NPO法人こつこつ 浅見好香さん
みんなのスタートラインを 一緒にしたい
掲載日:2020年8月6日
2020年6・7月合併号 くらし今ひと

浅見好香さん

 

  • 本記事は、福祉広報6・7月合併号(738号)内のコーナー「くらし今ひと」に掲載されたものです。「くらし今ひと」では、福祉サービス利用者の方たちや、さまざまな支援をしている方たちのくらしや思いに焦点を当て、インタビュー形式で掲載しております。今回は、学生時代の経験をもとに「NPO法人こつこつ」を設立した浅見好香さんに、これまでの経験や今後についてお話を伺いました。(新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点より、オンラインにて浅見さんに取材を行いました。)

 

きっかけは大学のボランティアサークル

中学や高校では、和太鼓や剣道に打ち込んでいました。その頃は、毎日自分の技に磨きをかけることに何より楽しみを感じていました。

大学に入り、それとは違う、誰かの役に立つことをしたいと考えるようになりました。そんな時に友人から誘われたのが、障害のある方と関わるボランティアサークルでした。サークルでは、当事者の方との外出や交流などを行っていました。

活動の中で、自分にとっては当たり前だったことが必ずしもそうではないことに多く気づかされました。例えば車椅子を利用されている方が、スロープがないためコンビニに入れない、狭くてトイレを利用できないなど、障害のある方が日々暮らしていくことの一つひとつにハードルがあることを実感しました。

 

大学4年の時、サークルの活動を通じ、こつこつの前身団体である「学習会サロン」(以下、サロン)と出会いました。

サロンでは、障害があり発話が難しい方が介助を受けながら指や目で文字や記号を書いたり選んだりする「介助付きコミュニケーション」という方法が実践されていました。

 

初めて見たときは「そこで読みとられる意思は本当に本人のものなのだろうか」とすぐには信じられなかったのを覚えています。

しかし、ある当事者が直前まで大きな声を出していたのに、支援者が言葉を伝え始めた途端静かになったり、別の方に「これで合っていますか?間違っていますか?」と尋ねると拍手で反応したりするのを目の当たりにするうちに、もしかしたら本当に本人の意思なのかも知れないと思うようになりました。

 

介助付きコミュニケーションを練習している中で、最初はうまく聞き取れず、当事者の方に申し訳なく思うこともありました。そんな時、ある当事者の方に「できなくてもいい、一人の人間として接してくれればそれだけでいい」と言われたことがありました。

 

私が同じような状況にいたとしたら、「自分の言葉を聞いてくれなくてもいい」とは言える気がしません。

意思があるのに、それを伝えられないばかりか、体が勝手に動く、声が勝手に出ることで「分かっていない人」と周りから決めつけられることはどんなに辛いことでしょうか。

一人の人間として尊重されるというスタートラインにも立てていない方がいることを知りました。この時感じた「障害の有無にかかわらずみんなのスタートラインを一緒にしたい」という思いがそれからの活力になっています。

 

自分たちが発信していきたい

サロンでの活動は勉強会や芸術鑑賞会などが中心で、どちらかというと仲間内の集まりであったように思います。

転機の一つとなったのは、相模原障害者施設殺傷事件でした。

 

当時の報道では、被告が「重度の障害者は生きる価値がない」という偏った思想の下で、発話が難しい方を狙ったことが繰り返し伝えられたように思います。

その一方で、被告の差別的な主張に対して、世間の抗議の声が霞んでいることに怖さを感じました。サロンの参加者からは「自分たちが被害者であってもおかしくなかった」「自分たちが伝えていかなければならない」と声があがりました。

 

発話が難しくても意思があるということを、もっと外へ向けて発信したいという共通の思いをみんなが持てました。

このことがこつこつ立ち上げへの大きな後押しとなったのです。

 

こつこつは「言葉をつむぎ、心をつなぐ。」の頭文字から名付けました。

 

介助付きコミュニケーションはまだ世間に広く知られているような方法ではありません。

また、ご本人の気持ちに反する受け止め方をすることがないよう、気をつけなければならないと感じています。

試行錯誤ではありますが、これからもみんなの思いを発信し続けたいと思います。

 

(介助付きコミュニケーションは、介助が必要な方との間で試行されているコミュニケーション手法の一例です。)

 

介助付きコミュニケーションを実践する浅見さん(右)

 

取材先
名称
NPO法人こつこつ 浅見好香さん
概要
NPO法人こつこつ
https://kotsu2.or.jp/
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