広島県広島市/平成27年3月現在
平成26 年8 月20 日未明に起きた土砂災害直後、広島市ではニーズが出てくる前に、被災家庭の子どもを保育園で一時預かりを行いました。また、土砂災害により被害を受けた2 つの保育園の対応を行いました。
ニーズが出てくる前に市が素早く判断
8 月20 日に起きた土砂災害直後、広島市役所には被災家庭の子どものニーズはあがってきませんでした。市役所内の全部局において、それぞれの所管で「今、被災者に何ができるのか」と検討しました。
広島市は公立保育園の割合が高く、1 千人以上の職員(保育士)がいます。また、広島市では、園長会議や主任会議を定期的に開催し、保育園の横のつながりができている土壌があります。
広島市こども未来局保育企画課長の白石一行さんは、「すぐに動けるのは公立保育園だと思った」と当時を振り返ります。そして、市ができることを検討した結果、被災された方の家の片付けや諸手続きが行えるよう、保育園で子どもを一時預かりすることを考えました。保育園の職員からも「自分たちに何かできることはないか」という声が寄せられていました。保育園に打診をすると、すぐに快い返事をもらえました。そして、8 月25 日より2 園で受入れることを決定し、保育園で受入れをすすめる準備を始めました。
受入れ対象は、被災した世帯の乳幼児とし、罹災証明書等は必要なく、被災された家庭であればすぐに利用できるようにしました。受入れ人数は各保育園で5 名程度としました。当初は8 月25 日から2 週間程度でスタートし、受入れ時間は8 時30 分から17 時まで、利用料は無料としました。26 日からは6つの公立保育園でも実施しました。
広島市こども未来局保育企画課長の白石一行さん(右)
保育園運営指導担当課長の渡部小百合さん(左)
休みの職員がローテーションで対応
一時預かりを行った保育園では、通常保育を行いながら対応しました。一時預かりの職員体制は、公立保育園の休みの職員がローテーションで勤務しました。市より出勤できる職員を募り、配置する人を調整しました。保育園運営指導担当課長の渡部小百合さんは、「職員は被災家庭に役立ちたいという想いを感じてくれた」と話します。私立園においても同様に、8月27 日から一時預かりを実施しました。
一時預かりは2 週間程度を予定していましたが、被災家庭からのニーズもあり9 月30 日まで行い、のべ237 名が利用しました。災害発生直後は、被災家庭からの申し出は多くはありませんでした。渡部さんは、「災害が起きた後は、親は子どもと離れたくないという気持ちが強かった」と話します。災害発生直後は、実家が被害に遭い片づけを手伝うために子どもを預けるケースがありました。時間が経つにつれ、被災家庭からの申し出が増えてきました。避難所にチラシを置いたり、NHK のテロップに表示してもらったことで広く周知できました。
白石さんは、一時預かりの実施について「職員体制や申込方法の基本方針だけ決めて、とにかくスタートさせた。個別の具体事例に応じて細部を詰め、動かしながらしくみを作っていった」と振り返ります。
被災家庭乳幼児の受入れの推移
日 時 | 内 容 |
8月20日(水) | 土砂災害発生 |
8月21日(木)~24日(日) | 市、保育園で一時預かりの検討・準備 |
8月25日(月) | 2つの公立保育園で受入れ開始 |
8月26日(火) | 8つの公立保育園で受入れ |
8月27日(水) | 私立園(58園)において受入れ開始 |
9月30日(火) | 受入れの終了 |
子どもが遊ぶ様子を写真で伝え、安心感に
市では被災家庭の子どもを受入れる際に、電話で情報を把握するシートを用意しました。住所氏名や連絡先のほか、ミルク銘柄や食物アレルギー、既往歴などの情報を把握しました。そして、事前に把握した情報をもとにアレルギー対応が必要な子どもなどの対応をしました。ローテーションで派遣される職員に対しては、園長や主任保育士が保育環境や子どもへのかかわり方について丁寧に説明しました。
渡部さんは、「乳幼児は被災のストレスを表出することは少なかったが、4 歳児は『車が泥だらけになった』などと話していた。子どもにとっても大きなショックだっただろう」と振り返ります。それは保護者も同様です。保育園では、災害が起きた後に子どもと離れる保護者の不安を和らげるため、預かった子どもの遊んでいる様子を写真に撮り、帰り際に見せる工夫を行いました。これは、市や園長から指示を出したわけではなく、職員が自発的に行った工夫です。また、連絡ノートに子どもの様子を記載して、帰り際に渡しました。
2つの保育園が被災し休園に
市内では2つの保育園が土砂災害の被害を受けました。1つの園は土砂が流れ込み園舎の一部が床上浸水しました。職員総出で土砂出しや畳の入れ替えを行い、8 月25 日に再開しました。もう1つの園は被害が大きかった緑井地区にありましたが、施設への被害はそれほど大きくはありませんでした。しかし、土砂災害が起きた地区に近く、車両通行止めになってしまい、避難勧告が継続している中ですぐに再開することは難しい状況でした。
休園した2つの園に通っていた子どもたちは、翌日の8 月21 日からそれぞれ3つの園に分かれて受入れました。定員100 名の園で150 名を受入れた園もあり、2つのクラスを1つにまとめたりするなど工夫して対応しました。その職員体制としては、被災して休園中の保育園の職員が受入れ園に出向いて保育を行うことにより対応しました。
休園していた緑井地区の保育園は、通行止めの解除やライフラインの復旧、避難勧告の解除など保育園再開の障害となっていた物理的な要因がクリアされたことを確認したうえで9 月8 日から再開しました。しかし、次に大雨が降った時にも園児の安全を確実に担保する必要があり、非常に難しい判断でした。再開するにあたり、保護者向けの説明会を開催した際には、保護者から「本当に大丈夫なのか」「また大雨が降った場合はどのように対応するのか」などの心配の声があがりました。市では、保育園のある地区に大雨警報が出た場合は、ただちに園児を避難させることに決めました。そして、そのために必要な職員を加配して配置しています。避難訓練も行い、次の大雨の対応をすすめています。
顔の見える関係が大切
白石さんは、被災家庭の子どもの支援を振り返り、「素早く判断できたことは良かった。実施できたのは、保育園同士の横のつながりが強かったおかげだと思う」と話します。同じ保育園が被災にあったこともあり、「もし自分が同じ立場だったら」と感じ、協力を惜しまなかったかもしれません。また、白石さんは、「災害直後は、親は子どもと離れたくないと思うだろう。保育園だけではなく、生活している避難所内で一時的に子どもを預けられれば良かったかもしれない」と振り返りました。
災害時にすぐに行動に移すには、園長会や主任保育士会など日頃からの顔の見える関係づくりが大切です。
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