
加藤 雅江さん
杏林大学保健学部健康福祉学科教授
NPO法人居場所づくりプロジェクトだんだん・ばぁ理事長
大学卒業後大学病院で30 年間ソーシャルワーカーとして勤務。
子どもの虐待防止やDV 対策、自殺未遂者支援を中心にソーシャルワークを行う。
あらまし
- 三鷹市に子ども食堂「だんだん・ばぁ」を立ち上げ、子どもがその子らしく過ごせる居場所づくりに取り組んできた加藤雅江さん。地域全体で子どもを育てるためのヒントについて、活動に込めた子どもたちへの思いとともに伺いました。
「大人を頼ってもいいんだよ」を伝えたくて
私がソーシャルワーカーを志したきっかけは、小学生の時に観た映画『翼は心につけて』です。骨肉腫で亡くなる女の子のお話なのですが、その子がソーシャルワーカーをめざしていました。彼女の遺志を継ぎたいと思ったことが、ソーシャルワーカーをめざした原点です。資格取得後、救命救急センターに勤務し、自殺未遂やDV被害者の方たちが搬送されてくることもありました。その方たちの生活史に触れると、子どもの頃に子どもらしく安心して過ごせる環境がなかった方が少なくないことに気づきました。また、大人が抱える困りごとによって子どもが困難な状況に置かれてしまう場面にも多く遭遇し、ソーシャルワーカーとして、子どもたちに対して申し訳ないという思いを感じました。そうした経験から子どもたちに、「大人は敵じゃない」「大人を頼ってもいいんだ」と思ってもらえるような居場所をつくりたくて、2016年に「だんだん・ばぁ」をスタートしました。
変わらないでいつもそこにあることが大事
はじめのころは、子どもたちを飽きさせないようにさまざまなイベントを考えました。しかし、尊敬する児童精神科医の先生に「子どもにとっては、変わらないでいつもそこにあることが大事」と言われ、そこから肩の力が抜けました。いつもと同じ時間にみんなと過ごす安心感を育むことが、子どもにとっては大切だということに気づいたのです。「だんだん・ばぁ」の名前の由来ですが、「だんだん」は“ゆっくり、あったかく”という意味と山陰地方の言葉で“ありがとう”という意味があります。「ばぁ」は“場所”という意味と飲み屋の“バー”を掛け合わせています。訪れた子どもたちが大人になって、一緒にお酒を飲める場所にしたいという思いを込めて名付けました。2026年でオープンして10年になりますが、当時来てくれていた子どもたちが大学生くらいになった今も顔を出してくれます。時間をかけて関係を築けたことによって、彼らにとって安心して帰ってこられる居場所に育ってきたのだと思うと嬉しい気持ちでいっぱいです。
多世代の人たちとみんなで過ごすために
近年は子どもがいる家庭が少なくなり、子育てが地域にとって遠い話になってきているように感じます。コロナ禍で、子どもたちが家で過ごす時間が長くなり、コロナが収束して子どもたちの声が地域に戻ると、「騒音」として受け止められるような反応も見られるようになりました。地域で子どもを育てるという感覚が弱まり、子育ての責任は家庭が持つものという風潮が一気に高まったように感じます。子どもと関わる機会も減ってしまったことで、子どもとのコミュニケーションの取り方が分からない大人も増えたのではないでしょうか。
私は「だんだん・ばぁ」に来るすべての子どもたちと関わりを持って、関係を築きいざというときに動ける状況をつくりたいです。ここに来る子どもたちは、困りごとがあるからではなくて、楽しいから来ています。ここで出会ったおじさん、おばさんたちと顔見知りになることで、いざというときに頼れる関係を築いています。「だんだん・ばぁ」に参加されている地域の方には、それぞれのできることや好きなこと、得意なことを介した関わりを通して子育て支援にご協力いただいています。子どもと大人がともに集える交流の機会をこれからも生み出していきたいと思っています。
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