(社福)聖オディリアホーム 聖オディリアホーム乳児院
子どもたちの『家』である乳児院での生活を守るために~聖オディリアホーム乳児院~
掲載日:2020年11月26日
2020年11月号 連載

聖オディリアホーム乳児院は、昭和23年に開設されました。定員60名のうち、49名(令和2年10月6日取材時)の0歳から概ね2歳までの乳幼児が生活しています。

同院では、施設内に2ユニットからなる4つの部屋があり、子どもたちは入所から退所まで同じ部屋で生活します。更に、子どもたち一人ひとりには担当保育者を配置し、担当保育者不在時にグループ保育者が補佐する担当制グループ保育を行っています。子どもと特定の大人との間に愛着関係を築き、それを基盤とした健やかな発達を保障しています。

 

子どもたちにとって乳児院は『家』

「新型コロナに限らず、子どもたちは日頃からいろいろな感染症にかかるリスクがある。乳児院で感染症が発生する原因の中には、大人の持込みが考えられるため、職員は日頃から手洗い、出勤時の着替えなど健康管理の徹底に取り組んでいる。手洗いができる子どもには手洗いをするよう伝えている」と日常の感染症対策について看護主任の大庭美智子さんは言います。他にも、感染症ごとの対応マニュアルの作成や、入職時の手洗いの方法の教示、インフルエンザ流行時期の保護者への検温も新型コロナが感染拡大する前から行っていました。

 

新型コロナが感染拡大し始めてからは、これらの対応に加え、職員はマスクを着用し、マスクを外す食事の際には大声で話さないようにし、密を避けるため事務所や調理員が使う食堂の机の配置を変えました。

 

ただ、子どもが生活する上で毎日の抱っこや授乳など密は避けられません。「3密という言葉が出てきた時、どのように対応しようかと悩んだ。感染予防の観点から職員は常時マスクを着用することにしたが、普段離乳食の介助をする時は、『あむあむ』『ごっくんね』など、大人の口の動きを見せている。それがマスクをすることで全く見えなくなってしまった。透明なマスクも検討したが、離乳食介助や授乳中には言葉掛けが必須なため飛沫感染を考えると、普通のマスクを使っている。マスクを外すと感染のリスクがあるという情報がある中では外せる方法が見つからず模索しているのが現状」と大庭さんは語ります。

 

施設長の鎌倉道子さんは「乳児院は子どもたちにとっては『家』。家庭ではマスクを外して、大人と一緒に食事をしたり、お風呂に入ると思う。しかし、乳児院は集団生活のため、マスクを外す判断がしにくい。もともと家庭に近い生活を、と意識して行っていたことが難しくなり、直ぐには解決策が見つからない」と難しい現状を語ります。

 

不安が広がらないように情報収集

新型コロナが感染拡大し始めた2月頃、マスクなどの衛生用品が途端に手に入りにくくなりました。そのため、地域のボランティアや職員がマスクを手作りしたり、使い捨てマスクや布マスクを洗って繰り返し使ったりしました。

 

近隣の医療機関、嘱託医、保健所とは日頃から連携しています。新型コロナが感染拡大した後でも、予防接種、健診は通常通り行ってもらっています。「新型コロナの対応について、東京都や保健所などと密に連絡をとっている。特に保健所とは日頃から相談や報告をこまめにしている。相談にのってもらい安心した。『オディリアさんは家庭だからね』と言ってもらった時は、自分たちの存在を理解してくれていると改めて思った」と大庭さんは言います。

 

職員は変則勤務のため、正しい情報を共有できるように工夫しています。2月頃から各部屋に新型コロナ対策ファイルを置き、話し合ったことを看護師が中心となって記録しています。

 

また、2週間に1回、主任会議を開き新型コロナの対策について話し合いをしています。職員会議は全員が出席していましたが、密を防ぐため各部屋の代表が出席し、会議の内容を他の職員に共有するようにしました。広い部屋で換気をしながら間隔をあけて会議をしています。「新型コロナとは何か、皆が分からない中で、職員が不安になると子どもたちも不安になる。日々、新型コロナに関する情報を集め、職員からの相談にいつでものれるようにして、不安が広がらないようにしている」と鎌倉さんは話します。

 

工夫しながら日常に近い生活をめざす

緊急事態宣言期間に入った後は、感染対策を見直ししながら、それまでの日常に近い生活を送れるように取り組んでいます。

 

可能な職員は在宅勤務や時差出勤等を行いました。在宅勤務では、新たなおもちゃをつくるなどしました。

 

施設内の調理室でつくっていた食事は、調理員の密集を防ぐため、弁当を外注する日をつくりました。「もともと例えば食中毒など調理室が稼働できない時の食事は弁当の外注を想定していたので、注文方法や配り方など、これを機に10回ほど試してみた」と鎌倉さんは言います。また、同法人の保育園で登園する子どもが少なくなった時期があり、子どもたちの食事をつくってもらった時もありました。

 

ショートステイは区などと相談した上で、緊急事態宣言期間中も受入れ人数を縮小して継続しました。入所は健康チェックリストをつくり、子ども、保護者、関係者の体調を児童相談所と綿密に確認し、受入れ可能な場合のみ受け入れることとしました。

 

里親との交流は、通常は、施設内で子どもたちとたくさん交流してから外泊へとすすめていました。新型コロナ後は、関係性を見極めて、これまでよりも早めに外泊へすすめる様にし、家庭訪問などで支援を継続していきました。

 

面会は、それまでは可能な限り多くの親子が直接会えるように受け入れていましたが、宣言期間中は中止とし、手紙と写真を送り関係性を繋げる様に配慮しました。宣言解除後は各室午前1組、午後1組としました。乳児院の中には、オンライン面会を行っているところもありますが、保護者と直接会って抱っこしてもらった方が子どもにとっては良いのではないかとの考えから、健康チェックをきちんと行った上で、従来の面会を行っています。

 

子どもたちの日中の活動は、公園遊びや散歩等を中止とし、庭遊びに切り替えました。聖オディリアホーム乳児院では入所から退所まで同じ部屋で生活する為、縦割り保育になります。同年齢の子たちの交流が少なくなってしまうため、2歳児は4室から集まった同年齢の子どもたちで過ごす時間を設定しています。しかし、感染拡大を防ぐため、回数は減りますが、フロアごとに分けて実施することにしました。

 

「集いの広場」は地域の親子も自由に遊びに来られる場です。クリスマス会等行事も行っています。ただ、緊急事態宣言期間中は区の要請のもと閉鎖しました。(6月2日より再開)

 

在宅勤務中に職員が手作りしたおもちゃ

 

乳児院はどんな時も動いている

「地域の人には乳児院という存在を理解してもらっていると思うが、保育園などでクラスター発生のニュースがある中で子どもと職員が歩いていると大丈夫かな、という目で見られたりすることもあった。ただ、保護者の方は不安の中でも面会や外泊の制限について、皆さん協力して頂いている」と鎌倉さんは話します。

 

副施設長の佐々木久美子さんは「当初、院外の会議が中止になり他の乳児院の動きが見えない中で、難しさを感じることもあった。しかし、メールや電話で他の乳児院の対応や物品などの情報を収集できたことで、安心感が得られた。ただ、マスクをし続けなければならない、この状況がいつまで続くのか、先が見えない不安がある」と言います。

 

「乳児院は何があっても休止せずに動いている。職員も日々命を預かっている責任感を持って子どもに接している。覚悟を持ってこの事態に臨んでいる」と鎌倉さんは話します。

取材先
名称
(社福)聖オディリアホーム 聖オディリアホーム乳児院
概要
(社福)聖オディリアホーム 聖オディリアホーム乳児院
https://odilia.jp/odilia_home
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