左から、東京都立五日市高等学校 全日制課程 副校長 梶原敏幸さん
外部指導員 五高カフェ店長 松本優菜さん
主幹教諭 進路指導部主任 中村俊佑さん
進路指導部 主任教諭 田中和歌子さん
あらまし
- 他者との違いや自分自身への意識が高まる10代。家と学校が日々の中心で、多様な視点や選択肢に触れる機会が少ないことから、息苦しさを覚えたり、孤独や孤立を感じたりすることも。今回は、家でも教室でもない、“第三の居場所”として校内に「ごこうカフェ」を設けた五日市高等学校の取組みを聞いています。
毎週火曜日の放課後に都立五日市高等学校で開かれる「五高カフェ」。卒業生の松本優菜さんが店長を務めるその場には、15名前後の生徒が足を運びます。取組みは2024年9月からで、教諭の思いから生まれたもの。その背景には学校や家庭に自分の居場所がなく、孤独を覚え、孤立している生徒の存在があります。提案者である進路指導部主任の中村俊佑さんは校内に居場所カフェのような場の必要性を強く感じていた一人。「自分の居場所がなく、学校を辞めてしまう生徒もいます。家に帰りたくない子もいて、夜までの解放は難しいけれど、放課後だけでも安全な環境で安心できて、自分自身を否定されない空間があればと考えました」と経緯を話します。同じく進路指導部で当初から関わる田中和歌子さんは「カフェであれば、そこに来る理由を求められないですよね。気軽に立ち寄れてちょっと喋れる、そんな場所が校内にある意義は大きいと感じました」と話します。教諭が前面に出ないという方針の下、進路指導部の先生に相談に来ていた卒業生の松本さんが店長として運営に加わることになり、3人が中心となって形にしていきました。
他者の価値観に触れ、自分自身と向き合える場所へ
五高カフェのあり方は最初から固めすぎずに、訪れる生徒の話を聞いたり、個々に勉強をしたりするような、それぞれが思い思いに過ごせる空間として始まりました。訪れる生徒が増えていく中で、皆で利用ルールを考えるほか、生徒自身からも主体的に場の価値やあり方について声が上がるようになってきました。スタートから4か月が過ぎた今では、卒業生や地域住民、フードバンクの活動者などカフェに関わる人も増え、生徒発案のイベントや、他者から学びを得るような企画も始まっています。
その一つである「卒業生と語る会」は、ゲストの卒業生にこれまでの人生を話してもらうもの。同じような境遇にある生徒が自身の可能性や選択肢を広げるだけでなく、自分の気持ちを明かす場にもなっています。中村さんは、多文化に背景のある生徒が増えていることに触れながら、「ゆくゆくは生徒が自分のことを開示できる、話しても認められるのだと思えるような空間をつくっていきたいです。地域の人や卒業生に話をしてもらい、多様な価値観に触れることで世界を広げ、自分自身を振り返ることのできる場にしたい」と今後の思いを明かします。店長の松本さんは「まず私が楽しむことを大切にしながら、来ている皆も楽しければいいなと思います。カフェではとにかく自分のやりたいことを我慢しないで追求してほしい」と後輩にメッセージを送ります。
生徒だけでなく、教諭も足を運び、教室とは違った関わりや空気感が生まれている。
学生と地域とがつながるきっかけに
在校生に向けて取り組まれてきた五高カフェですが、この場が卒業生にとっても大切なものになると田中さんは考えています。「卒業生が仕事の相談等で学校に来るのですが、教諭の異動がある中でもカフェが続いていれば、卒業生の居場所もできると思います。卒業が近い生徒にカフェのボランティアスタッフをお願いするといった、つながりを持ち続けてもらうような動きも生まれています」と話します。また、五日市高等学校には複雑な家庭環境にある生徒もいて、梶原さんは「五高カフェを起点に地域とつながって安定したサポートを生徒にしていけたら」と地域と協働する必要性を感じています。生徒に身近な場所で放課後から始まる五高カフェ。さまざまな人の思いが重なり合いながら、生徒が自分を認められる、他者を介して自分と向き合える、そんな場所をめざしていきます。
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