あらまし
- 今年度、東京都福祉人材センター研修室(以下、研修室)では、「多様な人材が働きやすい職場づくり研修~知ることからはじめよう外国人、LGBTQのこと~」(東京都委託事業)を実施しました。
「誰もが働きやすい職場」とは何か、福祉施設・事業所における課題や受講者の声から見えてきたものをお伝えします。
研修実施の背景とねらい
近年、職場のダイバーシティ推進に向けたさまざまな取組みが広がっています。特に、福祉・介護職場では従前より人材不足が大きな課題となっており、多様な人材を確保するとともに職員の定着率を高めることが喫緊の課題となっています。
こうした状況を踏まえ、「令和7~11年度 東社協中期計画」で掲げている取組みの柱の一つ、『福祉で働く人と支える組織づくり』に基づき、本研修を企画しました。同計画では、その具体的な方向性として『多様な福祉人材の確保・育成・定着支援』を示しています。なお、本研修は、毎年研修室にて、時流や現場ニーズに応じて職員の定着に資するテーマを設定する「採用力強化等研修(東京都委託事業)」を活用して実施しました。
本研修では、多様な人材の中でも、外国人材とLGBTQの二つに焦点を当てました。その理由の一つは、福祉・介護現場において、外国人職員の採用がすすむ一方で、文化や言語、価値観の違いへの戸惑いや対応の難しさが現場から多く聞かれているためです。LGBTQの当事者は、日本国内に約10%いると言われているものの、見た目や言動だけではわかりにくいことが多く、職場ではその存在を前提とした配慮がなされにくい現状があります。そうしたことから当事者の働きづらさや心理的負担につながることが指摘されています。
実はどちらも身近なテーマである一方、正しい知識習得や理解促進の機会が十分とは言えない現状がある中で、無意識の思い込みや何気ない言動が、当事者の働きづらさにつながってしまうケースも少なくありません。
また、今回の研修は、知識がないことを理由に受講のハードルを感じてほしくないという思いから、研修のサブタイトルを「知ることからはじめよう」としました。まずは気軽に参加し、多様性について知ることの第一歩としていただきたいと考えました。
研修内容の紹介
第1部は「外国人介護従事者の受け入れについて」として、一般社団法人 kaigoと日本語つむぎの会 代表理事の羽生隆司さんから制度や受け入れの背景・全体像を、また同会理事の中野玲子さんからは現場での具体的な課題や多文化共生等の視点での講義をいただきました。
羽生さんは、施設長を務めていた特別養護老人ホームにおいて、2005年に初めて外国人材を採用して以来、約20年間で12か国に及ぶ外国人職員の受け入れに携わってきました。定年退職後には「kaigoと日本語つむぎの会」を設立し、現在は介護に特化した日本語教育支援などに取り組んでいます。講義では、人口動態や在留資格制度の解説を通して、外国人介護職員受け入れの背景を理解するとともに、採用から就労・生活支援、マネジメントのポイントまで、近年の外国人介護従事者の受け入れを取り巻く制度や環境等の概要について学びました。
続いて、同会や地域で外国人住民とともに多文化共生活動を行っている中野さんに講義を引き継ぎました。中野さんは自身の経験も踏まえて「外国人材が働きやすい職場とは」をテーマに、外国人材を採用した福祉職場で生じやすい「ことばの壁」だけでなく、宗教・制度・文化や価値観の違いなど、「ことば以外の壁」についても取り上げ、現場での具体的な課題と工夫を共有しました。
第2部では、「多様な性ってなんだろう」として、認定NPO法人ReBit(リビット)キャリア事業部マネージャーの三戸花菜子さんに講義をいただきました。ReBitは教育・キャリア事業等を通じて、LGBTQもありのままで未来を選べる社会をめざすことを目的とした認定NPO法人です。
講義の前半では、多様な性とは何か、LGBTQの基礎的な知識や用語を中心とした解説がありました。後半では、職場で働く中での困りごとや嬉しかった経験等について当事者の方々のインタビュー映像を通して、具体的な事例が紹介されました。それらを踏まえ、誰もが安心して働ける職場づくりのために、組織として取り組めることや、今日から一人ひとりが実践できることについての提案があり、受講者が自身の職場に置き換えて考える機会となりました。
「知る」ことから、次の一歩へ
本研修は108事業所、158名の方に受講していただきました(種別割合:障害:38.6%、高齢:36.1%、保育・児童:13.9%、その他:11.4%)。
受講者の参加動機では、「外国人職員の増加に伴い、言葉や文化の違いへの対応を学びたかった」「来年度から特定技能の受け入れを予定しており、制度だけでなく現場での課題を事前に学びたかった」といった声が寄せられ、外国人職員の採用がすすむ中で、言語や文化の違いへの対応に悩み、現場で役立つ具体的なヒントを求めていた様子がうかがえました。また、LGBTQについては「言葉は知っていたが、具体的な職場での配慮について学ぶ機会がなかった」「職場のハラスメント研修では触れたこともあり、自分では理解があるつもりだったが、曖昧に捉えていた部分が多く、改めて学ぶ必要性を感じた」との声が多く、自身の意識を見直す目的で参加した受講者も少なくありませんでした。
また「受講後、自分の考え方・意識が変わったこと」を尋ねると、「自分の常識を一旦“置く”ことの大切さに気づいた」等の前向きな声とともに、「実際に現場で対応できるか不安がある」といった慎重な意見も聞かれました。「多様な人材が働きやすい職場づくり」は、一度の研修で完結するものではありません。しかし、「知ること」をきっかけに、日々の関わり方を少しずつ見直していくことが、誰もが安心・安全に働ける職場環境づくりの土台となります。
また、多様な人材は、今回焦点を当てた外国人材やLGBTQに限られるものではありません。誰かのための配慮や工夫は、結果として、すべての人にとって働きやすい職場づくりへとつながっていきます。
研修室では、今後も『福祉で働く人と支える組織づくり』に向けて、現場の声に寄り添いながら、実践につながる研修を企画・実施していきます。それらの研修が、職員一人ひとりのやりがいや安心して働き続けられる職場づくりの第一歩となることを願っています。
受講者から寄せられた声より(抜粋)
- ●日本のやり方に合わせてもらうことばかり考えていましたが、相手の文化や背景を知り、相互理解を深めることが大切だと学びました。
●LGBTQの話は思っていた以上に身近で、表明できない人も多いと知り、日頃の言動を振り返るきっかけになりました。
●『彼女・彼氏』と何気なく使っていた言葉が、誰かを悩ませる可能性があると初めて意識しました。言葉選びを見直したいと思います。
●違いを特別視するのではなく、一度自分の常識を“置いて”相手と向き合うことが、働きやすい職場づくりの第一歩だと感じました。
●実際に現場で対応できるかを考えると不安もあります。ここからが大事だと感じています。
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