あらまし
- 子どもへの無料学習支援活動に参加している大学生、岸野秀昭さんに、ご自身の体験、活動のお話をうかがいました。
高3の夏、自分に与えられた選択肢
幼いころから、「お金がない」「お金がない」という言葉を、母からよく聞いていました。周りの友だちよりは、自転車を買ってもらえるまでに若干時間がかかったりしていました。しかし、大好きだったカードゲームも買ってもらうことができていましたし、貧困というものが実際に、自分の身に降りかかったのは、高校3年生のときです。祖母が病気により他界、祖父は介護が必要となり老人ホームに入所することになりました。それをきっかけに、母も体調が思わしくなく、私自身も「全てのバランスが崩れる」とはこういうことか…と思うほど、肺炎や胃腸炎になり悪循環に陥ってしまいました。それまでは、漠然と、「自分も大学に行けるだろう」と思っていましたが、高3の夏、自分に与えられた選択肢のなさに愕然としました。「大学に行きたい」と、母と話し合ってみても、やはり現実的ではないという答えに至りました。当時の担任の先生に相談したところ、親身になっていただき、また、学費の相談で訪れた社会福祉協議会では担当の方に「一緒に考えていきましょう」という言葉をかけてもらったことが励みになりました。その後、学費が半額ですむ夜間大学に、なんとか進学することができました。
子ども本人の自然治癒力を信じる支援
自分が今、大学生であることは、周りの助けなしでは決して実現することはできませんでした。だから次は、自分が誰かの力になりたいと思っています。経済的に困難な家庭に生まれた子どもでも、大学進学ができ、自己実現を諦めないでいられる社会であって欲しいと切に願います。
現在、小中学生への無料学習支援の活動に参加しています。ボランティア講師としての活動中に、気がついたことが多くあります。貧困は、単にお金がないという問題だけではなく、複合的に原因が入り組んでいるということ。子どもへの学習支援の場では、信頼関係が第一で、子どもに「コイツだったら、勉強を教えてもらっても、いいかな…」と思ってもらうことが大事です。活動を通して、今後目指したいことは、医療で例えるならば、子ども本人の自然治癒力を信じる支援です。子どもが生きていく中で遭遇する問題を、子ども自身が負い目や自己否定の原因にするのではなく、ボクシングのリングのロープのように、ぶつかってからそれを跳ね返すような「力」にしてあげたいと考えています。大人のなかには、勉強ができない子イコール「何もできない子」という目で見る人もいます。しかし、大人が思う以上に子ども達は考えながら生きています。生活保護基準の見直しが行われていますが、子どもの機会を減らす結果にはしないで欲しいです。
勉強以外の学びも、子どもにとって必要なことです。私自身も、親や祖父母以外の人に怒ってもらう機会がないまま育ちました。そもそも、貧困の有無に関わらず、「自分のことを見てくれている人」がいるという実体験は、その後の人生の土台となり、生きていく上でとても必要なことだと強く思います。
私が子どもの頃に、家でゲームを一緒にしてくれる人といえば、祖父母だけでした。将来、高齢者でも楽しめて、家族で遊べるゲームを作りたいと思い、情報理工学部に進学しました。子どもへの学習支援を続けるなかで、新たにやりたいテーマが見つかりました。コンピューターを活用した子ども向けの教材づくりです。今後もライフワークとして子どもを応援する活動に参加していきたいです。