田園調布学園大学 教授 村井祐一さん
福祉施設・事業所の情報発信の目的は?
掲載日:2018年3月26日
2017年12月 連載

 

田園調布学園大学 教授 村井祐一さん

・田園調布学園大学 人間福祉学部  社会福祉学科 社会福祉専攻 教授
・日本福祉介護情報学会(JISSI)副代表理事
・東京都社会福祉協議会 東京都高齢者福祉施設協議会  情報・広報室 広報戦略推進委員会アドバイサー等

 

 

あらまし

  • 「ホームページでの情報発信を充実させたら求人への応募が増えた」。東社協が、平成28年に実施した「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査」ではこのような回答が見られました。社会福祉法人に求められる情報提供、情報公開、広報の戦略…。今号より、「福祉×情報」をテーマに連載を開始します。第一回は、田園調布学園大学の村井祐一先生より社会福祉施設・事業所における情報についてご寄稿いただきました。

 

情報提供・公開が経営やサービスの質として評価される時代

平成12年(2000年)に施行された社会福祉法により、社会福祉領域に契約の原理が導入され、福祉サービスの適切な利用を保障するために同法第75条に「社会福祉事業の経営者は、福祉サービスを利用しようとする者が、適切かつ円滑にこれを利用することができるように、その経営する社会福祉事業に関し情報の提供を行うよう努めなければならない。」と示されました。

 

平成15年には介護サービス事業者の情報公開及び第三者評価の推進が行われ、平成17年には個人情報保護法の施行に伴う情報管理の徹底化、平成26年には厚生労働省通知「社会福祉法人の認可について」の一部改正により、社会福祉法人は社会福祉法第53条に基づく社会福祉法人現況報告書並びに添付書類である貸借対照表及び収支計算書を公表しなければならないこととされました。

 

さらに平成28年には社会福祉法人に求められる「地域における公益的な取り組み」として、日常生活又は社会生活上の支援を必要とするものに対して、無料又は低額な料金で、福祉サービスを提供するよう努めなければならない」(地域における公益的な取組みを実施する責務)が規定され、それらの取組に関する情報発信および広報活動が重視されるようになりました。

 

これら一連の改革は、福祉領域における情報提供・公開を中心とした情報マネジメントが経営の透明性の証明や利用者の権利を保障するための重要な要素になっていることを示しています。

 

積極的な情報提供・公開による経営の充実に向けて

一連の制度改正に伴い、情報提供・公開を中心とした情報マネジメントの重要性が高まる中、受け身的な姿勢で単なる情報開示を行うのではなく、これを経営改革の機会として位置付け、積極的な情報発信による地域社会との信頼関係や連携向上を推進する必要があります。

 

では、パンフレットや広報誌、ホームページなどを作って、積極的に情報発信をすれば良いのかという話になりますが、単にそれらを実行するだけでは十分な成果につながらない場合があります。

 

情報発信は、地域社会や利用者との相互理解と信頼関係づくりが本当の目的であるため一方的な情報発信だけではこれらの価値を醸成するのは困難です。

 

近年、情報発信は双方向性が重視されていて、情報提供対象者に対する情報収集とセットで行うべき取組とされています。

 

適切な情報収集と発信は、サービス利用者とその家族の権利・利益を保障するだけでなく、自組織の理念、目標、機能、役割、具体的な事業内容、日々のサービス内容、職員達の思いなどを広く地域社会に伝え、地域との信頼関係、つながりづくり、ボランティアや実習生の心象、ひいては求人(職員募集)などにも影響を与えることになります。

 

福祉施設・事業所の情報発信に関する具体的な課題

東京経済大学名誉教授の猪狩誠也氏は、広報の機能を次のようにまとめています。

 

(1)社会との共生を図る
(2)組織の社会的認知(コーポレート・レピュテーション)を促進する
(3)社会からの組織への要望を聴く
(4)自組織を取り巻く社会・経営環境を把握する
(5)組織文化の構築・改革を図る
(6)以上の活動によって業績の向上に寄与する

 

単なる広告やアピールでは無い点が重要です。

 

現代社会におけるパブリックリレーションズ(以下、PR)は、組織体がより適切な事業活動を行うために、パブリックに対して組織理念や事業に関する情報発信や意見聴取を行い、その結果としてパブリックから寄せられた意見を組織理念や事業活動に反映させる経営手法のひとつといわれています。

 

一般にパブリックとは、PRにおいて組織体が情報発信および意見聴取を行う対象のことで、組織体が事業の維持・発展を図るうえで、組織体の事業活動に直接的・間接的に影響を与える利害関係者(ステークホルダー)として捉えられています。

 

PR活動に対して、現状の福祉施設・事業所には表のような課題が存在しています。

 

福祉広報活動は、サービス提供者側と閲覧者(当事者やその家族など)間の情報共有、コミュニケーションの向上などによる信頼関係の向上や活動への参加促進、適切なサービスの選択と利用、サービスに対する評価や相談(苦情)を得る機会につながっていることを再確認して下さい。

 

PR活動は組織の経営を支える重要な事業のひとつです。PRに関する中・長期の事業計画を策定し、それに基づいた組織づくり、人材育成、情報収集・発信体制(報連相)づくり、組織の見える化などを進めていくことが大切です。

 

取材先
名称
田園調布学園大学 教授 村井祐一さん
概要
田園調布学園大学
http://www.dcu.ac.jp/
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