特定非営利活動法人 全国移動サービスネットワーク/特定非営利活動法人おでかけサービス杉並
高齢者や障害者の「行きたい」に応える移動支援
NEW 掲載日:2026年4月6日
2026年4月号 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 移動支援とは、何らかの理由により移動が困難な人たちに対して、通院や通学・レジャーなどの外出をサポートすること。移動や外出は、生活を支える要素であり、地域活動や社会参加を促し、孤立を防ぐためにも重要な意味を持ちます。今回は、高齢や障害が理由による移動困難者を中心に、「全国移動サービスネットワーク」に移動支援の概要や今後の課題などを取材し、都内の事例として「おでかけサービス杉並」の取組みから移動支援の意義やこれからを探っていきます。

 

■高齢者・障害者の移動支援の今と課題

特定非営利活動法人 全国移動サービスネットワーク

 

特定非営利活動法人全国移動サービスネットワーク 副理事長
社会福祉法人幹福祉会 理事長
谷口 幸生さん

 

移動支援に期待されること

車両を使って外出に困難を抱える人たちの外出を支援することを移動支援といいます。外出困難に陥ってしまう要因は、高齢や障害などを理由とした身体面や精神面、運行本数・バス停や駅が遠いなどの地域面や利便性の問題がありますが、移動するという当たり前ができなくなることで日常生活が困難になり、社会的孤立や孤独のリスクを抱えることになるなど、大きな影響を及ぼします。「全国移動サービスネットワーク」の副理事長で、所属する社会福祉法人でも移動支援事業を展開する谷口幸生さんは「移動を支えるということは、障害者や高齢者の日常生活を守ることだけではなく、そういった人たちがどんどん地域に出ていくことで、住民理解がすすみ、インクルーシブな社会につながっていくためにも大きな意義があると考えています」と話します。

 

移動支援の種類と概要とは

移動支援のサービスを実施する団体は、自治体や社会福祉法人、NPO法人などさまざまな主体があり、サービスの形態や利用料なども多様です。そのうち有償によるサービスは、道路運送法が定める範囲で決められていて、サービスの種類は次の表のように大まかに分類することができます。表中(2)は、地方では“ささえあい交通”として認識されていて、都内でも八王子市や町田市で運営されています。
谷口さんは「(3)を行う団体は全国で2,400ほど存在しています。最近は(1)や、東京都では(5)に分類される介護タクシーも増えてきています」と現状を話します。

 

 


福祉有償運送は、高齢や障害など身体的な要因で移動が困難な人が利用できるサービスで、障害や介護度などの状態や程度により必要な介助が異なります。例えば、比較的重度の方の外出なら、身体介助や乗降介助の対応が可能な福祉有償運送やヘルパーによる有償運送の利用が主です。通院や通学での利用がほとんどですが、旅行やレジャーにも対応でき、利用者の状態やニーズに合わせた移動手段をコーディネートできるのが特徴です。軽度の方なら福祉限定タクシーや、対象は問わない福祉タクシーなどが利用できます。谷口さんは「介護保険法や障害者総合支援法など各種制度やサービスの種類もさまざまで、利用する側にとっては分かりにくいのが現状です。しかし、サービスは使える時に使えないと意味がありません。杉並区や世田谷区には移動サービスの相談センターがあり、移動の各種相談から配車までを受け付けています。こういった機能が広がったら、移動に困っている人が気軽に出かけられ、地域や社会活動に参加できる機会が増えます」と期待しています。

 

担い手不足にどう対応するか

ドライバーや同乗する介護員などの担い手不足も深刻です。2024年の道路運送法の改正により、一般タクシー業者が自家用車を活用する「日本版ライドシェア」が始まったほか、交通空白地有償運送と福祉有償運送は「公共ライドシェア」が認められるなど、国は規制を緩和することでニーズの拡大と担い手不足への対策に乗り出しました。


担い手が増えても、利用者の「また使いたい」「またここに来たい」といった継続的な外出意欲につながるとは限りません。谷口さんは「私たちの団体でも、40代~50代の働き盛りのドライバー確保が難しい状況です。とはいえ、ただ数を増やしていけばいいというわけではなく、ドライバーへの教育も大切です。運転者講習では、運転技術や介助、接遇への知識はもちろんのこと、利用者さんに日々接することで見えてくる地域の移動の壁がどこにあるのかという視点ももってほしいと伝えています。こういった意識が障害者や高齢者が住みやすい地域につながっていくと思うのです」と話します。

 

これからの移動支援サービス

少子化の波に歯止めが利かず、高齢者や障害者数も年々増加傾向にある現代。移動支援のサービスへの需要はますます増えていくと予想されますが、担い手不足や近年の物価高などは、サービスを利用する側だけでなくサービスを担う団体にも大きな影響を及ぼしています。今後は、交通、福祉、行政といった3分野間の連携がさらに重要になり、限りある人材や資源で持続可能なしくみをどうやって構築していくかが求められます。

 

■相談から配車、居場所運営など外出をトータルで支援

特定非営利活動法人おでかけサービス杉並

 

特定非営利活動法人おでかけサービス杉並 理事長
秋山 糸織さんほか、おでかけサービス杉並の皆さん

 

各団体との連携体制で移動困難者を支える

「おでかけサービス杉並」では、移動困難を抱える方たちを対象として、会員制の福祉有償運送サービスを行うほか、杉並区外出支援相談センター「もび~る」や居場所の運営などを行っている団体です。理事長を務める秋山糸織さんは「先代理事長が2005年に『自分たちに必要なものは自分たちの手でつくる』という“市民自治”の理念のもとに立ち上げた移動サービスを現在も受け継いでいます。移動を起点に、住民が安心して移動でき、住み続けられる地域をつくっていきたいという想いで活動しています」と語ります。設立から20年以上が経ち、1年間の利用件数は5,000件以上にのぼります。


2006年には杉並区の委託を受け、「もび~る」がつくられました。「介護タクシーも含めていろいろあり、どの移動サービスを使ったらいいか分からない」といった声に応えるため、「もび~る」では外出に関する相談や、移動サービスの各団体・事業者の情報提供、外出時の付き添いサービスの案内や各種制度の情報など、外出における総合的な相談に応えています。


拠点を置く杉並区では早くから移動困難に陥っている人たちへの社会参加や移動支援を重視しており、区内ではさまざまな団体や事業者が移動サービスを提供してきました。「もび~る」では、そのゆるやかなネットワークを活用する形で多様な形態の88団体・事業者と協力体制を敷き、利用者に適したサービスの案内や車両の予約代行なども行っています。事業者の所在地や電話番号などの詳細なデータを収集し、サービスの選び方などを細かく記載したガイドブックの作成や最新情報をホームページでも公開するなど、利用者やその家族、ケアマネジャーなどの支援者からも「どのサービスを選んだらいいか分かりやすい」と好評を得ています。また、区内のすべての地域包括支援センターと日ごろから連携があるので、たとえば移動サービスの相談を受けていて「もしかしたら福祉の介入が必要かも」というケースをすぐにつなげられると秋山さんは話します。

 

出かけていきたい場所もつくる

「おでかけサービス杉並」では、“出かけたくなる場”も展開しています。26館ある区立の高齢者交流施設「ゆうゆう館」のうち、2館の運営を受託し、地域包括支援センターと連携しながら体操や英会話、書道などの企画を行っています。高齢分野だけでなく、子育てや教育関連の団体が集まって定期的に会議を行うなど、ここを起点に小地域間のネットワークが根づいているといいます。多世代が集うサロン「けやきの見える家」では、地域包括支援センターのスタッフや保健師が来訪し、高齢者だけでなく誰でも相談ができます。


移動サービスや、地域のニーズに合わせて次々と事業を展開してきた「おでかけサービス杉並」。秋山さんは「移動という視点で日常生活の支援を通じて、杉並区の地域包括ケアを支えるという想いで活動を続けてきました。今注視しているのは、ビジネスケアラーの増加。ケアラーの方のニーズをきちんと把握し、相談しやすい環境をつくりながら、ドライバー不足なども考慮し、人と場をどうやってつないでいくか考え続けていきたい」と話します。


誰もが行きたい場所に行けて自分らしく地域で過ごせるように「おでかけサービス杉並」はこれからも、地域のネットワークを駆使して移動困難者を支え続けていきます。

取材先
名称
特定非営利活動法人 全国移動サービスネットワーク/特定非営利活動法人おでかけサービス杉並
概要
特定非営利活動法人全国移動サービスネットワーク
https://zenkoku-ido.net/


特定非営利活動法人おでかけサービス杉並
https://suginami-ido.org/
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