毎月開催している定例会。ディスカッションの様子
東京TSネットでは、福祉的支援が必要と思われる被疑者・被告人を支援する「更生支援コーディネーター」の養成に力を入れています。福祉現場で援助職をしていた方など、平成29年7月現在17名が研修を経て登録し、実際のケースにおいて、アセスメントや更生支援計画書の作成、証人出廷等を行う他、家族にも親の会を紹介するなどの支援をしています。依頼件数は年々増加しており、平成28年度は50件に対応しました。
こうした福祉と司法にまたがる専門職の存在は、双方の分野で求められているものでした。代表理事で社会福祉士・精神保健福祉士の及川博文さんは、「これまで福祉施設で働いてきて、トラブルに巻き込まれてしまう利用者に出会ってきた。オープンにしていないだけで、こうした方に出会ったことがない福祉職はいないと思う。司法と連携した支援の需要は以前からあったはず」と話します。理事で弁護士の浦崎寛泰さんは、障害のある依頼人との出会いから福祉による支援の必要性を感じました。社会福祉士の資格を取得し、福祉との連携を図りましたが、「一緒に活動できる福祉職を探すのが大変だった」と言います。そして、「独立した自営業者である弁護士と違って、事業所に所属し、本業を持つ多くの福祉職は活動に制約がある。弁護士と連携して柔軟に対応できる福祉職が必要だった」と、司法と福祉の違いがある中で、双方の専門性を持つコーディネーターの意義を伝えます。
司法から見た福祉との違いは、他にもあります。同じく理事で弁護士の山田恵太さんは、「勾留中の方の支援で、身体拘束の期間を短くしたいとまず考える弁護士と、丁寧にアセスメントを重ね支援を考えていきたい福祉職とのスピード感の違いを感じた」と話します。また、同じく理事で弁護士の中田雅久さんは、「福祉では再犯の際の引受先の責任を心配する声があるが、弁護士にはない発想だった」と言います。そして、「再犯の際の責任を他人が代わって取ることはできないし、逆に、生活は本人のものなので、本人の意思に沿った支援であることが重要だと考えている。本人が希望し、安心できる生活を送ってもらうことが直接の目的で、再犯防止はその結果だと考えている」と、その理由を話します。
窃盗がやまないSさんの架空事例検討
「東京」でつながることから生まれる多様な取組み
福祉と司法の「文化」の違いを感じながらも、ともに取組みをすすめることで、新たな活動も出てきました。弁護士が福祉施設に出向き、触法や刑事事件について講義をする「出前講座」は、ケース対応だけでなく、日常的な相互理解の必要性を感じたことが始まりです。足立区や大田区等に立ち上げた「地域TSネット」では、障害のある方を受入れられる地域づくりについて、各地域の特色をふまえて検討を重ねています。平成29年6月より始動した「当事者の会」は、依存症の当事者ネットワークを参考にしています。前科・前歴を共通項とした当事者が、「今、地域で生活している強み」を実感しながら、主体的に活動することをめざしています。
さまざまな取組みが可能なのは、「福祉」や「司法」といった縦割りがないためです。「『東京』という地域でつながり、アメーバのように広がるネットワークをつくりたい。活動に関心のある人は誰でも参加してほしい」とメンバーは話します。メンバーの一人で社会福祉士の橋本久美子さんは「人が変わるにはタイミングが重要。色々な法律ができても、どうしても『隙間』は生じるので、その部分は市民活動で取組むことも大事」と指摘します。変幻自在で柔軟なネットワークは、制度の隙間を埋めるように地域へ広がり始めています。
定例会。講義の様子 定例会。講義の様子
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