中央区社会福祉法人連絡会
コロナ禍も、「おたより」で広げた地域のつながり
掲載日:2023年11月20日
2023年11月号 連載

       左から

      (社福)中央区社会福祉協議会 千代倉志甫さん、 安部信之さん

      (社福)朝日新聞厚生文化事業団 古屋厚子さん

      (社福)東京都手をつなぐ育成会 レインボーハウス明石 施設長 田村克彦さん

      (社福)ひかりの子 月島聖ルカ保育園 園長 高久真佐子さん

      (社福)中央区社会福祉協議会 明石まことさん

 

あらまし

  • 中央区社会福祉法人連絡会は、2016年の発足以来、地域福祉への理解促進や多世代交流を目的とし、地域のニーズに沿ったさまざまな取組みを実践してきました。今回は、コロナ禍で始動した「おたよりでつなぐ〝まごころ〟プロジェクト」について、お話を伺いました。

 

 

コロナ禍だからこその新たな取組み

中央区社会福祉法人連絡会は、現在、区内の21法人が参加して活動しています。発足当初は、年2回行う全体の連絡会のほか、地域公益活動見学会や地域ニーズ等について学ぶ勉強会を行い、地域社会に貢献する取組みにつなげてきました。具体的な取組みとしては、小中学生を対象に福祉職場体験を行う「福祉体験合宿」や、多世代交流と連絡会参加法人職員への相談ができる「ボッチャ体験会&ちょこっと福祉相談会」があります。新型コロナ感染拡大後の20~21年度は、対面での取組みは中止せざるを得なかったものの、連絡会の開催はオンラインで続けていました。

 

事務局を務める中央区社協管理部の明石まことさんは「参加法人がオンライン会議ツールのライセンスを提供してくれて、なんとか連絡会を開催することができた。参加法人の協力があって活動が途絶えることなく続けられた」と振り返ります。

 

20年の連絡会で、地域ニーズや各法人の状況を把握するため情報交換をした際、高齢者施設を持つ法人からは「外部との交流ができなくなったことで、高齢者はフレイル(虚弱)がすすんでいる」という声が多くあがったといいます。また、保育園・幼稚園からも「刺激がなくなり子どもたちの育ちに懸念がある」「園外との関わりを経験しないまま卒業させることに不安がある」という声が聞かれました。さらに、区内の小学生から中央区社協に、「高齢者にお手紙を送りたい」という旨の電話が入りました。これらのニーズを受け、連絡会で何かできないかと意見を出し合い、「おたよりでつなぐ〝まごころ〟プロジェクト(以下、おたプロ)」が始動しました。

 

おたプロは、保育園・幼稚園の園児から高齢者施設や障害者施設の利用者におたよりを届け、そのお返しとして施設の利用者からも園児たちにおたよりを届けるという内容です。始まった当初は、第1弾は敬老の日に合わせて、お返しの第2弾はクリスマスを目安におたよりを届けていました。社会福祉法人だけでなく、株式会社が運営する施設等も参加対象になっています。おたよりの形式はさまざまで、ビデオレターや余暇時間に作成したクリスマスの飾りなどを贈り合います。

 

取組みの中で現れた課題

双方向の交流をめざし始まったおたプロでしたが、「高齢者施設ではプレゼントする作品制作が難しい」という声もありました。そのほか、保育園からの「オンラインで交流したい」という要望に対し、高齢者施設側からは「テレビを見ている感覚になってしまうので、オンラインの交流は難しい」という意見が出て、ニーズがマッチしないという課題もあったため、事務局と法人で相談し、試行錯誤を重ねて取組みをすすめてきました。

 

また、連絡会の参加法人は、施設を持たず福祉活動への助成事業等を実施する法人も多く、どのような形でプロジェクトに関わるかという点で、難しさもありました。しかし、おたよりをやりとりする様子を取材したり、おたプロを発信するためのリーフレット作成に携わるなど、どの法人もそれぞれ強みを活かして参加してきました。朝日新聞厚生文化事業団の古屋厚子さんは「取材に行った際、障害者施設の職員からは『子どもたちからのビデオを見て、表情が明るくなり受注作業が捗った』など、生の声が聞けた。今後も活動の枠組みづくり等で貢献していきたい」と語ります。

 

月島聖ルカ保育園園長の高久真佐子さんは、おたプロについて「交流したからこそ『何かしてあげたい』という思いが生まれる。子どもたちが『自分も地域の一員』と意識できるようになったり、〝ふるさと〟という感覚が子どもたち一人ひとりに芽生える取組みだと思う」と話します。

 

ニーズに合わせて変化していく

初めは施設職員が手紙を届ける役を担っており、子どもたちや施設の利用者本人が直接会う機会はなかったものの、23年度は、保育園の園児たちが高齢者施設に出向きお遊戯を披露するなどして、対面で交流する法人も増えています。知的障害者生活支援施設レインボーハウス明石施設長の田村克彦さんは「外部との接触に対しては判断が難しく、一歩踏み出せない時期が続いたが、今後は対面でやりとりして、利用者が練習しているダンスなども披露できると良い」と言います。

 

そして23年度からのおたプロは、交流時期や形式、回数などを指定せず、事務局を介さない、より自発的な交流ができるしくみになりました。これにより、利用者の誕生日祝いのために、毎月おたよりを渡しに行くことにしたという法人もあり、継続した交流につながったケースも出てきました。また、連絡会で「施設だけでの交流はどうなのか」という意見があり、22年度から高齢者向けサロンも対象にするなど、さらに地域で交流の輪が広がっています。

 

中央区らしい取組みに向けて

高久さんは「園の職員からは『もっと子どもたちが高齢者と交流し、昔遊びなどを体験できると良い』という声があがっている。地域に色んな人がいることを知り、自然に『この人たちを知りたい』と思えるような機会を増やしていきたい」と言います。田村さんは、コロナ禍で新入職員が外部の研修や交流に参加する機会がなくなっている現状にふれ、「職員育成という意味でも、地域での活動を増やしていきたい」と話します。

 

中央区社協管理部の千代倉志甫さんは「おたプロは、園児が福祉施設の利用者と関わる機会となる点で、長い目で見たら福祉人材の育成にもつながると思う。今後は区内の小中学生を対象にした、施設職員の目線を学べる、福祉教育につながるような取組みができたら良い」と、展望を語ります。

中央区社協在宅福祉サービス部推進課長の安部信之さんは、「コロナ禍でどの法人・施設も外部との関わりがなくなってしまった中で、この連絡会があったから地域とのつながりが途絶えることなく、新しい取組みに向けて動き続けられた。今後は施設を利用していない高齢者など、より広い地域とのつながりづくりに力を入れていきたい」と話します。

 

中央区はマンションや集合住宅に住む世帯が多く、近隣住民同士のつながりが希薄になりやすいといいます。そうした課題に焦点を当てた中央区らしい取組みをめざし、中央区社会福祉法人連絡会は、今後も地域ニーズに沿った地域公益活動に取り組んでいきます。

 

おたプロの交流時の集合写真

取材先
名称
中央区社会福祉法人連絡会
概要
中央区社会福祉法人連絡会
https://www.shakyo-chuo-city.jp/jigyo/renrakukai

(社福)朝日新聞厚生文化事業団
https://www.asahi-welfare.or.jp/

(社福)東京都手をつなぐ育成会 レインボーハウス明石
http://www.ikuseikai-tky.or.jp/~iku-r.b.h/

(社福)ひかりの子 月島聖ルカ保育園
https://tsukishimaseiluka.wixsite.com/seilukahoikuen



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