西川 正さん
応え合う中で生まれる安心~広がる「大人としゃべり場」
掲載日:2026年2月9日
2026年2月号 連載

西川 正さん
NPO法人ハンズオン埼玉副代表理事。岡山県真庭市立中央図書館長。

「おとうさんのヤキイモタイム」キャンペーンなどコミュニティを

育むためのさまざまなプロジェクトを提案してきた。

大学等で非常勤講師。著書に『あそびの生まれる時〜

「お客様」時代の地域活動コーディネーション』、

『まちを耕す トークフォークダンスで語ろう』(ころから)等。

 

あらまし

  • 子どもと大人が向き合って1対1で話す「大人としゃべり場」。いま、全国に広がりつつあります。わずかな時間にもかかわらず、参加した子どもの表情がみるみる豊かになったり。目の前の大人に話しを聞いてもらう場は子どもたちにいったい何を生み出すのか―。「大人としゃべり場」のファシリテーターでもあり、その意義を発信している西川正さんにお聞きしました。

 

子どもと大人が向き合って1対1で話す「大人としゃべり場」。いま、全国に広がりつつあります。わずかな時間にもかかわらず、参加した子どもの表情がみるみる豊かになったり。目の前の大人に話しを聞いてもらう場は子どもたちにいったい何を生み出すのか―。「大人としゃべり場」のファシリテーターでもあり、その意義を発信している西川正さんにお聞きしました。


2人1組で向き合い、お題に応じて1分ずつ話したら、フォークダンスのように席をずらしてまた新たな人と話す「トークフォークダンス」。ペンも紙も不要、人が集まれば始めることができます。初対面でも、立場が違っても、ひとりの人間として対等に話ができる、出会えるのがこのワークショップの最大の魅力。主に中高生と大人とでトークフォークダンス行うことを「大人としゃべり場」といいます。「年齢や肩書きに関係なく、自分の言葉で自由に語ることができる。この特徴(強み)が最大限に発揮されるのが『大人としゃべり場』です」と西川さん。PTAや地域の発案で場が開かれており、小学生と大人50人が輪になることもあれば、高校生と大人200人が向き合うことも。都内では品川区の複数の中学校で実施されています。

 

“応え”が言葉を生み出す

急に出されたお題にわずかな時間で答えることを求められるがゆえに、大人も子どもも思わず本音が出てしまうところに取組みの面白さがあるといいます。一方で、子どもと大人という普通なら力の差が生まれやすいなかでやりとりが行われるからこそ参加者が安心していられる場づくりが、大事なポイントになります。「無理に話さなくてもいい」「相手の言うことを否定しない」といったグランドルールを設け、会の最初に確認をします。ファシリテーターから発せれられる「質問」も、安心して誰もが話せるものにするなどさまざまな工夫が必要になります。例えば、家族に関することは、中高生に聞くことはできません。そもそもさまざまな家族があり、子どもたちがどう感じているかは最もセンシティブなことだからです。

 

西川さんはこれまで「教室ではしゃべらない子がこの場だとしゃべっていました」と担任の先生がとても驚かれている場面に何度も出会ってきたそうです。「自分の発言に対して良い悪いを評価せず、ただ自分の話を聞いてくれる大人が目の前にいる。あらかじめ決められた〝答え(正答)〞ではなく、自分の声に“応え”てくれる。言葉にならなくても考えている、その姿を受け止めてくれる。そんな大人の『聞く耳』が安心を生み出し、思わず話してしまうのではないでしょうか」と西川さんはいいます。実施後のアンケートでは子どもも大人もほぼ100%「もう1回やりたい」「またやってもいいかも」という声が聞かれています。

 

写真 出典:『まちを耕す トークフォークダンスで語ろう』(ころから)

 

多様な大人との出会いを通じて、安心を届けたい

参加する大人は、立場や経験、歩んできた道のりが一人ひとり異なります。「子どもの頃に夢はありましたか。それはどうなりましたか?」という質問では、叶った人もなかにはいますが、ほとんどの人は叶っていないことに子どもたちは驚くそうです。西川さんは「子どもたちはいつも何者かになるように求められています。また苦手を克服しなければならないといつも言われています。それゆえ『立派ではない』大人の素直な姿に出会うことで、少し安心するようです。こんな風に固定的な大人のイメージが揺れるところが面白いのです」といいます。


また「誰でも苦手なことはあります。あなたの苦手なことはなんですか?」という質問には、大人も自分の苦手なことをちょっと恥ずかしそうに話してくれるとか。「誰しも苦手なものがあるまま大人になっていますよね。苦手なことは誰かに手伝ってもらうとか、社会は色々なやり方ができるってことを感じてもらえたらなと願っています。あんまり心配しなくても大丈夫だよって」と西川さんはいいます。そして、大人としゃべり場は、教育活動の一環として実施されますが、このことについても次のような思いを話してくれました。「コミュニケーション能力をつけなくてはとよくいいますが、練習したところでつくものでしょうか。結局、いろいろな人と話すしかないのですよね。それにはまず、人と話して楽しかったという経験が必要です。そこからもっといろいろな人と話してみたい、という気持ちが生まれてくる。大人としゃべり場は、そんな時間であってほしい」。


子どもたちは、家と学校が生活のほとんどを占め、出会う大人は限られています。「大人としゃべり場」のような、安心できる空間で多様な大人と話した、それが楽しかったという経験は、今を生きる子どもたちにとってとても大切なのではないでしょうか。

取材先
名称
西川 正さん
概要
トークフォークダンスや「大人としゃべり場」の魅力が一冊につまった書籍は以下から。
https://hands-on-s.org/2025/10/30/tfdbook/
タグ
関連特設ページ