きた後の被災者の「いのち」と「くらし」を守るため、福祉施設・事業者、民生委員、ボランティア・NPO関係者、そして社協は何ができるのか、昨年の災害への取組みから振り返ります。
声を出すことが困難な被災者がいる
近年、災害関連死(以下、「関連死」)がクローズアップされています。東日本大震災では3,800人を超える関連死が発生し、2004年新潟県中越地震や2016年熊本地震、2024年能登半島地震では、直接死を圧倒的に上回る関連死が確認されています。助かった「いのち」がその後の対応によって亡くなってしまうこの事実は、福祉関係者にとって、市民の「いのち」と「くらし」を守れなかったという意味で非常に重く受け止めなければなりません。
被災地支援の関係者の中では、関連死を防ぐための方法の一つに「声を出すことが難しい方々へのアプローチ」が指摘されています。
9月:23区南部地域での豪雨災害
9月11日に23区南部地域を中心とした大雨により、世田谷区、品川区、大田区、目黒区等にて浸水被害が発生しました。短時間豪雨のためか、少し窪んだ場所や半地下のある家などに及んだ被害が見えにくい災害となったのが大きな特徴です。また、浸水被害は福祉施設にも及び、介護サービスの提供に支障がでたケースもありました。
この豪雨災害では、世田谷区、大田区でボランティアによる被災者支援活動が行われました。災害ボランティアセンターが常設化されている(社福)世田谷ボランティア協会では、行政の地域窓口であるまちづくりセンターと連携し、まちづくりセンターから罹災証明書の申請があった地域を教えてもらい、そこに災害ボランティアセンターがアウトリーチして被災状況や困りごとを把握していきました。地域住民からは「罹災証明書がないと支援が受けられないなんて初めて知った」「ボランティアが助けてくれるなんて思いもしなかった」などの声が聞かれたといいます。世田谷ボランティア協会の松下洋章さんは「こうした災害では、福祉サービス支援が普段から入っていない世帯が埋もれてしまう可能性があるので、できるだけ被災者に近いところで情報を把握することが重要だった」と振り返ります。
また、隣接する大田区では、行政が被害の最も大きかった東雪谷地区内に出張窓口(簡易テント)を設け、住民からの相談にあたっていました。社会福祉協議会でも被災者の支援活動を行うため、行政のテント内に席を設け、被災者からの困りごとを地域福祉コーディネーターがアウトリーチして聞き取りました。被災者からは「罹災証明のことで区役所に行かなければならないことを知らなかった」という声や「隣近所で対応するので大丈夫」という支援を遠慮する声も聞かれました。(社福)大田区社協の廣瀬元気さんは「ウェブサイトに載せていた電話番号にはほとんど電話がなかったが、現場に出ると住民から助けてほしいという声が多く入った」と話します。
別の区では「区の消毒業者」を名乗る不審な訪問もありました。被災者が孤立し、情報が分からない中で、詐欺被害にあわないよう、福祉専門職や行政、社協、地域住民、ボランティア等が連携し、被災者の状況を把握していくことが求められます。
出張窓口のようす
10月:八丈島での台風災害
台風22号・23号により八丈島では大きな被害が発生しました。家屋被害は11月20日時点で表のとおりとなっています。風による家屋の損壊、末吉地区の土砂災害などで当初は約200名の避難者が発生したほか、複数の浄水場が被災したことから、島内の多くが断水となり、島民は厳しい避難生活を強いられました。
(社福)八丈町社協では、被災者を支援するため10月15日に八丈島ささえあいセンター「あすなろ」を設置し、自力で水を確保することが難しい世帯に対し、ボランティアとともに給水場所から水を運ぶ活動を始めました。家屋等に損壊がなくても、慣れ親しんだ島の姿が変わったことによる“精神的な被災”が心配とあすなろでは考え、島民一人ひとりが「何かできることを」と、島民同士の支え合いに向けて提案した活動でもありました。また、島内の福祉施設・事業者とも連絡会議を開催し、現状や課題を共有。職員が施設での業務をいったん中止して在宅で福祉サービスを受けている人に水を届けていたものを、あすなろと連携し、ボランティアが届ける取組みも行われました。
あすなろでは、二次避難先のホテルで暮らす避難者や在宅避難生活を送る方を対象に、サロン活動も実施しています。サロンの参加者からは「これからのことを考えると、ひとりでどうしてよいかわからず、頭がおかしくなりそうだった」「少し話しただけでも気が晴れた」といった声が聞かれています。一見、緊急性がないように見えますが、こうした声に寄り添っていくことが孤立・孤独の解消、ひいては自死や関連死の防止につながります。民生委員からは「『他の人を支援してあげて』と自分の支援を遠慮する高齢者がいる」との声も入りました。
11月17日からはDWAT*が八丈島での活動を開始し、八丈町役場で把握している罹災証明発行世帯の情報をもとに個別世帯を訪問して生活・介護ニーズの聞き取りをしました。DWATの取組みについても、社協と同じ場所に事務拠点を置くように調整し、毎日、社協、役場、保健所と情報共有を行いながら、取組みをすすめました。
| 分類 | 件数 |
| 全壊 | 18 |
| 大規模半壊 | 10 |
| 中規模半壊 | 26 |
| 半壊 | 21 |
| 準半壊 | 78 |
| 一部損壊 | 435 |
八丈島 台風22号・23号 家屋被害情報(11/20時点)

被災者の近くに行き「声」を聞く
両災害から分かることは、災害時には、さまざまな事情から、声を出せない/出さない人が多くいるということです。支援制度を知らない、他人への遠慮、あきらめなど、さまざまな要因があります。このような声を出せない被災者がそのまま放っておかれると、必要な支援を受けられず、場合によっては関連死につながってしまう恐れがあります。
そうならないために、あすなろで取り組んでいるサロンのような被災者と会う場づくりや世田谷区や大田区で取り組んだアウトリーチを行い、被災者の近くに行き、暮らしの様子や困りごとを聞くことが求められます。
多様な関係者との連携・協働
被災者の近くで声を聞くためには、平時からの行政・多様な関係者との連携・協働のしくみが欠かせません。また、被災者の近くに行くためには被災者の所在を把握することが重要です。罹災証明書のデータや避難行動要支援者名簿といった個人情報を共有できるしくみを、行政と連携し災害が起きる前に作っておくことが求められます。
もう一つは多様な団体との連携です。八丈島でも、福祉専門職はリスクの高い方々への支援に専念せざるを得ない中で、福祉関係団体で情報を共有し、地域住民やボランティア・NPOが給水活動や物資配布、サロン活動などを行い、協働による要配慮者支援につながりました。このように関係者が信頼関係をもって連携できるネットワークを平時から構築することが求められます。
今後、想定される大規模災害での関連死を減らすために、 東社協では関係部署による情報共有の場を設ける取組みをスタートしました。今後、部署間での連携をさらに深め、各地域・広域において、福祉施設・事業所、専門家、民生委員、ボランティア・NPO、社協、当事者等が平時から連携できる取組みを提案していきます。
* DWAT(災害派遣福祉チーム)…昨年7月に災害救助法のメニューに新たに位置づけられた「福祉サービスの提供」の具体的な支援の1つ。複数の福祉専門職がチームになって被災地に派遣される。








