原 順子さん
あらまし
- こだわりの材料と本格的な設備をそろえ、利用者と一緒に地域の笑顔を生み出すパンをつくっているコロニー中野の原順子さんにお話をうかがいました。
きっかけは一台のオーブン購入
しばらく山口県に住んでいたのですが、8年前に東京に戻ってきました。何か仕事を探そうと思っていたところ、たまたま通りかかったコロニー中野でパート募集のちらしを見てすぐに応募しました。
当時はハンバーガーやホットドッグなどをつくっていて、まだパンづくりはやっていませんでした。利用者もスタッフも手が空く時間が結構あったので、「暇すぎて、時計の針が全然進まない!」と、よく話していました。 そんな折、事業所内で「施設整備費で冷蔵庫を買おうと思うんだけど……」という話があったので、「それならオーブンを買いましょう」と提案しました。
私は福祉のことはまったく知らなかったのですが、山口にいた頃は身近に手に入る材料でできるパンづくりを教えていたので、小さくてもオーブン1台あればなんでもできると思ったのです。めでたくオーブンが手に入り、ホットドッグの店「ころ・ころ」のパンづくりが始まりました。当初は、週3日、午前中に菓子パン、午後に食パンをつくり、一日の売上げは1万円くらいだったと思います。
得意なことに着目した作業分担
パンづくりには工程がたくさんあります。材料を計量する、こねる、分ける、あんこを丸める、ナッツ類を割る、包む、袋に詰める、製造日のスタンプをシールに押す、シールを貼る……。こうした一つひとつのシンプルな作業を、6人の利用者さんと2人の職員と3人の非常勤職員で割り振っています。メンバーは私も含めてみんな明るく、常に前向きに作業に取組んでいます。利用者さんの得意なことを伸ばしていこうというスタンスで作業を割り振っていますが、今でも試行錯誤しています。
それぞれ得意なことも違うし、向き不向きもあります。本人のやってみたいという意欲があればまず取組んでもらって、それから特性を見るようにしています。個性あるメンバーが集まっていますが、共通しているのは仕事が丁寧で確実なところ。みんなボーっとする時間があるのが嫌なタイプなので、その分一つひとつの作業に手をかけることができます。それが、丁寧さや確実さにつながっているのかもしれません。
地域のフルーツアーティストの方から生フルーツゼリーのレシピを教えていただき、新たなメニューに加えたり、パンづくりと販売が安定してきた頃には、シフォンケーキやクッキーなどのお菓子づくりも始めました。そうするとまた別の作業が発生するので、商品の種類を増やしながら、作業工程のバリエーションも広がっていく形になりました。他にもカフェで提供する季節の食材を使ったジュースづくりに取組んでみたり、作業が単調にならないような工夫もしています。
利用者さんには、「ころ・ころ」での一日を快適に過ごしほしいと思っています。一日の中で嫌なことや揉めることもあるけれど、仕事を終えて帰る時には笑顔になっていてほしいですね。
おいしいパンを地域に届けたい
販売時には積極的にお客様とコミュニケーションを取ることを大切にしています。「この間のあれ、おいしかったよ!」といった感想を笑顔で伝えられると嬉しいですし、街の中に顔見知りも増えていきます。実際、利用者さんの方が顔が広いんですよ。また、お客様との会話の中で自然食への関心が高いことがわかったので、それをきっかけに天然酵母のパンもつくりはじめ、今では主力商品の一つとなっています。
福祉作業所のパンだから買ってもらうのではなく、おいしいパンを地域に届けたいという思いから、イーストや小麦粉など材料にもこだわってつくっています。
事業が軌道に乗って、売上げも伸びてきたので、製造体制強化のため企業寄付金にてドゥコンディショナー(生地の状態を管理する機械)を導入し、その後企業助成を受け、大型オーブンも設置することができました。
利用者さんが「パン屋で働いています」と言っても差し支えない設備が整ったので、これでもっとおいしいパンがつくれます。 現在、コロニー中野は建て替えのため、中野区江原町から鷺宮に仮移転しています。鷺宮では店舗がないので、外部販売のほか週に3日ほど敷地内のキッチンカーで販売しています。売上げは相当落ち込むのではないかと心配していましたが、地域の方が受け入れてくださり、徐々に売り上げも伸びはじめ、感謝しています。
来年4月には元の場所で「ころ・ころ」がリニューアルオープンします。そこで今度は何をやろうか、そしてどんな新しい展開が待っているか、とても楽しみです。
http://colony.gr.jp/colonynakano/