あらまし
- 平成28年10月に本会では、質の高い福祉サービスを提供できることが、定着と確保に結びつく(=質と量の好循環)ことを前提とした「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査」を業種横断で実施しました。「施設部会連絡会」においても「施設業界として、『質』は不可欠である姿勢を明確にするとともに、その『質』の中身を明確に発信する素材を得る」必要性について指摘されています。福祉広報29年3月号では「望ましい福祉人材の成長イメージ」を紹介しましたが、本号では、現在の事業所に勤めて3年以内の初任者職員と、指導的な立場にある指導的職員の状況を中心に「福祉人材に求められている力」について考えます。
人材を確保していくにあたって、「望ましい量」「望ましい質」の確保ができているかを施設長に尋ねたところ、「十分に確保できている」「おおむね確保できている」を合わせると、「量」で55.7%、「質」で53.7%と半数でした。
利用者ニーズや職員業務の変化
本調査では、7割の施設長が最近の利用者ニーズの変化について、「利用者ニーズが多様化して、個別のニーズをきちんと把握する必要性が高まっている」と回答しています。
具体的な変化の一つとして挙げられているのが、利用者の「重度化」「高齢化」です。例えば、障害分野での利用者の高齢化では、「医療的ニーズの高まり」や高齢者ケアへの対応の必要性など、「支援力の高さを求められる状況が深まっている」様子がみられました。そして、高齢障害者の介護保険制度利用に関する課題など、利用者の状態と利用可能な制度との関係で「施設の制度上の機能が利用者に合わなくなっている」という指摘もありました。その他にも、「延命措置を望まない方」「独居の方」「家族の高齢化に伴う在宅生活の困難ケース」の増加など、社会や生活スタイルの変化などによる利用者ニーズの変化がみられました。国基準(東京都の上乗せがある場合には都基準)よりも多く独自の職員配置基準を定めている施設は半数近くの45.0%で、その理由として「サービスの質を確保する」「職員の負担を軽減する」「安全の確保のため」「基準どおりでは、十分な支援ができないため」などが挙げられています。
また、最近の正規職員の業務内容の変化について尋ねた設問では、「制度改正が多く、その内容を理解したり対応したりすることに追われている」が44.3%と最も多く、「対応困難なケースの増加」(42.2%)、「施設外の関係機関との調整業務の増加」(40.9%)が続きます。その他としては、「チームケア会議」、社会的な要請に応じた「災害や犯罪への対応」にかかわる質の向上や、保育所や特養をはじめとする施設の増設・職員増による「指導・育成業務」の増加などが指摘されています。そして、そのような状況の中、リーダーシップをとっていける「中堅層の職員育成」が求められています。
施設長に「施設が人材を確保していく上で、最近適切に確保することが難しくなっている力」について尋ねた設問では、「状況に応じて柔軟に対応する力」が57・0%と最も多い結果でした。続いて約半数が「担当する業務以外のことや地域に目を向ける力」(49.0%)、「気配りや他の職員と適切に人間関係を形成する力」(48.4%)と回答しています。
初任者職員自身は「専門的な知識や技術」「発言力」を期待されていると感じている
現在の事業所に勤務して3年以内の初任者職員の9割は利用者への直接サービスを、4割弱は利用者家族への支援を現在担っていました。そして、「福祉を担う職員として必要とされている(期待されている)と考えている資質」について複数回答(5つ選択)で尋ねたところ、「社会福祉関係の専門的な知識や技術を持っていること」が59.4%で最も高く、続いて「自分の意見をしっかりもち会議等で発言できること」(46.4%)、「サービスの質を確保するために、職員集団をマネジメントする力」(42.1%)が上位でした(図)。
一方、「業務をすすめる上で悩むこと」を尋ねたところ、半数以上が「専門的な知識や技術の習得などスキルアップに関すること」(51.5%)を挙げました。悩むことの具体的な内容は、「求められていることが何なのか悩む(特養)」「このやり方で良いのか悩む(保育)」「日々の業務におわれ、専門的な知識やスキルアップをする時間が足りない(児童)」「スキルアップをめざしたいが費用等の理由からふみ出しづらい(更生)」「自分の考えをうまく伝えられない(救護)」「自分の支援が正しいか悩む(障害)」などでした。
「福祉のしごとを辞めたい」と思ったことがある初任者職員は3割でした。「利用者とのコミュニケーションが足りないと思った時(特養)」「漠然とした不安(高齢者在宅SC)」「同じ失敗を何回もしている自分が嫌になる(保育)」「自分に何ができるのかわからなくなってしまった(児童)」「利用者とのかかわりの中で自信が持てなくなった(母子)」「自分の小ささや無力感を痛感した(障害)」などが挙げられています。日々の業務への不安が積み重なることで仕事の継続にも影響してくる様子が読み取れます。
指導的職員自身は「課題の発見と改善方策を見極める力」が必要だと考えている
事業所内で指導的な立場にいる指導的職員向けに現況を尋ねたところ、98.5%が正規職員で、7割が「介護員・指導員・支援員・保育士」など直接支援を担う立場にいました。「主任」や「リーダー」という名称がつく役職名の方が多く、現在の役職に就いてからの経験年数は、「2年」(14.3%)、「3年」(13.5%)が上位でした。自身の立場については、6割が「マネジメント型」(組織やサービスを最適な状態に保つための管理・調整者)、そして4割が「プロフェッショナル型」(これまでに修得した高いサービス技法を活かして、部下や後輩の見本となる専門職)であると回答し、現在の仕事に「やりがい」を感じていると回答した指導的職員は7割に上る状況でした。
指導的職員自身が考える「指導的職員に必要とされる資質」の上位は、「課題の発見とそのための改善方策を見極める力」(60.1%)、「福祉関係の専門的な知識や技術」(59.6%)、「サービスの質を確保するために、職員集団をマネジメントする力」(53.7%)、「組織の理念をサービス改善や組織改革につなげるためのリーダーシップ」(52.6%)でした。そして、指導的職員を育成するために必要なこととしては、「チームワークをつくる」「仕事のやりがいを見つけられるようにする」「失敗から学ぶ力・立ち直る力を身につける」「指導的職員も認められ励まされる機会があること」などが挙げられました。
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こうしたことをふまえ、施設長からは、「事業所の望む職員像を明確にする必要性」「一人ひとりのキャリアビジョンに応じた個別育成計画の視点」などが指摘されています。本調査では、「直接処遇を担う職員の職位、職責または職務内容に応じた任用要件を定めている」施設が半数とキャリアパスの整備もすすんできている状況がありましたが、職員・職員自身が、それぞれの立場に求められていることを認識し、安心して現状を確認でき成長していけるキャリアパスとして運用していく事も望まれます。
URL:https://www.tcsw.tvac.or.jp
「質と量の好循環をめざした福祉人材の確保・育成・定着に関する調査」
https://www.tcsw.tvac.or.jp/chosa/documents/fukushijinzai-kakuho.ikusei.teichaku-chosa.pdf