(社福)東京都知的障害者育成会「江戸川区立さくらの家」
仕事にやりがいと喜びを感じられる職場づくり
掲載日:2017年12月11日
2017年3月号 連載

「江戸川区立さくらの家」

 

あらまし

  • 東社協が28年10月に行った調査(※)では、働き続けるための環境や条件として、初任者職員の7割が「日々の業務が楽しいこと」をあげています。今号では、知的障害者通所施設「江戸川区立さくらの家」(以下、「さくらの家」)の、ワークライフバランスを意識し、職員が仕事にやりがいと喜びを感じられる職場づくりの事例をご紹介します。(※)「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保育成定着に関する調査」

 

仕事内容を家族に知ってもらう

さくらの家は生活介護の施設として、重度の知的障害のある方に、日常生活上の支援を行うとともに、創作的活動、生産活動、機能訓練等の機会を提供しています。「家族参観日」は、年休の取得推進などとともに、次世代育成支援の一環として、平成21年より法人で取組みはじめました。

 

家族参観日に参加する子どもは、親が担当する活動グループに入ります。「あの時声をかけたのは、○○を考えていたんだよ」など、勤務中の支援の視点などについて帰宅後も話をすることができ体験が深まります。初めは緊張で硬い表情だった子も、利用者に誘われ手を引かれたり、屈託のない笑顔を見る中で、お昼ご飯を食べる頃には、すっかり溶け込んでいます。利用者も子どもの訪問をとても喜んでいます。

 

さまざまな背景の人材が活躍する

さくらの家を運営する(社福)東京都知的障害者育成会は、受託施設等事業所63か所、グループホーム123か所などを運営する大規模な法人です。常勤職員採用は法人が一括で行い、非常勤職員採用は事業所で行っています。さくらの家では、保育士資格や介護福祉士資格取得のための実習生を受入れています。近隣に「介護サービス科」を設ける「東京都立城東職業能力開発センター江戸川校」があり、修了生の方へ採用情報を提供しています。「障害者施設について今まで知らなかった」という実習生が多くいます。保育分野や高齢分野での就職をイメージして学んでいた方が、実習で初めて障害分野の経験を得て、「あの笑顔が忘れられない」と、就職先の選択肢にする方もいます。

 

支援係長の湯沢理恵さんもその一人です。学生時代、保育所の保育士をめざしていましたが、実習で出会った障害分野で就職しました。「障害者施設で出会った利用者のパワーに圧倒された。とにかく元気で、素直で、笑顔に惹かれて今の仕事を選んだ」と話します。施設長の中村和人さんは「法人の入職式で実習にきていた見覚えのある顔を見つけた時は嬉しい」と言います。現在、さくらの家では、元教員で支援員になった方など、60〜70代の職員も3名活躍しています。

 

「さくらの家」施設長の中村和人さん

 

時間を意識した業務改善に取組む

中村さんは、平成26年にさくらの家施設長に着任しました。当時、利用者への支援の質をより良くするために、時間を気にせずに仕事をする職員の姿がありました。中村さんは、仕事と私生活の調和の必要性を感じ、27年から職員に時間を意識した働き方の課題提起をしてきました。「本当にその業務が必要か」、「その業務は本当に複数体制が必要なのか」等の視点で業務を見直しながら、退勤時間の目標を決めて時間を意識しながら仕事に取組むなど「時間管理」を推進しました。

 

日々の業務の中で「記録」に関する時間にも課題がありました。利用者の支援計画作成など事務に関わる業務がありますが、日中、直接支援に関わる職員には事務に充てられる時間が限られています。そこで、様式を見直し記入項目を必要最低限に絞り込みました。また、これまでは全ての会議で議事録作成を必須にしていましたが、グループ内での話し合いは「打ち合わせ」にして議事録を不要にするなど、目的や内容によって「会議」と「打ち合わせ」を使い分け、事務作業の軽減につなげました。

 

そして「会議」開催にあたっては、終了時間の目標をもち1時間で終わらせるように進行する意識改革を行いました。会議や打ち合わせの時間設定についても、お互いの休憩時間に配慮することを指示しています。時間を意識した会議進行のスキルアップにも取組みました。法人の地区ブロック研修でファシリテーションに関する研修を開催し、ブロック内の6施設から職員が参加し、模擬会議体験、板書の方法、会議の準備、進行の仕方などについて学びました。取組み2年目ですが、「時間」に関して高い意識が職員から感じられるようになりました。

 

結果として退勤時間が早まり、家族との時間や趣味に充てられる時間、睡眠時間の確保など、職員が健康で充実した私生活を過ごすことにつながりました。業務においても充実した支援につながります。

 

職員の「個性」を職場づくりに活かす

着任初年度、施設長自身が、研修や講座の受講などを通じて、施設長の役割で一番大切なのは「マネジメント」であることを知りました。新任施設長として悩みも多くありましたが、マネジメントに関する書籍を読む中で、職員一人ひとりの個性に注目した取組みができないかと考えました。

 

4月の職員との面談時に、業務に関することだけでなく、職員の得意なこと、興味があることについても聞きました。そして「職員の得意なこと」と「利用者への意思決定支援」を組み合わせ、利用者が自分の好きな活動を選択し参加できる「選択プログラム」を思いつきました。職員がそれぞれ得意とする「調理」、「おしゃれ」、「スポーツ」、「音楽・芸術」の4つのグループに分かれ、自分のグループの活動内容や、その活動を利用者に選択してもらうためのプレゼンテーションに向けた準備をしました。「選択プログラム」当日、職員による活動内容のプレゼンテーションを見た利用者は、「楽しそう」という印象や、好きな職員がいるからなど、それぞれの理由で活動グループを選択しました。

その後の活動も含め、利用者のみならず職員も楽しく過ごせました。「この活動が本当に楽しかった」と感想を伝えてくれた職員もいます。

 

中村さんは、「この取組みを通して、職員一人ひとりの個性を活かすことで、職員が楽しさを感じ、仕事のモチベーションを上げる展開につながっていくことを学ばされた。次につながるヒントがたくさん得られた」と話します。

 

習字プログラムの時間。

 

利用者と決めた今月のテーマは「好きなおでんの具」か「好きな曲」です。

 

施設長も習字プログラムに参加します。

 好きなおでんの具は「はんぺん」です。

取材先
名称
(社福)東京都知的障害者育成会「江戸川区立さくらの家」
概要
(社福)東京都知的障害者育成会「江戸川区立さくらの家」
〒134-0034 江戸川区小松川3‐13‐4
TEL.jp/~iku-sakuranoie/
江戸川区の指定管理として生活介護事業を実施。利用定員55名。職員は事務係5名、支援係23名
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