代表理事
横田能洋さん
認定NPO法人茨城NPOセンター・コモンズ・・・平成10年にNPOの中間支援を行う組織として設立。外国籍住民への支援として、多文化保育園の運営、学習支援や学童保育、キャリア支援、外国人による当事者組織の設立支援等、多岐にわたる事業を行っている。
日本に住む外国にルーツのある方は、言葉や文化、生活習慣の違いなどから、普段の暮らしや地域住民との関係の中でさまざまな困りごとを抱えています。これを解決するために、都内では日本語教室や学習支援、相談支援、外国にルーツのある方と地域住民が相互理解を深めるための交流など、多くの取組みが行われています。
本連載では、同じ地域に暮らす一員である彼らの日常生活のサポートや住民同士の交流を深める取組みを紹介し、多文化共生をすすめる各地域での活動から見える現状や課題を発信していきます。
今号では、東京近郊にある外国籍住民比率が約9%の茨城県常総市で、長きにわたり多文化共生の取組みをすすめてきた団体にお話を伺いました。
外国籍住民の活躍の機会をつくると同時に活躍できる人材を育てる
茨城県水戸市と常総市に拠点を構える認定NPO法人茨城NPOセンター・コモンズ(以下、コモンズ)は、ひきこもりがちな若者、外国人、被災者、高齢者、障がい者への支援、また、その市民を支える地域の団体などを対象に担い手の育成や活動資源の仲介等に取り組んでいます。
外国人支援としては、多文化保育園や日本語学習とキャリア支援の場の運営、ピアサポーターの養成、生活ガイドブックや防災・発災時の対応に役立つ多言語冊子の作成など多岐にわたる活動を行っています。
コミュニティはあるようでない外国籍住民たち
コモンズが外国人支援を展開する常総市は、人口の約9%が外国籍住民で、うちブラジル国籍の住民が40%近くを占めます。
常総市には食品工場が多く集まり、24時間稼働で夜勤があるため、仕事が得やすいことから外国籍の人々が集まります。しかし、代表理事の横田能洋さんは「外国人コミュニティはあるようでない。これは食品工場という職場ならではの構造」と、その実情を話します。
例えば、自動車工場にも外国籍の従業員は多くいますが、熟練度に応じて職位が上がったり、マニュアルを読むために日本語の学習機会が用意されたりと、長く働く環境が整っています。一方、食品工場では単純作業中心で仕事の手順を覚えることは容易ですが、休まずにシフトに入ることが求められ、熟練も要しないため賃金が上がりません。そのため、時給がより高いところを見つけると転居してしまい、また新しい外国籍の方が来日するというサイクルで、常に一定数の外国籍住民がいるものの長く住む例は少ないといいます。
そうした中、一部の外国籍の方が、払うべきお金を払わないままいなくなったり騒音やゴミ出しによるトラブルを頻発したりしたため、地域の中で「親切にしてもいなくなってしまう」「付き合いにくい」という見方が根づいてしまい、外国籍住民と地域住民の溝の要因になっていました。
コモンズが取り組む多文化共生
コモンズが外国人支援に取り組むきっかけとなったのは、平成20年のリーマンショックの頃です。父母の収入が減少し、これまでブラジル人学校に通っていた子どもが、費用のかからない公立小中学校に次々と転校しました。当時、横田さんのお子さんが通う小学校にも外国籍の子どもが増え、日本語が分からない親子の対応に学校現場が混乱する様子が見えたといいます。そこで横田さんは、教育委員会や国際交流協会、外国籍の方が登録する派遣会社などの関係機関に声をかけ、それぞれが持つ情報を共有し、顔つなぎをする機会をつくることから始めました。その後、複数の関係機関との円卓会議を継続し、失業した外国籍住民に向けた日本語研修や介護ヘルパー講座、就学・就労の相談窓口と講習など活動の幅を広げてきました。
活動の一つに「外国人ピアサポーター事業」があります。この事業は、日本語が堪能な外国籍住民が、社会保障や教育をはじめ生活に直結する制度を学び、母国語で仲間に伝えるというしくみです。さらに、ピアサポーターは、外国人が直面しやすい困りごとに対応する生活ガイドブックや社会資源紹介冊子、防災や発災時の対応に役立つ冊子を多言語で作成し、行政をはじめさまざまな場面で活用されています。横田さんは「外国籍の方は情報弱者になってしまいがちなので、正確な情報を伝えるキーパーソンの存在が大切」と、ピアサポーターの重要性を話します。
令和3年6月からは、ピアサポーターやコモンズの外国籍スタッフたちがポルトガル語で、新型コロナに対する支援の紹介等、生活に関わるテーマの動画を作成し、YouTubeに公開しています。また、ピアサポーターは福祉や医療機関等での通訳としても活躍しています。横田さんは「当事者でもあるピアサポーターは実体験に基づき、場面に応じて必要な説明を加えられる。当事者であった人が支援する側になり活躍している」と話します。
「外国籍住民一人ひとりが、利用できる制度に手を伸ばせるようにすること、また、外国籍住民も日本の文化やルールを理解し、果たすべき義務を果たせるようにピアサポーターに正しい知識を持って伝えてもらい、外国籍住民のイメージを前向きに変えたい」と、横田さんは語ります。
YouTubeで公開している動画。
社会保険、労働、救急車の呼び方等、生活に関わるテーマをポルトガル語で説明しています。
キャリアを築き、活躍できる場をつくっていく
外国人への支援を続ける中で、横田さんは「外国にルーツのある子どもたちが、将来日本で活躍する場と将来のための準備の機会が必要だと思った」と話します。
そこで、コモンズでは平成30年に「はじめのいっぽ保育園」を設立しました。通常の保育園では外国籍の親とのやり取りの難しさから、外国籍の子どもの受入れに消極的になることも珍しくないといいますが、ここでは保育に関する研修を修了した外国籍のスタッフも働いているため、やり取りも円滑で、保育園に通う間に日本の小学校生活に向けた準備も丁寧にできます。さらに、ここで経験を積んだスタッフが、保育士の資格を取れば、より安定した職に就け、まちに外国籍の保育士が増えることで、まち全体で外国籍の子どもを受け入れることができます。横田さんは「外国籍の方が知識と資格を持って、福祉の担い手として活躍できる場が増えていくと良い。そのためにも子どもの時から進路を考え、準備する機会が必要」と話します。
日本で生まれ育った外国にルーツのある子どもでも、働くといえば両親が働く食品工場か身近なスーパーというイメージしか持てない子が多いといいます。横田さんは「日本の多くの家庭では、子どもが『先生になりたい』と話せば、大学に行く必要があること、そのためにはどのくらいの成績を取る必要があるか等を伝えることができると思うが、外国籍の親には難しい。身近にロールモデルがいることや進路を考える準備の機会があることは、どの子どもにとっても重要」と言います。
現在コモンズでは、進路ガイダンスのほか、学童での時間に進学や就職に不可欠な学力や日本語能力を養うカリキュラムを加えたり、来日直後の子が、日本語や日本の生活様式を集中的に学ぶ「プレクラス」の導入を行政に働きかけたりすることで、子どものキャリア形成のしくみづくりに取り組んでいます。
コモンズがめざすもの
「生活していたら誰もが困りごとを持つ。外国籍の方はその機会がより多いので、コモンズに相談があったら何とか力になりたい」と、横田さんは言います。続けて「若い世代に外国籍住民の割合が大きくなっている。
その方たちが、ただ働いて住むのではなく一緒にまちづくりできるようになると良い」と、めざす先を話します。外国籍住民がまちのさまざまな場面で活躍できれば、働く場になるだけでなく、新たな外国籍住民が地域に馴染みやすくなります。「ただし、働くためには一定の学力や日本語能力も不可欠。活躍の場をつくり、その活躍の場で貢献できる人材を育てるというサイクルをつくらなければいけない」と、横田さんは語ります。
http://www.npocommons.org/