母子生活支援施設のポルテあすなろは、以前は、公設民営の施設として運営していました。施設の老朽化により平成31年4月に改築移転し、民設民営の施設としてスタートしました。定員は入所20世帯、緊急一時保護2世帯です。施設内には保育室や学童室、学習室、トワイライトステイの部屋があります。そのほかに、地域交流を目的として使用する多目的室が3部屋設けられています。
仕事や登園・登校で施設への出入りが常にある
移転後から徐々に入所する世帯を増やし、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響が出始めた令和2年2月には15世帯が入所していました。施設長の白石誠一さんは「入所中のお母さんたちには仕事や日常の買い物等があり、子どもたちは登園や登校で施設への出入りが常にある。懇談を目的とした定例会は、2月時点でお母さんたちに『感染症は見えない、手洗いや消毒などで気をつけていきましょう』と注意喚起した」と話します。その後も定例会ごとに、手洗いの方法のプリントを配布するなどして感染対策の意識を持ってもらうようにしました。また、「お母さんたちは『自分が感染したらどうしよう、子どもはどうなるのだろう』という不安が大きいと思うが、その時に保健所がどのような指示を出すかはわからない。まずは感染しないようにすることが大切」と白石さんは強調します。
感染症対策については、移転前の施設が古く、トイレが共用であったこともあり、宿直明けの職員が事務所内の電話機等を毎日消毒するなど、ノロウイルス等の対策が日常業務の中に組み込まれていました。そのため、新型コロナに対しても慌てて感染対策を講じるのではなく、日ごろからの感染対策を継続しました。そして、2月頃からは、清掃担当者を1名非常勤として採用し、日常清掃の中で廊下や階段の手すりなどの消毒を任せています。
また、施設内の導線については、入所者用と地域交流のための部屋用の玄関が別になっており、入所者と地域の方の導線は分かれています。
感染症対策のマニュアルについては新型インフルエンザ等に対応した従来のものを準用しました。そのうえで、法人本部から随時出される新型コロナの対応についての通知に沿って、施設内で対応していきました。
感染症対策の物品は法人内での共有も
感染が拡大する中、3月頃には物品の心配が出てきました。マスクは施設近くのドラックストアに職員が買いに行きました。また、法人内の高齢者施設等から分けてもらうなどし、職員分として100日分を確保しました。消毒液も、法人内で在庫のある施設から送ってもらいました。物品の調整だけでなく、「インターネットのこのサイトなら買える」という情報も随時共有していました。
ほかにも、感染が拡大する以前に、行政から配布されていたガウンやゴーグル、ヘッドキャップ、手袋を50セット備蓄していました。しかし、それだけでは足りないと考えられたため、さらにガウンを200枚購入しました。また、ビニール袋でできる防護服や、ラミネートフィルムでできるフェイスシールドの作り方を調べ、いざという時に手作りできるよう準備をしました。
また、入所している各世帯と職員に消毒液をポンプに詰めで配布し、無くなったら補充することを伝えました。「対策が目に見えることや言葉がけが安心につながるのではないかと思う」と白石さんは話します。その後も、行政からの配布や法人全体で調達したマスクを各世帯に渡したり、施設内でマスクづくり会の活動も行ったりもしました。
多目的室の天井からビニールシートを下げたり、
アクリルパネルを置くなどして感染症対策を行っている。
就労への影響と休校期間中の対応
緊急事態宣言が出された4月から5月頃には「新型コロナの感染拡大とともに、お母さんたちの就労にも影響が出てきた」と白石さんは振り返ります。学校や保育園を職場とする方は、一斉休校や登園制限となったため仕事がお休みとなりました。「4月から保育園に預けて就労する予定だったお母さんもいて、その方は愕然としていた。気持ちが落ち込んでしまった方もいたため、相談に乗ったり、お話を傾聴していった」と白石さんは言います。
また、施設の職員体制については、通勤が密にならないように出勤を調整するとともに、保育園に子どもを預けられない職員や妊娠中の職員はお休みとしました。しかしその一方で、休校期間中の子どもたちの対応や、預かり保育を行うための体制も確保する必要がありました。そのため、非常勤の保育士や学生アルバイトを採用しました。また、そのような状況の中でも、感染対策を行ったうえで実習生の受入れも行っていきました。
休校期間中の子どもたちについて白石さんは「運動会などの学校行事がなくなり、残念がっている様子が見られた」と言います。施設内では、ストレスが溜まらないように、午後から学童室を開放して遊んでもらえるようにしました。そして、広さのある多目的室を学習塾のようにして学習時間を設け、学校の勉強もできるようにしました。
施設退所後のアフターケアについては、緊急事態宣言中は外出自粛が言われていたということもあり、電話で対応を行っていきました。
行事は施設の中でできる範囲で
毎年10月に行っていたバス旅行は中止しました。その他の行事については縮小しました。夏祭りについては、例年は地域の方にボランティアをお願いしたり、退所者を招待したりしていましたが、今年は施設内部のみで感染対策を講じてできる範囲で行いました。
行事以外に、施設内でやりたいことを入所者にきいたところ『台湾カフェ』をやってみたいという意見があがったので、タピオカなどを用意してお茶会を開きました。白石さんは「発案したお母さんが主催者となって準備した。1回だけのことだったが、主催者にも参加者にも喜んでもらえた。お母さんたちのやりたいことや気持ちを引き出していくことの大切さを改めて感じた機会だった」と話します。
地域との交流もストップ
ポルテあすなろでは、施設の多目的室を使いたいという地域の団体に登録してもらい部屋を貸し出しています。なお、その際には、ただ部屋を貸すだけではなく、施設との連携も考えた貸し出しを行っています。例えば、子育て支援団体が行うサマースクールなどの事業には、入所中の子どもたちも参加することができます。しかし、感染拡大に伴い活動はできなくなり、貸し出すのは感染対策がとられた会議と、会場を施設の外に移したフードパントリーの活動のみとなりました。
この状況に白石さんは「地域食堂などの活動が止まると、地域の子どもたちが困ってしまう」と話します。7月頃よりようやく、感染対策をしたうえで施設を会議以外の活動も使えるように準備して、2月に予定していたものの延期した映画会を7月に開催し、NPO団体が主催する地域食堂を8月には再開しました。また、夏休み中には地域団体から子どもたちに無料で昼食弁当の提供を受けました。そして、新型コロナの影響で他の施設を借りることができなかった、地域包括支援センターが行う高齢者向けの体操等の事業にも会場を提供しました。
日常生活を止めないために
今後の課題について、白石さんは「災害時にも通じるが、物品の事前準備の必要性を改めて感じた。施設のある地域は水害も心配されているため、ある程度の物品は確保していたが、感染症対策の物品は準備が足りなかった。普段からどの程度ストックしておくか、置き場所をどうするかなどを検討していきたい」と言います。
また、「母子生活支援施設は生活の場であり、生活をいかに止めないかが重要。感染の不安は常にあるが、不安を少しでも軽減させ、日常生活を送ることができるかを常に考えて動いていきたい」と今後について話します。