深川えんみち
多世代が“ごちゃまぜ”でつながり合う複合型福祉施設
掲載日:2024年10月8日
福祉広報10月号み~つけた

深川えんみち写真

 

3つの事業を有した複合型福祉施設

今も下町の情緒が残る江東区門前仲町エリアにある、複合型福祉施設「深川えんみち」。建物全体が平屋のような開放感のあるデザインで、富岡八幡宮に面する路地からは、のれんと大きなガラス張りの引き戸が見え、地域の人たちの目を引く印象的な空間です。1階に高齢者デイサービス、2階に学童保育クラブと子育てひろばの3つの事業を主体として、一人一箱、本棚オーナー制を取り入れた私設図書館「エンミチ文庫」、開放的な空間のオープンキッチン、ピザ窯職人とともにつくり上げたかまども有し、地域の人たちがここを拠点につながる場所になることをめざし、2024年5月にオープンしました。もともと、高齢者デイサービスと学童保育クラブと子育てひろば「ころころ」は、同じ江東区内にあるまこと地域総合センター内でともに事業に取り組んできましたが、センターの老朽化や広さ等の理由により移転先を検討していました。かつては斎場だったという現在の場所に3つの事業を移転する、新しい施設の検討を始めたといいます。高齢者デイサービス「深川愛の園」施設長兼子育てひろば「ころころ」を運営する聖救主福祉会法人本部長の小久保佳彦さんは「日本財団主催の『みらいの福祉施設建築プロジェクト』の助成金も活用しながら、関係者と検討を重ね、“世代の垣根を超えた、多世代が共生できる地域に開かれた福祉施設”をコンセプトにしたいと考えました」と当初を振り返ります。

深川えんみち外観写真


「ライト学童保育クラブ」を運営するNPO法人「地域で育つ元気な子」理事長の押切道子さんは「コンセプトはプロジェクト発足後すぐに決まりました。それも、20年以上共に同じセンター内で福祉事業を行ってきた実績があり、根幹にある福祉への想いに共通するものがあったからだと思います」と語ります。

 

「ただいま」と「おかえり」が行き交う日常

“地域に開かれた多世代が集う福祉施設”を実現するために検討を重ねたのが、建物としてどの程度、地域に開いていくかということとセキュリティの問題でした。ライト学童保育クラブ施設長の荻野貴大さんは「安全面を重視しすぎると、深川えんみちのコンセプトから遠ざかってしまう。また、どちらも取り入れようとすると中途半端な施設になりかねない。検討の結果、私たちが大事にしている“地域へ開くこと”に主軸を置くことにしました」と話します。小久保さんは「開かれた空間だからこそ職員や子どもたち、高齢者、地域の人たちといった様々な人の目が相互に行き届く。誰かに見てもらえることが結果的にリスク対策になるのではと考えました」と語ります。建物の設計には、福祉施設を数多く手がける建築家とタッグを組み、外からも中からも自然に人と人とが行き交うしかけを施しています。

 

デイサービス「深川愛の園」マネジャーの岩﨑美恵子さんは「1階のデイサービスには、抜けのある通路『えんみち(縁道)』があり、2階の学童クラブに通う子どもたちはえんみちを通り抜けるので、デイサービスの横を通る形で2階へ上がります。そうすることで子どもたちと高齢者に自然な関わりが生まれています」と話します。小学生が学童に来ると、デイサービスの利用者や職員が、口々に「おかえり!」と声をかけ、小学生も「ただいま~!」と元気に応える風景が日常的に見られます。

 

「えんみち」に沿って「エンミチ文庫」はあり、本の貸し借りをしている人とデイサービスの利用者が日常的に顔を合わせることができるような設計になっています。荻野さんは「育児や介護の当事者だけではなく、地域の方たちにもえんみちに関わってもらいたいという願いを込めました。最初は運営委員会をつくったのですが、今ではオーナー同士で企画やイベントを考えてくれています」と手ごたえを話してくれました。

エンミチ文庫写真


1階の建物の外には、ピザ窯職人の方と地域の人たちが一緒につくったかまどもあります。かまどの材料には、旧建物や富岡八幡宮で使われていた廃材を再利用したといいます。まこと保育園子育てひろば「ころころ」の子育て支援アドバイザーの竹内陽子さんは「卒園児や学童を卒会した女の子が春休みに来てくれてかまど作りを手伝ってくれたこともありました。高齢者の方も『懐かしい』と言って手伝ってくださったり、完成したかまどでピザを焼いて地域の人と一緒に食べたり。ここでも自然に多種多様な交流が生まれ始めています」と言います。

深川えんみち(かまど写真)

 

”門前仲町の玄関”として、多世代がつながる入口になったらいい

オープンして約半年。深川えんみちを通じて、子どもや高齢者、地域の方との何気ない交流が次々と生まれ、当たり前の情景になってきているといいます。岩﨑さんは「学童の子どもたちやエンミチ文庫のオーナー、ふらっと立ち寄って下さった方と、この場所からゆるいつながりや交流が生まれ、デイサービスの利用者からも『ここに来たら元気になった』と言ってもらえています」と語ります。竹内さんは「屋上にある菜園では、学童に通う子どもの保護者から種をもらったり、子どもたちや高齢者が一緒に種まきをして、多世代間での命のつながりのようなものがここで生まれていて、とても感慨深いです」と話してくれました。

深川えんみち(屋上菜園)写真


荻野さんは「深川えんみちを“門前仲町の玄関”にしたいと思っています。ここに通う子どもや高齢者だけではなく、地域の人や観光で訪れた人たちもつながる入口のような存在でありたいと思っています」と話します。

 

「深川えんみち設立を通じて感じたのは、現行の福祉制度は、“共生”の視点が足りないのではないかということです。例えば、建物ひとつとってみても安全面を考慮しすぎるあまり、壁や仕切りが多くなり閉鎖的になりがちです。新しい施設ができても、外からは何をしている施設なのか、どんな人がいるのかが分かりにくくなってしまい、これでは地域の人たちの理解も信頼関係も生まれません。深川えんみちがきっかけとなり、法律や制度が変わる流れをつくっていけたら」と小久保さんは所感を語ります。

 

押切さんは「特にこの先、福祉の担い手が減っていく中で、いかに地域の人たちに“福祉のマインド”をもってもらうか、かかわってくれる人を増やすかという視点で、福祉施設の運営を考える時期が来ているのではないでしょうか」と今後について話します。

 

地域に住む多世代の人たちが集う拠点として、深川えんみちはこれからも誰もが安心して過ごせる場所であり続けます。

深川えんみち

取材先
名称
深川えんみち
概要
深川えんみち
https://fukagawa-enmichi.jp/
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