公益社団法人福島県視覚障がい者福祉協会 専務理事 中村 雅彦さん 
会員の枠組みにとらわれず障がい者の支援を考えていく
掲載日:2017年11月29日
2015年2月号 明日の福祉を切り拓く

 

あらまし

  • 中村雅彦さんは特別支援学校の教諭等、福島県で障がい者の教育と福祉に携わってきました。東日本大震災で教え子が犠牲になったことをきっかけに、震災で避難が困難だった方や犠牲になった方のご遺族等への聞き取り調査を始め、現在は被災した障がい者の支援活動を行っています。

 

私は福島県で特別支援学校教諭として勤務した後に、福島県教育庁や県立養護学校及び盲学校の校長、県立養護教育センター所長、桜の聖母短期大学教授など長年にわたり、障がい者の教育と福祉に従事してきました。

 

避難が難しい障がい者への聞き取り調査を始める

東日本大震災の直後、これまで関わってきた多くの教え子たちの安否が気になり、安否確認と支援を始めました。数十年ぶりに会う教え子たちは、堰を切るように話をしてきて、震災及びその後の避難生活で相当のストレスを感じていることが伺えました。そんな矢先に、教え子の悲報が届きました。避難が困難である障がい者の支援を訴えるためには多くの事例が必要であると感じ、2011年4月から津波で犠牲になった障がい者のご遺族や関係者等への聞き取り調査を始めました。障がい者は例え住み慣れた家であっても、地震で物が倒れただけで玄関に行くことすら困難になります。あと少しの支援があれば助かった例が次々と浮かび上がってきました。

 

これらの聞き取りを事例としてまとめるとともに、その中で見えてきた問題や、それを解決するためのヒントを提言という形で掲載して、「あと少しの支援があれば―東日本大震災 障がい者の被災と避難の記録―」(ジアース教育新社)を2012年2月に発行しました。

 

小さな単位の組織が障がい者を助ける

私は、震災直後の2011年4月から福島県視覚障がい者福祉協会の専務理事に就任しました。それと同時期に開始した聞き取り調査を通して、災害時の協会のあり方について考えさせられました。なぜなら、大規模な災害が発生した時に障がい者を助けるのは、地区レベルの協会や家族会など小さな単位の組織だということが見えてきたからです。

 

災害時の救助や安否確認を自治体で行うにはとても時間がかかります。また、県レベルの大きな団体が震災直後にできたのは安否確認程度で、各地の状況を把握するのが難しく、震災情報の提供や生活支援に乗り出すまでには時間がかかりました。地区レベルの組織であれば、地区内の詳細な情報をすぐに提供できるとともに、避難者を直接支援しに行くことができます。ですから私は、県レベルの協会から細分化した下部組織を構成し、(下部組織を持っている場合でも)下部組織が非常時にいつでも機能するように予算や権限を持たせておく必要があると感じています。

 

会員の枠組みにとらわれず支援していく

現在、福島県内には視覚障がい児・者が約6千人いると把握しています。そのうち、福島県視覚障がい者福祉協会の会員は240名です。協会に属していなくても多くの情報が得られる時代なので、組織離れについて考えなければなりません。しかし、私は会員以外の方に対しても必要な情報を積極的に届けるべきだと考えています。特に、視覚障がい者は普段から様々な情報をテレビやラジオ等から入手しています。しかし、災害時には電気が止まってしまい情報が入らず、その場から動くことのできなかった方がいました。非常時のための対策を協会として考え、提供しておく必要があると思います。会員の枠を越えて、どこにも属していないような方とどうつながっていくかと考えておくことがとても重要で、協会はそのためにあると私は思っています。それが結果として会員ではない方からも必要とされ、協会の存在意義となるのではないでしょうか。

 

今後の展望

まずは協会外部の意識改革のため、県民を巻き込んだ事業と広報に取り組んでいます。また、県内の他の障がい者団体等との交流の必要があると感じています。震災を機に、1つの団体よりは、大きな組織で社会に訴える方が効果的なこともあると感じたからです。福島県内には障がいごとの多くの団体があるので、交流の機会を増やす努力をしています。

個人としては今後も、障がい者の生活の安定を願って支援に取り組んでいきます。福島県には、原発事故の影響で自宅に戻れない障がい者が2500人以上はいると把握しています。住む場所は違っても、仲間との交流や食事、運動、買い物など震災前の生活に少しでも近づけるよう支援をしていきたいと思います。

 

プロフィール

  • 中村 雅彦さん
  • 1946年福島県生まれ。公益社団法人福島県視覚障がい者福祉協会専務理事及び福島県点字図書館館長、福島県視覚障がい者生活支援センター長を兼任している。長年にわたり障がい者の教育と福祉に従事。
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公益社団法人福島県視覚障がい者福祉協会 専務理事 中村 雅彦さん 
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