KUNIBO(くにたち地域外国人のための防災連絡会)
防災を通じて、まちの中でのつながりや、誰もが共に助け合える関係をつくる
掲載日:2021年10月15日
2021年10月号 連載

KUNIBO代表

山崎由紀子さん

 

KUNIBO(くにたち地域外国人のための防災連絡会)・・・東京都国立市において、「防災」をツールに多文化共生を考える活動を行う任意団体。発災時、同じまちに暮らす人たちが、国籍などの背景に関わらず、命を守り、共に助け合えるよう、日頃からの防災意識の向上と顔見知りの関係づくりをめざし、公民館の協力のもと活動している。

 

KUNIBO(くにたち地域外国人のための防災連絡会)は、「防災」で多文化共生をすすめる団体です。国籍や年齢、性別等を問わず、国立市に暮らす誰もが参加できる、社会教育の視点での活動を行っています。

 

KUNIBO設立の経緯

国立市内には一橋大学があり、早くから中国や韓国など主にアジア諸国の留学生を受け入れてきました。1970年代半ば頃からは、国の政策の下、さらに多くの国と地域から来た留学生が一橋大学で学び、市内で生活するようになりました。90年代に入り、仕事や日本人との結婚のためなど、留学生とは違う層の外国人も増えていきました。

 

そうした中で、外国人への無料の日本語講座を手厚いプログラムで実施する国立市公民館には、外国人だけでなく多くの日本人が集い、外国人へのボランティア活動が熱心に行われました。活動の柱は「日本語ボランティア」「生活相談」「文化交流」「国際理解と交流」「ホストファミリー」などでした。一団体としては大所帯となってきたため、約20年前、活動別にそれぞれの団体に分かれました。しかし数年経つと、互いの活動が見えづらくなってきました。

 

そこで、地域の共通テーマである「防災」を中心に、多文化共生に関わる団体間の連携を取り合う団体として、平成22年4月に「KUNIBO」が設立されました。

 

日本の文化「防災」でつながる

KUNIBOが「防災」を活動の柱にしたのは、現代表の山崎由紀子さんらが、当時の公民館長から、館長のご両親の阪神淡路大震災での被災経験を聞いたことがきっかけです。市の防災計画の中で、公民館が「外国人の防災の情報の拠点」と位置づけられた時期でもありました。山崎さん自身は、長く留学生等の支援や日本語ボランティアに関わってきました。「災害が起こっても、国立市は外国人を含め誰もが差別されることなく命を守れる地域にしたい」という思いで、公民館と共に、日頃の地域活動に外国人の視点を取り入れ、災害時にも助け合う関係性をつくるよう、各団体に連携を呼びかけました。協議や研修で防災の取組みへの理解を深め、活動を開始しました。

 

KUNIBOでは、隔月に一度、多様な企画を行っています。例えば「家具転倒防止器具の取り付け方体験」「段ボールトイレづくり」「風呂敷活用術」など、日本独自の防災対策の講座です。外国人にはなじみのない、防災に活用できるグッズ等の知識を伝え、一緒に体験しています。「ポリ袋クッキング」「避難所での健康管理」は毎年、好評な企画です。各国の言語での説明と「やさしい日本語」での日本語訳のついた防災ステッカーや防災マップづくりも行っています。

 

日本独特な防災対策の一つ

大きな家具に突っ張り棒をつけよう!

どこに買えるのか、どのように使うのかの体験

 

「段ボールトイレを作ってみよう」

 

「ポリ袋クッキング」での炊飯袋の説明と体験

 

また、地域の自治会の方が講師となり、防災活動を伝えて交流する企画等も実施しています。作業や簡単な防災食の試食を一緒にすることで、関係が深まります。山崎さんは「参加者同士は対等な関係。参加者のできること、役割を引き出すようにしている」と言います。

 

どの企画にも、市内に住む方は誰でも参加できます。日本人参加者にとっては防災への学びになる上、地域で暮らす外国人の戸惑いや困りごとに気づき、外国の生活や文化等に触れる機会にもなっています。山崎さんは「自然災害の多い日本では、『防災』も一つの文化。普段にも活かせる学びを提供したい。また、人と知り合い、いざという時、助け合える関係づくりにつながる企画を意識している」と語ります。

 

文化や習慣の違いがすれ違いを生む

KUNIBOでは月一回、公民館の「にほんごサロン」の運営にも協力しています。公民館の「生活のための日本語講座」の受講者の多くは、まだ、あまり日本語が話せない方で、主にその人々を対象にしています。テキストを離れてさまざまな人との会話と交流を楽しむ場、また、自国の料理や文化を日本語で紹介する、言い換えれば、日本語を発話する場でもあります。多方向から、生きた日本語を体験することが目的です。

 

サロン参加者には子育て中の女性が多く、ごみの分別等、日常の疑問が話されます。また「学校のおたよりが読めない」と持参する人もいます。「風薫る季節に…」という時候の挨拶から一つ一つ辞書を引き、意味を調べながら読むため苦労している、という話もありました。同じ紙面内に日本特有の縦書きと横書きが交じり、読解に苦労する方もいます。

 

ほかにも学校生活については、さまざまなエピソードがあります。入学式には親子ともきちんとした服装で出席することを知らず、普段着で出席し、気まずい思いをした方がいます。また、水泳の授業用に、キャラクター柄の水着を用意した方もいます。その方には、無地に近い水着を用意することをアドバイスし、学用品を売る店の情報を伝えました。

 

山崎さんは「参加者の話から、必要なのは言葉の支援だけでないと、強く実感できた」と言います。「日本人にとって、文化や習慣として『当たり前』のことは、わざわざ説明されず、すれ違いが起こる。単に知らないだけで、非常識な人だと避けられ、差別につながる可能性もある」と語ります。そのため「外国人や外国ルーツの子の家庭へは、まず学校や行政等による配慮が必要。加えて、気になった時に少しふみ込んで声をかけたり、困ったことを気軽に聞ける関係があることが大切」と、顔見知りの関係の重要性を語ります。

 

コロナ禍ではオンラインで活動継続

例年4月には、KUNIBOと市防災安全課、公民館との三者が呼びかけ、一橋大学の新規留学生対象のオリエンテーションで「外国語支援ボランティア」の登録を募ってきました。長期滞在予定で日本語堪能な留学生が登録し、団体の企画や市で通訳が必要な時、活動しています。しかし新型コロナが影響し、この2年間は新規留学生がほぼ来日できず、登録の呼びかけができませんでした。

 

現在、KUNIBOでは、コロナ禍で人が集まることが難しい中でも、公民館の協力で、月1回、オンラインでこれまで実施してきた企画を開催しています。参加者には、コロナ禍での行動が批判されないよう、特に気をつけて自粛生活を送っている方たちもいます。その精神・身体面への影響も考慮し、太極拳、お弁当づくりなど楽しい企画の「にほんごサロン」に加え、防災企画としてコロナ禍での健康講座、在宅避難を学ぶ企画などを実施しています。令和3年2月には恒例の「ポリ袋クッキング」を行い、30人弱が自宅等でサラダチキンなどを調理しました。山崎さんは「オンラインの活動は、コロナ禍で外出を躊躇する、また思うように外出できない高齢者等の地域参加にも有効だ」と考えています。

 

一橋大学留学生寮の共催—防災企画避難所は危険がいっぱい!

武術による護身術を学ぶ。

 

ポリ袋クッキング  炊飯袋にお米と水をいれてみよう!

 

外国人支援に必要なこととして、「すべてを草の根の活動で担うのは困難。常設で、どんな相談でもまず受け止める窓口が必要。そこから各団体等につないでもらえれば、できる範囲で必要な支援を担える」と山崎さんは語ります。KUNIBOでは、今後も防災をツールに、地域の中で多くの人が知り合い、つながり合える機会をつくっていく予定です。

 

AED体験

 

三角巾の使い方講習会

 

東京都主催の防災イベントに参加

水も水圧を感じる企画を体験

取材先
名称
KUNIBO(くにたち地域外国人のための防災連絡会)
概要
KUNIBO(くにたち地域外国人のための防災連絡会)
https://www4.hp-ez.com/hp/kunibo/
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