成川 和孝さん
あらまし
- 生まれつき視覚に障害がある成川さんは、足立区の小・中学校、高校に出向き、視覚障害者の日常生活について話をし、理解を広げる取組みをしています。話をする際に工夫していることや、今後の目標などについて伺いました。
私は年に数回、子どもたちの前で話をする機会に恵まれています。きっかけは、点訳依頼で定期的にお世話になっている足立区総合ボランティアセンターから「子どもたちの前でお話をしてみませんか」と依頼を受けたことからです。
視覚障害者に興味と関心をもってもらいたい
平成28年に初めて依頼を受けた時「ついに依頼が来た。嬉しい!」と思いました。子どもたちと関われることが嬉しかったし、何より自分の話に子どもたちがどれだけ関心をもってくれるのか知りたいと思っていたからです。
授業を行う際にねらいにしているのは”生徒にも先生にも視覚障害者に興味と関心をもっていただく”ということです。特に、子どもたちとのコミュニケーションを一番大切にしています。子どもたちには「目は見えないけど面白い人が来たぞ」と思ってもらいたいし、先生には私の話や子どもたちの様子を通して、視覚障害者のイメージを明るいものに変えてほしいと思っています。そのために、話の中で子どもたちに質問を投げかけたり、目隠しをした状態でペットボトルの水をコップに入れてもらうなど”プチ視覚障害者”を体験してもらったり、要所要所でゲーム性を取り入れたりと、子どもたちが飽きないよう、プログラムを組んでいます。子どもたちからは「楽しかった」「ためになった」などの声が聞かれています。
どの学校にも、同様のテーマでお話をしていますが、毎回違う事例をあげてお話をするよう心がけています。例えば、日常生活の工夫を話す時は今朝の出来事を織り交ぜます。それは、私自身が授業を楽しむためでもあります。毎回同じ話ばかりでは私自身が飽きてしまいますから。まずは自分が楽しまなければ、子どもたちの心を動かすことはできないと思っています。
授業は予定どおりにいかないから楽しい
授業中に「野菜を切ってみてください」や「点字を打ってみてください」など、先生や子どもたちから予定にないリクエストをいただくことがあります。予定にないリクエストは大歓迎です。なぜなら、私自身の新しい発見につながることがあるからです。「野菜を切ってください」とリクエストされ、じゃがいもの皮をピーラーで剥いていた時のことです。全て剥き終わったと判断し、子どもたちに「全て剥けていますか」と聞きました。すると子どもたちから「まだだよ。芽が取れてないよ」と言われました。そこで初めてピーラーでじゃがいもの芽が取れることを知りました。授業は予定どおりにいかないからこそ楽しさがあるのです。
これからも感謝の気持ちを大切にしながら活動を続けていきたい
子どもたちの前で話をするまでに、ボランティアセンターをはじめとする足立区社協の方や、学校の先生など沢山の方が事前に調整してくださっています。子どもたちの前で話をするきっかけをつくっていただく度に、感謝の気持ちで一杯になります。だからこそ、子どもたちにとっても、先生方にとっても、自分にとっても実りのある時間にしたいと思っています。
緊急事態宣言が発令され、世の中が新型コロナ一色になった頃「お話をする機会がなくなってしまうのかな」と思っていましたが、ご縁があり、東社協の「フクシを知ろう!なんでもセミナー」(※)の講師として、お話の機会をいただきました。これからも、機会がある限り、続けていきたいと思います。
今年は、新型コロナの状況を受けて、より多くのことができるよう、ガラケーからスマートフォンに切り替えました。月に2回程度あるスマホ教室に通いながら、現在は文字打ちの練習をしています。電話でのやりとりが主だった私にとって、大きな挑戦です。操作に慣れたらメールやLINE、ZOOMなど、時代に合わせたコミュニケーションの方法も取り入れていきたいと思っています。
新しい挑戦は、いくつになってもワクワクします。これからも、さまざまなことに挑戦していきたいと思っています。
(※)都内の中学・高校を対象に、福祉の第一線で働く専門職等が介護・保育の魅力を伝える出前授業