2月21日(金)・22日(土)静岡県静岡市において、静岡県内外の災害ボランティアによる救援活動のための図上訓練(以下、訓練)が行われました。今年で15回目となり、毎年、県内外から300名程度の参加があります。今年も294名の参加がありました。
「つながり」を意識した静岡式図上訓練
南海トラフ地震による揺れとそれに伴う津波などにより、静岡県では多数の市町が被災することが予想されています。また、災害時には、県内外のさまざまな立場の民間組織などによる支援が入ることが想定されています。そのため、訓練は市町域、県域、県外との「つながり」を意識した支援体制をつくることを目的としてきました。
この訓練は「ワークショップ型訓練」を行っていることが特徴です。与えられた課題の解決策を検討するなかで、問題と問題を抱えている地域への理解を深め、予防やネットワークづくりなどを広く考える訓練となっています。また、県外の関係者にも多く参加を呼びかけ、広域災害時の「受援」も意識しています。「①地域を知る」、「②地域に起こると思われる被害を予測する」、「③被災者が何を求めるのか、またその被災者が求めるものが時間の経過とともにどう変わっていくのかを過去の災害の教訓から学ぶ」ことで、地域理解を深め「受援力」を高めることもめざしています。
訓練の内容は訓練の企画・運営を行うワーキンググループ(以下、WG)が企画しています。今回は行政、社会福祉協議会(以下、社協)、子育て支援団体、外国人支援団体、障害者支援団体、災害ボランティア団体、企業、東京ボランティア・市民活動センターなどから30名がWGに参加しました。企画の段階からさまざまな立場の人が参加し、多様な考え方が訓練に反映されることで、災害時のスムーズな連携につなげることを狙いとしています。
訓練の参加者には県内外プレイヤー、ビジターの枠があります。プレイヤー参加者は与えられたグループワークを行い、他の参加者とつながりを深めます。ビジター参加者はより多くの分野の人に参加してもらうために設けられた参加枠です。ビジター参加者は図上訓練の企画意図や経緯、事例報告者の追加報告を聞いたり、プレイヤーのワークを見学するなど、訓練の全体を見渡すプログラムが用意されていました。
まず初めにプレイヤーもビジターも含めた全参加者で、今回の訓練は「『様々な担い手を理解』し、自分たちのできる範囲を広げて『一歩はみだすこと』」をテーマにしていることを確認しました。
続いて、静岡県職員から県内の地震被害想定について説明がありました。南海トラフ地震では最大震度7が想定されること、上下水道は復旧までに約4週かかること、地震が発生する時間帯によって想定される被害規模が異なることなどが説明されました。その上で「さまざまな被災者支援の場面では、行政とボランティア等が協力・連携し合うことが望まれる」ことが示されました。
さらに、静岡県社協から県内の連携支援体制について説明がありました。災害時のボランティアの受入れ体制として「静岡県災害ボランティア本部・情報センター」(以下、センター)が広域拠点として設置され、市町災害ボランティア本部などと連携しながら支援することが想定されています。センターには市町の災害ボランティア本部を巡回し、その活動を支援する「市町支援チーム」の設置も予定しています。構成メンバーは、県社協職員、県ボランティア協会職員、ブロック派遣社協職員などが想定されていることが説明されました。
プログラム1
その後、プレイヤー プログラム1「地域の困りごとと多様な担い手の理解」が行われました。プレイヤー参加者には「発災後〇日」「誰が」「どこで」「何に困っているか」が書かれた「困りごとカード」が配られました。参加者はそれらを「自団体でできること」(青い付箋を貼る)「他団体と繋がればできること」(黄色い付箋を貼る)「対応できないこと」に机上で分類しました。次に、対応できないこととして出されたカードについて、他団体と連携すれば対応できることをグループごとに議論し、対応できることがあれば黄色い付箋を貼っていきました。最後に全体で共有を行い、対応できる困りごとがグループごとに異なることを確認しました。このプログラムでは、多様な担い手がいてもなお現状の役割だけでは「対応できない困りごとがある」ことに気づくことが目的でした。プレイヤー参加者からは「アレルギーのある人はどうするか。普段から医療と連携しておくことが大切ではないか」などの意見が出されました。
カードに色別の付箋を貼り、分類して置くことで「自団体でできること、連携してできることなど誰でも支援の担い手になれる」「現状では対応できない課題がある」ことが可視化されました。
プログラム2
2日目は、平成30年に発生した西日本豪雨災害で被災した倉敷市、倉敷市社協の職員から他団体との連携の動きや課題となった点などについての報告から始まりました。続いて令和元年に発生した令和元年東日本台風(台風第19号)で被災した住民の罹災証明書の交付申請支援を行った静岡県行政書士会の報告がありました。
これをふまえたプレイヤーのワークでは、自団体でできること以外の「困りごと」を選び、日頃取り組んでいること、災害時に取り組むこと、支援の届かない困りごとに対しての工夫を考えました。これは、プログラム2の目的である「一歩はみ出すことの可能性を考える」ことにつながっています。ワーク参加者からは「自宅が全壊して受験勉強ができない高校3年生に対しては大学生がボランティアで教える。場所がなければ高齢者施設等で空き部屋を借りて勉強し、多世代交流を図る」といったアイディアが出ました。
2日間の総括として、常葉大学社会環境学部准教授の小村隆史さんより「初心者にも参加しやすく、深堀りしがいのある訓練だった。困りごとカードを氷山の一角として捉え、より課題を深堀りしていってほしい」とコメントがありました。
災害時の多様な団体との連携に向け、これからも取組みが続いていきます。