きこいろ代表の岡野由実さん
「きこいろ」が動画を制作し、公開しました!(2022年11月1日更新)
- きこいろは、文字と画像だけでは当事者の困る場面が具体的なものにならないため、なかなか周知につながらないという課題を感じていました。今回の動画で具体的でわかりやすい表現ができたことで、理解と啓発につながることを期待しています。
- 12分程度の動画です。ぜひさまざまな方にご覧いただきたいです。
あらまし
- 片方の耳が聞こえにくい、もしくは全く聞こえない片耳難聴の人は、国内に少なくとも30万人以上いると推定されています。2019年設立の当事者組織「きこいろ」では、片耳難聴者のQOL向上を目的として、当事者同士のつながりづくりや社会啓発活動に取り組んでいます。代表で言語聴覚士の岡野由実さんにお話を伺いました。
突発性難聴により左耳を失聴
私は13歳の頃に突発性難聴になり、左耳が全く聞こえなくなりました。6歳上の従兄も中学時代に同じ理由で片耳難聴になっていたので「あ、お従兄ちゃんと同じだ」という感じで、そこまでショックを受けませんでした。
片耳難聴になってからは、母から車や自転車が近づいてきたら振り向いて確認するなど口酸っぱく言われていました。学校生活では、右耳で聞きやすいように場所を移動することを自然と身につけ、親しい友人たちはさまざまな配慮をしてくれていたので、それほど大変だった記憶はありません。でも、中学2年の時に先生に私の席を教卓近くの最前列に固定されたことは、とても嫌でした。後ろの席でも聞こえるし、みんなと一緒に席替えをしたかったので。進級時に母を通して学校に伝え、みんなと同じ扱いにしてもらいました。
ある時には事情を知らない人から「耳悪いんじゃないの」と心無い言葉をかけられたこともありました。でも、思い返してみると母はいつでも100%私の味方でいてくれました。それが私にとっては支えであったと感じます。それも従兄の存在があり、母が事前に情報を持っていたことは大きかったと思います。
聞こえにくい3つの場面
片耳難聴は、常に聞こえにくいということではなく、限られた場面で聞こえにくくなることに特徴があります。具体的には「聞こえにくい耳の方から話しかけられると分からない」「騒がしい場面では聞こえにくい」「どこから声がするのか分からない」の3つの場面です。
片耳難聴の人が一番困るのは、限られた友人関係・コミュニティの中で過ごす学生時代ではなく、社会に出てからだと思います。一期一会の人も多く、いちいち「片耳が聞こえません」と相手に伝えることもしませんし、上座下座があったりと自分の努力ではどうしようもない場面が増えてきます。
そうした中、雑音の中で相手の話を聞き漏らしてはいけないとか、アラームが鳴った時に音の方向を聞き取らなければいけないなどの場面で「ちゃんと聞いていない」「対応が遅い」などと言われてしまったことのある当事者もいらっしゃると思います。しかもそれが片耳難聴の特徴のせいではなく、集中力の問題だと捉えてしまっている当事者もいます。本人の聴力レベルや聞こえにくい3つの場面などについて、医療機関から十分な情報提供がなされていないことも少なからずあります。
知ってほしい当事者の気持ち
現在「きこいろ」の活動は、大きく3つの柱があります。1つ目がウェブページやSNSを活用した当事者への情報発信、2つ目が「片耳難聴Cafe」などの当事者同士のつながりづくり、3つ目が社会への啓発活動です。
最初の2つは少しずつ軌道に乗ってきたのですが、社会への啓発についてはまだ不十分で、興味がない人にも情報を届けることを大きな目標として頑張っています。
「きこいろ」が発行するリーフレットの監修をしていますが、家族がどのような場面で気をつけたらいいか、また、職場や学校でどう配慮したらいいかを具体的に伝えたいと思っています。
広く知ってもらいたいのは、私たちの存在を忘れないでほしいということ。当事者が勇気を出して難聴のことを伝えても、普段の会話が問題なくできるので忘れられてしまうことが多いです。もう一つは、片方の耳が聞こえないと、いつもではなく特定の場面で聞こえにくいという特徴があるということです。
片耳難聴の人の困り感は人によって違います。でも共通しているのは「いつも困っているわけじゃないけれど、片耳が聞こえるから大丈夫だろうとも思われたくない」という微妙な気持ちを持っていることかと思います。
こうしたことが広く社会に知られていき、ちょっとした配慮で、当事者の過ごしやすさも大きく違ってきます。これからも社会へ発信していきたいと思っています。
https://kikoiro.com/