あらまし
- 東京都大島町で「平成25年台風26号」による大規模な土石流災害が発生してから4年が経過します。大島町では、被災住民や被災地域の住民が住み慣れた地域で安心して暮らせるように生活・復興支援が継続されています。一方、各自治体においては、福祉避難所をはじめとする要配慮者支援の検討がすすめられています。今号では、東京で初めての福祉避難所を設置した大島町の当時の状況と、その後の生活・復興支援をふり返るとともに、後半では、一般避難所で要配慮者を受入れられる地域づくりをすすめる京都府の実践を通じて、今後の災害時要配慮者支援と地域づくりについて考えます。
Ⅰ 土石流災害から4年の今。島が培ってきたつながりを被災後の地域づくりにも
平成25年10月16日未明、当時、関東地方に接近・上陸する台風としては「10年に一度の強い勢力」と表現された「台風26号」により、大島町では記録的な豪雨に見舞われ、その影響により発生した大規模な土石流災害で、死者36名、行方不明者3名(29年9月現在も捜索中)、全壊建物137軒という甚大な被害を受けました。
当時島内では、学校や公民館等11か所に一般避難所が設置され、「大島けんこうセンター」と島唯一の特別養護老人ホームである(社福)椿の里「大島老人ホーム」に都内で初めての要介護者向け避難所が設置されました(※)。
(※) 「大島の応急復旧に向けた取組について(平成25年12月東京都)」より
その後、大島町では応急仮設住宅が小学校跡地のグラウンドに建設され、26年1月末より入居開始。そして、島内2か所に復興住宅が建設され、29年2月からは岡田地区復興住宅、3月末には元町家の上復興住宅への入居が開始されました。
大島社協では、巡回訪問などにより被災者の生活上のニーズを把握し必要なサービスにつなげる等の生活支援を行う「生活支援相談員」を26年4月より2名配置しました。29年3月末で生活支援相談員の配置は終了しましたが、毎月1軒ずつ手渡しで届けてきた『かわら版』(災害ボランティアセンターや町の情報、社協のお知らせ、復旧復興工事の進捗状況、地域の話題をまとめたもの)は、計50号になりました。
被災住民・被災地域を支える
大島社協では、28年3月より、被災者や被災地域の住民が住み慣れた地域で安心して暮らせるように、また、関係機関が情報を共有し的確な生活・復興支援をしていくため、「大島町被災者生活支援連絡会」(以下、「連絡会」)を設置しています。(1)大島社協、(2)大島町民生児童委員協議会、(3)東京都大島支庁、(4)東京都島しょ保健所大島出張所、(5)大島町役場(福祉けんこう課、子ども家庭支援センター、土砂災害復興推進室)がメンバーとなり、被災者の生活支援(住宅・生活・人間関係)に関すること、被災者の孤独死の防止に関すること、その他生活支援に必要な事項について情報を共有しています。28年度は毎月、29年度は隔月で開催しています。
対象者リストは現在410名で、大島社協が管理し連絡会での情報を基に更新しています。今、重点的に情報共有をしている住民は、被災により家族を亡くしたり、生活状況が変化した高齢者や障害者、子ども等10名です。支援内容として「生活再建」、「精神面」、「身体面」、「経済面」、「話し相手」、「その他」の5つの項目を設け、対象者ごとに支援が必要な項目に主につながっている機関を割りふっています。具体的な内容としては、現在の健康状態や通院状況、年金等制度の利用状況、就業状況、現在の困りごとなどについて、訪問や関係機関を通じて得た情報を共有しています。大島社協事務局長の藤田好造さんは、「住民同士の距離が近い島の環境では、内容によって町の機関にかえって相談しにくいと感じる方もいる。町役場の専門職以外に都大島支庁の専門職がいることはありがたい」と話します。
また、民生児童委員も連絡会にはいることで、専門職への相談内容だけではない、普段の暮らしの様子も共有することが出来ます。連絡会を通して、主に関わっている機関以外も対象者の状況を把握し、何気ない場面での自然な見守りが行われています。
「大島町被災者生活支援連絡会」の様子(29年9月)
経験を活かした福祉避難所づくり
東京において初めての福祉避難所を経験した「大島老人ホーム」では、1階のデイサービスのスペースにベッドを並べて対応しました。大島町役場福祉けんこう課被災者支援係の星朗子さんは、「当時、(社福)椿の里が運営する地域包括支援センターの保健師の采配で受入れ準備をすすめた。ショートステイも含めて介護度が高い人を受入れてもらった」と話します。住民課介護保険係係長の船木健さんも当時をふりかえり、「椿の里とは協定も結んでいたが、普段からの交流もあるため好意的な対応だった。役場の専門職であっても、初めて会う避難者もいる。椿の里は普段からの避難者同士の人間関係等も考慮に入れてベッドを配置し受入れてくれた」と話します。介護度が高い方の受入れ時の送迎は、ハンディキャブを所有する椿の里と大島社協が担当しました。また、福祉避難所にヘルパーがきて、おむつ交換などを行うなど「在宅のサービスを福祉避難所で実施した」と船木さんは言います。一般避難所に避難した後に、ケアマネジャーの判断で福祉避難所へ移った方もいました。一方、一般避難所で過ごした要配慮者もいました。「ケアが重点的に必要な方だったが、近所の方が様子を分かっているので短期的な避難だったこともあり一般避難所で過ごせた」と福祉けんこう課被災者支援係係長の岩崎玲子さんは話します。
現在、大島町では高齢福祉施設1か所、障害者施設は南部と北部に計3か所福祉避難所の協定を結んでいますが、「障害のある方は、地域になじんでいる方が多いので一般避難所で過ごす方が多くなることを想定している。自閉が強い方や、外に出られない人は家族や支援者と福祉避難所を使う想定」と船木さんは言います。また、土石流災害以降に、町役場近くの金融機関から申し出があり避難所の協定を取り交わしました。防災所管課との話では、特別な対応が必要な方への避難所とすることとしています。福祉施設以外に福祉避難所設置を想定してる公民館も同様ですが、大集会室以外に小さい部屋が複数あることで、徘徊や声を出してしまう方や、もともと引きこもりがちな精神障害や発達障害のある方に対応可能だと考えています。
左から、大島町役場
住民課 介護保険係 係長 船木健さん
政策推進課 振興企画係 係長 藤田武宏さん
福祉けんこう課 福祉医療係長 坂上智彦さん
福祉けんこう課 被災者支援係長 岩崎玲子さん
福祉けんこう課 被災者支援係 星朗子さん
大島老人ホームに設置された福祉避難所の様子。
(災害時要援護者支援ブックレット3 災害時要援護者支援活動事例集より)
要配慮者個別支援計画づくり
他の自治体と同様に、大島町でも要配慮者個別支援計画の作成はすすめられています。居住地区ごとに避難場所は決めてありますが、対象者ごとに避難ルートや支援者を示さなければならず相当な事務量となっています。島内の離れた場所に住む親戚よりも、近所でつながりがある方を支援者に考えていますが、普段から声をかけあう関係であっても、個別支援計画に支援者として名前が載ることは相当な心理的負担になります。民生児童委員や自主防災組織の方は、本来の役割があるためなるべく個別支援計画の支援者には設定しません。支援者を依頼する際に渡すチラシを作成したり、支援者が空欄のままでも要配慮者支援名簿には登録可能としており、その場合は役場で調整することもあります。
島内の福祉施設の専門職も常に募集が出ている状況で、災害時の福祉避難所の運営においては、島外からの人的な支援に頼らざるをえない状況です。災害規模によっては全島避難となるため、島での中長期の避難所生活はあまり想定していませんが、東京都心部が壊滅的な被害を受けた場合など直後に人的な支援が期待できないことも考え、1週間は島の力で乗りきる備えも想定しなければなりません。
星さんは「ガソリンが半分になったら入れよう、携帯は充電しておこう、3日分の水は準備しようなど自分の身は自分で守ろうという声掛けを日常から行っている」と言います。
Ⅱ 京都府における一般避難所の要配慮者支援と地域づくりの実践
東京における福祉避難所は、平成25年台風26号に伴う土石流災害の際、大島老人ホームに設置された福祉避難所が唯一となっています。
平成28年9月に東社協は、『大都市東京の特性をふまえた災害時における要配慮者のニーズと支援対策に関する区市町村アンケート』を実施しています。そこでは、要配慮者のニーズに「在宅で生活する要配慮者そのものが多い」、供給体制では「入所施設が満床で、在宅サービスも休止が想定される」という現実の中、福祉避難所の整備をすすめつつ、半数近くの41.4%の区市町村は「一般避難所における要配慮者受入れや支援対策のマニュアル・ガイドラインの作成・整備を支援している」と回答しています。
一般避難所で要配慮者を受入れられる。このことに積極的に取組んできた自治体があります。
要配慮者を迎え入れられる避難所
京都府では、平成25年3月に『福祉避難コーナー設置ガイドライン』を策定しました。京都府健康福祉部介護・地域福祉課副課長の宮村匡彦さんは、「『コーナー』というタイトルから誤解が生じやすいが、ガイドラインの中身は避難所の『ユニバーサル化』をめざしているのが肝」と話します。避難者をより分けて、要配慮者を一角に固めるのではなく、共に過ごせる環境を重視しています。
ガイドライン策定に至った背景の一つは、東日本大震災で多くの障害者が避難所に行かなかったということ。危険な家屋や車中で過ごし、それは支援や情報が行き届かない状況にもつながりました。宮村さんは「ためらう人を減らしたい」と話します。そして、「ハードの整備はお金さえあればできるが、本当に大事なのはソフト。つまりは、人材。研修・訓練などを通じて、要配慮者に対応できる人材を少しでも多く地域に育てていく必要がある」と強調します。
そのため、京都府では、それぞれの地域に専門職から地域住民までの次の三層の人材を養成するべく取組みをすすめてきています。
左:京都府健康福祉部介護・地域福祉課 地域福祉担当 副課長 宮村匡彦さん
右:京都府健康福祉部介護・地域福祉課 地域福祉担当 主事 藤田真希さん
(1)福祉避難サポートリーダー
京都府は、府内7つの保健所の主催で毎年度、「福祉避難サポートリーダー養成研修」を実施し28年度末までにおよそ1千人を養成してきました。自らの地域を想定した演習などを研修に組み込んでいます。その参加対象は「市町村職員、福祉施設職員、社協職員、教職員等」です。宮村さんは「災害時、福祉施設には利用者を守り、さらに福祉避難所としての機能も期待される。そうした中でも、できる範囲で施設職員が近くの避難所の様子を見に来てくれて、住民の取組みをサポートしてくれるとよい」と話します。それぞれの役割で手一杯になる災害時ですが、地域に災害時の要配慮者への目線を少しでも増やそうとしています。
また、地域福祉担当主事の藤田真希さんは「始めた頃は参加が少なかった教職員の課題意識も少しずつ高まってきている」と話します。一般避難所は学校に設置されることが多く、「教職員が要配慮者のことを理解してくれる意義は大きい」と指摘します。
(2)京都府災害派遣福祉チーム(京都DWAT)
被災した地域に育った地域力だけでは要配慮者支援が難しいことも想定されます。そのため、(1)とは別に、府では広域から調整し必要な支援を送り込む「災害派遣福祉チーム」(DWAT)の養成に取組み、これまでに府内12チーム123人による福祉専門職のチームを養成してきています。平成28年熊本地震の際にも、同チームを支援活動に派遣しました。そこでの経験から、宮村さんは「例えば、避難所の子どもたちと一緒に環境整備のため下駄箱を作った。避難先の主体性を大切にした『福祉の目線』はやはり大切」と話します。
(3)福祉避難サポーター
一方、(1)(2)の養成を府としてすすめてきましたが、何よりも大切なのは地域住民の理解です。そのため、ガイドラインでは、市町村段階で訓練等を通じて地域住民に「福祉避難サポーター」としての理解を広げていくことを提案しています。
大切にしたいのは「地域福祉」の視点
宮村さんは「災害だからではなく、大切にしたいのは『地域福祉』の視点」と話します。京都府社協では、第4次中期計画(2015~2019年度)で、(1)災害時における要配慮者支援活動の推進、(2)災害ボランティアセンターの運営支援の2つを重点に掲げています。
京都府社協事務局次長の神戸望さんは「府内では平成24〜26年度に3年連続で水害の被害に遭った」と話します。本年度も9月に台風18号豪雨により府内で4つのボランティアセンターで災害支援活動をしています。神戸さんは「具体的な検討はまだこれからだが、社協が担う災害支援にはコミュニティワークの機能の発揮が必要」と話します。
府内では27年度までに全市町村で災害ボランティアセンターを「常設化」し、関係者が平時から情報を共有する取組みが始まっています。
そして、地域福祉・ボランティア振興課副主査の足立隆司さんは「災害時には平時には見えてこないニーズ、あるいは普段から意識していないと見えてこないものがある」と話します。これまでの災害で福祉避難所へつながってきた要配慮者は、発災前には福祉サービスとつながっていなかった人が少なくありません。また、在宅福祉サービスの休止や環境の変化によりそれまでの支援が途切れるケースもあります。そういった人たちを誰が支えるのか。それは、福祉専門職か地域住民かのどちらかではなく、また、災害の有無に関わらず、地域の課題解決力をいかに高めていくかが問われてくる課題です。
京都府社協は「災害時における要配慮者支援・コミュニティワーク機能の発揮」を目標に掲げ、一つひとつその取組みをすすめています。
左:京都府社会福祉協議会
事務局次長 神戸 望さん
右:京都府社会福祉協議会
地域福祉・ボランティア振興課
副主査 足立隆司さん
丁寧に地域への理解を広げたい
京都府長岡京市では、現在3つの自治会・自主防災会を対象に、災害時要配慮者支援制度における個別計画作成のモデル事業を実施しています。長岡京市では、この制度を地域住民へ周知するとともに、災害時要配慮者の方の登録をすすめ、災害が起きた際にできる範囲で災害時要配慮者ごとに支援をする避難支援者を要配慮者本人が選定するようすすめています。
西の京地区では、避難支援者になることへのハードルを下げようと、「避難支援者」を「避難サポーター」に、「避難サポーター」を支える核となる人たちを「西の京はぴねす隊」に言い変えるなどを工夫しながら、要配慮者が避難支援者を見つけるためのサポートをしています。また、班単位での見守り・助け合いや、災害時要配慮者同士をお互いの避難支援者としてマッチングすることもすすめてきました。
長岡京市健康福祉部社会福祉課の板垣美紀さんは、「本制度ができた平成20年当時、市民に『登録しておけば災害時に行政、消防、警察などが助けに来てくれるもの』と誤解されがちだった」と話します。そこで長岡京市は、地域力を高めるという視点で、自治会・自主防災会・民生児童委員向けに手引きを配布し、それをもとに地域づくりをしてもらえるようすすめてきました。また、市では、本制度の説明や登録申請の手伝いを民生児童委員にお願いしますが、地域で支える力を増やすため、民生児童委員は避難支援者にはなれないことにしています。
要配慮者への周知から、登録申請の手続き、登録内容に変更がないかの確認作業は1年がかりですが、長岡京市では丁寧に地域の中に理解者を増やしていく方法で地域の力を高めようとしています。
平成28年10月に、市内特別支援学校で人工呼吸器等の医療機器を使用している在宅医療児の避難や、福祉避難所での支援の訓練を実施しました。保健所と市、学校が主催し、自治会や社協、医師会などが協力し、市内の在宅医療児を搬送し、避難場所での療養や電源確保の方法を学びました。市民協働部・安全推進室長の河北昌和さんは、「当日は、『通い慣れている支援学校に安心して避難したい』という保護者の想いや、在宅医療児がどのようなニーズを持っているのかくみ取れる機会になった」と言います。
左から、長岡京市
健康福祉部社会福祉課
課長補佐兼地域福祉・労政係係長 板垣美紀さん、
市民協働部防災・安全推進室
防災・危機管理担当総括主査 井手竜太さん、
健康福祉部社会福祉課
地域福祉・労政係総括主査 宮本公平さん、
健康福祉部社会福祉課
地域福祉・労政係主査 藤原泰葉さん
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「地域共生社会」の実現がめざされている今。災害があるからではなく、地域における要配慮者を支える力のあり様を福祉専門職、地域住民がともに考えていく実践が始まっています。
http://oshima.tokyoislands-shakyo.com/
(社福)京都府社会福祉協議会
http://www.kyoshakyo.or.jp/
京都府
http://www.pref.kyoto.jp/
京都府長岡京市
http://www.city.nagaokakyo.lg.jp/