
LGBTハウジングファースト・東京
(左から) 前田 邦博さん、石坂 わたるさん、
金井 聡さん、大江 千束さん、古堂 達也さん
あらまし
- DVや家族との断絶など、さまざまな要因が重なり住まいを失うLGBT(*)当事者がいます。一方、既存の支援があっても安心して利用できない現状もあります。「LGBTハウジングファースト・東京」への取材から、誰もが安心して住まい、支援につながるために福祉に求められる視点を考えます。
「制度がある」だけでは支援につながらない
2018年に設立された「LGBTハウジングファースト・東京」では、中野区に個室のシェルター1室を設け、さまざまな要因により住まいを失ったLGBT当事者への居住支援を行っています。活動を始めたきっかけは、それぞれの現場で相談・支援に携わっていたメンバーが、LGBT当事者が生活困窮に陥った際に安心して利用できるシェルターや施設が少ないことに課題を感じたことでした。クラウドファンディングで資金を集めて活動を始め、これまで約25人を受け入れてきました。
支援につながる人の背景はさまざまですが、同性パートナーからのDVや家族との断絶、差別や偏見による就労の難しさなど、複数の要因が重なって生活が困窮していくというケースがほとんどです。近年は、親からLGBTであることを理解されず家を離れた10代後半から20代前半くらいのユース世代や、自身の性的指向が非合法とされる国から日本へ逃れてきた難民からの相談も増えているといいます。
特にユース世代の場合、LGBTであることだけが家を離れる理由とは限りません。もともと親子間のコミュニケーションがうまくいっていなかったり、虐待や不適切な養育があったりすることに加え、性的指向や性自認をめぐる問題が重なることがあります。また、親に拒絶されることへの不安だけでなく、「心配をかけたくない」と自ら悩みを抱え込む人もいます。
こうした人たちにとって大きな壁となるのが、「制度はあっても利用しにくい」という問題です。生活困窮者向けの施設やシェルターなどでは、相部屋となることも少なくありませんが、たとえば同性パートナーからDVを受けた人や、幼少期から男性による暴力・虐待を経験してきた男性にとって、再び男性との集団生活を求められること自体が大きな負担となります。また、トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更していない場合、性自認とは異なる性別の施設を案内されることがあります。戸籍上男性でも、女性として生活している方が男性用施設を利用することには現実的な困難がありますが、かといって女性用施設での受け入れも容易ではありません。つまり、「支援制度が存在すること」と「その人が安心して利用できること」は必ずしもイコールではないということです。

相談場面の様子。2人以上で相談に応じるようにしている。
さらに、LGBT当事者にはそもそもSOSを出しにくい人もいます。認定NPO法人ReBitは「LGBTQ医療福祉調査2023」で、当事者の95.4%は「行政・福祉関係者にセクシュアリティについて安心して話せない」と回答したと公表しています。相談することで性的指向や性自認をアウティング(本人の性のあり方を同意なく第三者に暴露すること)されるのではないかという不安や、これまで助けを求めても理解してもらえなかった経験が積み重なることで、「相談してもどうせ無駄だろう」と支援そのものへの期待を失っていることがあります。
安心できる住まいを生活再建の出発点に
こうした課題を背景に、「LGBTハウジングファースト・東京」が重視しているのが「ハウジングファースト」の考え方です。住まいの確保に先立って生活上の課題の解決を求めるのではなく、まず安心できる住まいを確保し、そこを起点に生活を立て直していくという考え方です。ただし、ここでいう「安心できる住まい」とは、単に雨風をしのげる場所や、一人で過ごせる個室があればよいということではありません。暴力や差別によって傷ついてきた人にとっては、身の安全が守られることに加え、性的指向や性自認を否定されることなく、自分らしく過ごせることも安心につながります。「ここにいて大丈夫だ」と感じられる環境で過ごす時間があることで、健康を整え、福祉制度を利用し、その後の暮らしについて考える余地が生まれます。
しかし、新たな住まいが見つかればそこで支援が終わるわけでもありません。新たな暮らしを始めても、そこで誰ともつながらず孤立してしまえば、「地域で暮らす」ことには結びつきません。同団体では、シェルターで過ごす期間を通じて、「困ったときに頼れる人がいる」「信頼できる人もいる」と感じてもらうことも大切にしています。また、同団体だけで相談者を支えるのではなく、福祉事務所や保健所をはじめとする地域のさまざまな社会資源との連携も大切にしています。LGBT当事者からの相談だからと、支援を当事者団体だけに委ねるのではなく、一人の市民として、誰もが利用する地域の社会資源を当たり前に利用できることが重要です。地域とのつながりが途切れている場合には、その間をつなぎ直し支援の輪を広げていくことも同団体の役割だと考えています。
住まいを地域で暮らすための「セキュアベース(安全基地)」にするためには、物理的な住居だけではなく、身近に相談できる人や利用できるサービス、地域とのつながりも必要なのです。

同団体が運営する個室シェルターの室内。
生活に必要な最低限の家具をあらかじめ備えている。
支援者の「当たり前」を問い直す
LGBT当事者への居住支援から見えてくるのは、個々の支援制度だけの問題ではありません。社会や福祉制度の多くは、男女という二つの性別や、異性の夫婦とその子どもからなる家族を前提としてつくられてきました。その前提から外れる人が困難に直面したとき、既存のセーフティネットでは支えきれないことがあるのです。
そのため同団体は、一般の福祉・医療関係者にLGBT当事者について知ってもらうことも重要だと考えています。近年、「LGBT」という言葉自体は広く知られるようになりましたが、一方で、知識を得るだけでなく、支援者自らの「当たり前」を振り返ることも求められます。例えば、「戸籍上男性だから男性用施設へ」という対応の背景に、身体の性別をその人の本質と捉える考え方はないか。同性のパートナーと暮らすカップルが地域にいることを想定しているか。支援者自身が持つ性別や家族に対する「当たり前」が、支援の選択肢を狭めていないかを振り返る必要があります。
そしてこれはLGBT当事者だけに限った話ではありません。家族がいても頼れない人、難民として日本で暮らす人、性暴力を受けた男性など、さまざまな事情や困難を抱えながらも既存の制度や枠組みでは十分に対応しきれず支援が届きにくいという課題があります。福祉・医療関係者に求められるのは、目の前の人がなぜ既存の制度を利用しにくいのか、その背景に社会や支援者側の前提が影響していないかを考えることです。
誰もが安心して住まいを確保し、困ったときには身近な誰かにSOSを出せる。そのためには、制度を用意するだけではなく、支援者自身が持つ「当たり前」を問い直し、一人ひとりが安心して支援につながれる環境をつくっていくことが求められます。
* 性的マイノリティを表す呼称にはさまざまなものがありますが、本記事では、取材先の団体名に合わせて「LGBT」と表記しています。
https://lgbthf.tokyo/








