(社福)神奈川県総合リハビリテーション事業団 地域リハビリテーション支援センター 作業療法士 一木愛子さん・神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーション工学科 リハエンジニア 松田健太さん
二人が協力したからこそ 実現した自助具
掲載日:2019年7月30日
2019年7月号 くらし今ひと

 

右から(社福)神奈川県総合リハビリテーション事業団 

地域リハビリテーション支援センター 作業療法士 一木愛子さん
神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーション工学科 リハエンジニア 松田健太さん

 

あらまし

  • チームで自助具の開発に携わる、作業療法士の一木愛子さんとリハエンジニアの松田健太さんにお話を伺いました。

 

一木さん)専門学校を卒業し、頚髄損傷の方のための入所型施設で5年ほど勤めました。その後、病棟や福祉施設を経て、現在は地域リハビリテーション支援センターで、地域で暮らす当事者に関わる方からの支援に関するご相談を受け、訪問や助言等を行っています。並行して病院の外来でのリハビリにも携わっています。

 

松田さん)工業系短大を卒業後、自動車関連の会社に就職しましたが、不況の影響を受けて転職しました。畑違いでしたが、車椅子の設計なら技術が活かせると思いました。セラピスト(リハビリ職)と協力して車椅子の作製、褥瘡のある方の座圧計測等を行っています。また、福祉用具の適合評価や研究開発にも関わっています。

 

自助具の開発について

“すらら”と”ぱっくん”

 

一木さん)私たちが開発した自助具は、書字や食事の際に活用する「”すらら”と”ぱっくん”」です。

開発のきっかけは頚髄損傷の方からの「自助具が壊れたので同じものを作って」という依頼でした。手作りされた自助具と全く同じものを作ることは非常に難しいことです。経験豊富なセラピストには作れたとしても、経験が浅い人は四苦八苦します。以前より私は再現性が課題であると感じていました。そして、その方の自助具を作るだけにとどまらず、壊れても再現が可能な自助具が作れないかと、試行錯誤を始めました。私のアイデアを松田さんがデザインし、3Dプリンターで形にしていき、試作品は相当数になりました。

 

松田さん)この自助具の開発には再現性と同時に汎用性やデザインも追い求めました。パーツの組み合せを変えることにより、使う方に合わせてカスタマイズできるようにしました。いろんな人に試してもらい、意見を取り入れた結果です。使い方は、ボールペンやフォークにアタッチメントをセットし、三指でつまむための本体を装着します。そして、補助部品が複数あるので、その方に合うものを取り付けて使います。色も選べます。

 

一木さん)この自助具を使っていただいた方の中で印象的だった女の子がいます。その子は、上肢の揺れを抑えるためにテーブルに上肢を当てた姿勢で食べていたのですが、この自助具を試してもらったところ揺れが安定したのです。それまでは途中で疲れて親が手伝うこともありましたが最後まで自分で食べられるようになりました。子どもは正直なので「食べやすい」「書きやすい」と、この自助具を選んでくれるとうれしいですね。

使う道具によって、パフォーマンスが変わることがあります、その方に合う自助具を選ぶことは難しく、「この疾患にはこれ」という単純なものではありません。しかし、それがうまくいくとご本人が楽になり、介助の負担を軽減することにもつながります。

 

試作品も多数。左の2つが現在の形。

 

必要な人にもっと届けたい

松田さん)ご本人のニーズを実現するために、セラピストがその方にはどんなものがいいか考えて提案し、それをエンジニアが形にするお手伝いをします。そしてご本人が笑顔になってくれればいいと思います。二人が協力する意義がそこにあります。平成28年には福祉機器コンテストで最優秀賞を受賞したのですが、一人の力では成しえませんでした。

 

一木さん)最終的に、市販することで必要な人に届けたいという目標があります。それには事例の積み重ねや、買う方にこの自助具が合うかどうか評価するためのマニュアル作成等が今後の課題です。

 

松田さん)その方が今どういう状態であるか、使っているものが合っているか本当に必要なものかを考え、”モノ”ありきではなく、使う方の目線を今後も大切にしていきたいと思います。

取材先
名称
(社福)神奈川県総合リハビリテーション事業団 地域リハビリテーション支援センター 作業療法士 一木愛子さん・神奈川リハビリテーション病院 リハビリテーション工学科 リハエンジニア 松田健太さん
概要
(社福)神奈川県総合リハビリテーション事業団 
https://www.kanagawa-rehab.or.jp/
タグ
関連特設ページ