鈴木しほさん
“なんとかなるさ”の精神で、 これからも私らしく 息子と向き合っていきたい
掲載日:2020年10月2日
2020年9月号 くらし今ひと

 

 

あらまし

  • 不慮の事故により脊髄損傷を負い、車椅子を使用して生活している鈴木しほさんは、一児の母になりました。妊娠中や、出産後の育児についてお話いただきました。

 

現在、生後7か月になる息子と夫の3人で暮らしています。息子との生活は私の考え方や日常を大きく変えてくれました。

 

妊娠中の不安が100%なら、出産してからは10%になった

妊娠が発覚した当初は、結婚5年目にして待望の第一子だったこともあり、夫と共にとても喜びました。一方で初産の母なら誰しもが通るであろう、出産や育児に対する不安がありました。それに加えて、「できないことばかりで、夫に負担をかけてしまうかもしれない」と、車椅子を使用する私が満足に育児ができるのかという不安がありました。また、妊娠中は動きづらさから日常生活面でも家族のサポートを得なければいけないことが多く、とても大変だったことを覚えています。

 

出産に向けて、生活の利便性から里帰りはしませんでした。代わりに出産後は他県に住む私の母が1か月間アパートに来て、生活のサポートをしてくれていました。初めての育児では、チェアにもベッドにもなる高さ調節が可能なベビーラックや、背面に手を回さなくても装着できる抱っこ紐など、車椅子でも使用しやすい育児用品を事前にそろえていたこともあり、想像よりも自分でできることが多く、妊娠中に抱いていた不安の殆どは早い段階で払拭されました。

 

車椅子生活でも子育てしやすい世の中になってほしい

とは言え、育児の悩みは尽きません。友達に相談することがほとんどですが、障害があるからこその悩みもあります。例えば、私がお手洗いに行っている間に息子を十分に見守ることができない、息子を車の座席に座らせることが難しく、車移動ができないなどです。困った時に電話一本で支援が受けられるサービスがあればとても助かるのにと、いつも思います。

 

また、出産・育児を経験して気づいたことは、産婦人科の入口やお風呂に段差があったこと、多目的トイレのオムツ替え台が高い位置にあることなど、育児に関する設備や育児グッズの多くは車椅子を使用する人が使うことが想定されていないということです。車椅子を使用する人でも子育てがしやすい世の中になってほしいと思っています。

 

息子は私を”車椅子の女性”から“一児の母”に変えてくれた

夫は息子が産まれる前から日常的に家事等を行ってくれており、出産してからも育児休暇を取得してくれるなど、積極的に育児をしてくれます。私自身、息子が産まれるまでは「手伝ってもらってばかりでごめんね」と申し訳なさから謝ってばかりでした。ですが息子が産まれてからは「協力してくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えられるようになりました。まさに”協力して育児する”ことができており、私に母という役割を与えてくれた息子と「育児は夫婦の共同作業だから」と言ってくれる夫には感謝で一杯です。

 

外出先では、これまで「車椅子で大変だね」という言葉をかけられることが多かったのですが、息子と出かけるようになってからは「赤ちゃん可愛いね」「何か月なの」と、声をかけられるようになりました。私に対する世間の目が”車椅子の女性”から”一児の母”に変わったことを実感しました。今までよりも、自信をもって過ごせるようになったのは、息子のおかげです。ただ、母かどうかに関わらず車椅子を使用している人への目線はよりフラットになってほしいと思います。

 

“なんとかなるさ”の精神で、息子と向き合っていきたい

脊髄損傷で車椅子生活を余儀なくされた時は、不安で一杯でした。ですが、いざ生活が始まると、できることが多く、なんとかなるんだなと思いました。育児も似ているところがあります。不安なことはたくさんありますが”なんとかなるさ”の精神で、これからも私らしく、楽しみながら息子と向き合いたいと思います。

 

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