NPO法人東京山の手まごころサービス
副代表 西野智子さん
「東京山の手まごころサービス(以下、まごころサービス)」は、地域で暮らす方の在宅生活を支援し、介護保険事業、居宅介護保険事業、障害者総合支援事業、区委託事業、地域交流サロンのほか、公的制度外の自費サービス等を提供する団体です。
昭和50年代半ば頃より、各地で「介護の社会化」をめざし、「民間ホームヘルプサービス」や「有償家事援助サービス」等を行う民間の在宅福祉団体が立ち上がりました。多くの団体では利用者も支援者(活動者)も会員となり、「会員同士のたすけあい」でサービスが提供されています。
まごころサービスもそうした団体の先駆けの一つで、昭和63年創立です。中高年女性が中心となり、介護の心構えや介護技術、料理教室などの研修内容を学識者とともに一から組み立て、学び合う勉強会からスタートしました。修了後、多くの方がヘルパー(活動会員)として登録し、現在も活動しています。
まごころサービスの強みは、その方の生活を「丸ごと」支えられることです。多くの利用者が制度に基づくサービスと、自費サービスの「わくわくマイプラン事業」を組み合わせて利用しています。自費サービスでは、本人には必要でありながら制度では対応できない、生活を豊かにするための楽しみ等としての外出支援、家族に代わるケアや家事援助、子どもの送迎等を行っています。対応可能な制度がない頃から、行政や医療機関等と連携し、精神障害者の地域生活移行や重度障害者の地域生活の支援、病児や難病の方への支援等も行ってきました。この経験が、現在も他機関との信頼関係の下での連携協力体制や、ヘルパー一人ひとりの、またチームの力量として活きています。
現在、利用会員は約200人で、事務所のスタッフのほか、ヘルパーは74人います。長く登録しほぼ毎日活動する方がいる一方、自分のできる範囲の活動に限定して登録する方もおり、男性の登録も増えています。
また、助成金申請等の事務は、企業を定年退職した男性たちが、長くボランティアでサポートしてくれています。
利用者に正確な情報を伝える
新型コロナが急速に拡大した令和2年2~4月頃は、団体として備蓄していたものの、マスクや消毒液等の衛生用品の不足に悩まされました。加えてトイレットペーパー等も不足したことで利用者にも不安が一気に広がりました。店頭に並ばないと手に入らない状況が続いたため、ヘルパーが自身の分と一緒に購入するなどして、手分けして利用者分を確保しました。
また、多くの利用者にとってコロナ禍での世の中の変化への理解が難しく、危機感を持ちづらいことが、支援の上での大きな課題でした。マスクの着用や換気、手洗いなどの対応や、不要不急の外出自粛への認識が不十分になりやすく、必要性が理解しづらい方もいました。そこで、まずヘルパーに毎月の「協力会員だより」でのお知らせや通信研修により、正しい情報や団体としての方針、支援時の感染対策等を伝えました。それをふまえ、利用者へは利用会員向けの「まごころだより」のほか、ヘルパーから必要な情報を正確に伝えることを心がけました。非常時の中の活動であることへの理解を促しながら、徐々に状況に慣れていただくようにしました。副代表理事の西野智子さんは「緊急事態への実感や外部からの情報を得られづらかった視覚に障害がある方からは、5月頃カラオケへのガイドヘルプの依頼もあった。感染の可能性が高まることを説明し、納得の上で控えてもらった」と言います。
「たすけあい」の精神で活動継続
2年3月頃からは、利用者ごとの状況に応じ、サービス内容の変更や短時間化を行いました。例えば外出への不安の強い方は、買い物への同行支援を玄関先でのやり取りと買い物代行に変更するなどしました。
その上で、生活や生命に直結しているサービスは可能な限り提供してきました。利用者への365日24時間の電話対応は継続し、例えば重度障害の方への支援は、医療スタッフと連携し、調達した予防着を着てチームで提供しています。西野さんは「ヘルパーは活動継続に理解を示してくれた。『たすけあい』の精神のもと、役に立ちたい、休むことはできない活動だと受け止めてくれ、大変心強い」と言います。
ただし、スタッフやヘルパーは自身が利用者への感染源にならないよう細心の注意を払い、日々緊張感を抱えながら活動を行っているため、その不安の解消や健康管理が重要です。一度目の緊急事態宣言期間から現在も、体力維持のための短時間勤務や在宅勤務を導入し、ヘルパーは直行直帰型の活動に切り替えています。その中でもヘルパーに月に一度は事務所に立ち寄ってもらい、スタッフが気持ちを聞いたり相談を受けるなどのフォローを心がけています。
3年1月には区の方針でPCR検査を実施でき、その時点でのヘルパー全員の陰性を確認しました。ヘルパーからは安堵の声が聞かれたそうです。西野さんは「特に当初は利用者もヘルパーも不安が大きかった。今は基本的な感染対策を心がけていれば、必要以上に恐れず自信をもってサービス提供できている。双方に安心感が生まれている」と言います。
利用者の身体への影響
長く続くコロナ禍において、利用者に徐々に変化が出てきています。西野さんは「コロナ禍での生活の影響が蓄積され、最近体調を崩す方が増えている」と言います。デイサービスに行けず閉じこもりがちになり精神的に落ち込んだり、フレイルがすすんだり、慢性疾患が悪化したりする方が見られます。近所の方と話す機会が少なくなり、ヘルパーがその週の唯一の話し相手、という方も少なからずおり、利用者からは「来てくれて心強い」という声も聞いています。利用者の身体面、精神面ともに支えていく必要性を感じています。
地域の方への体験講座の実施を検討
地域センター等を会場に、多様な特技を持つ地域の方の参加、協力のもと実施していた交流サロン「まごころこめこめ倶楽部」は休止しています。代わりに、この状況だからこそできることに取り組む予定です。
コロナ禍の影響も受けてか、現在、地域の中で力を発揮したい、活動に関心があるという中高年男性からの問い合わせが増えています。そこで今後は、介護に関心がある地域の方を対象に、調理等の家事や生活支援に必要な仕事の内容についての体験講座の開催を計画しています。在宅生活を支えるヘルパー等の人材不足は特に深刻ですが、その仕事には、臨機応変な家事能力や生活支援の力が必要なため、自身の資質向上や適性の見極めつながるよう、まず体験する場が重要だと考えています。
西野さんは、今後に向けて、「コロナ禍で、安心して働ける職場環境づくりが必要だとますます実感した」と言います。制度の枠組みにとらわれず社会に必要な活動を作ってきた団体として「身体介護のみに着目されがちだが、家事援助も重要な仕事。地域で生きること、生活全体を支える大事な仕事であるヘルパーの働きが社会に正しく評価される必要がある。必要物品の調達等では医療との格差も感じたが、医療同様、最先端で働いていることが十分認識されるよう、団体同士が連携して発信し続けることが必要だ」と語ります。
http://www.netlaputa.ne.jp/~yamanote/