権利擁護センター
身寄りのない人への支援
掲載日:2024年12月6日
2024年11月号 NOW

あらまし

  • 一人暮らしの高齢者が増える中、身寄りのない人を対象とした、入院・入所時の身元保証や死後の葬儀を代行するサービスに注目が寄せられています。これらのサービスを必要としている高齢者は、どのような状況にあるのでしょうか。
    地域の権利擁護センターの窓口に寄せられている声から考えます。

 

身元保証サービスをめぐる経緯

権利擁護センターでは、『入院時の保証人を依頼できるのか』『死後の身辺整理を今から頼んでおけないか』など、身寄りがないことに伴う身元保証についての相談が目立っています。


身元保証は近世に由来する習慣ですが、今日では民法上の連帯保証人をはじめ、返済義務を負わない慣習的な保証まで幅広い意味を含みます。特に後者では、緊急時の連絡の取りやすさを理由に、家族や親族に身元保証を求めることが珍しくありません。その家族自体が「福祉における含み資産」といわれてきたように、入退院時の身元保証人や死後の手続きも、家族の役割として考えられてきました。


ところが核家族化や高齢化がすすみ、保証人を家族に頼むことができない人が増えてきました。これに応じるように、身元保証や葬儀等死後に生じる手続き(死後事務)を代行するサービスが、民間企業や非営利法人により提供されるようになりました。その内容はさまざまですが、国の資料によれば、「高齢者等終身サポート事業」として下記の表の例があげられています。


民間のサービスが増えるにつれて、説明が不十分なまま高額の料金を請求される消費者トラブルが浮上します。2014(平成26)年には、契約時に支払った預託金を不正流用した非営利法人の破綻が社会問題になりました。昨年5月には、総務省による初の調査が行われると、重要事項説明書の不備や、判断能力が低下した場合の規程がない事業者の実態があきらかになりました。


このような事態を受けて、今年6月には、国は「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」をまとめ、契約時のチェックリストを示しました。しかし、事業者に対する認証制度が今後の検討課題として挙げられるものの、法的な規制はないことから、ガイドラインも事業者の自主的な取組みに委ねられているのが現状です。

 

 

表 高齢者等終身サポート事業の例

 

図 高齢者等終身サポート事業のイメージ

 

注 図表とも、総務省行政評価局(2023)『身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査結果報告書』および内閣官房等(2024)『高齢者等終身サポート事業者ガイドライン』をもとに作成

 

身寄りのない高齢者が求めるもの

墨田区社協では、日常的な支援ができる親族がいない、区内の一人暮らし高齢者を対象に「すみだあんしんサービス」を実施しています。申込み時に判断能力のある状態での契約が必要で、契約後は定期的な安否確認の見守りサポート、判断能力が低下した場合に社協が任意後見人として支援を行う任意後見サポート、公正証書遺言の作成や死後事務を代行するエンディングサポートを行っています。


すみだ福祉サービス権利擁護センターの大倉祐子さんは、利用者には「初回相談の時点で、インターネットを使って企業などのサービスを詳しく調べている人が多い」と話します。身寄りについては、遠い親類はいるものの、身の回りのことを頼めるほどの関係ではない場合が多いそうです。その一方、地域とのつながり自体は多い傾向にあることから、「身寄りがなくても、地域で孤立しているとは限らない」と指摘します。


サービスの契約に結びついても、「定期的な見守りを続けながら、判断能力や体調に応じて任意後見契約へ移行していく形をとっているため、支援は数年に渡る」といいます。このような継続的な支援が、身寄りがないことへの不安に寄り添うことにつながっています。


府中市社協の「あんしん支援事業」は、支援できる親族がいない市民を対象としています。訪問による見守りサービスを基本に、日常的な金銭管理や入退院時の支援などを行う日常支援サービス、入退院時の保証人に準じる支援や、死後の葬儀や埋葬の手続きを代行する保証機能サービスを行っています。なお判断能力が不十分な場合は、地域福祉権利擁護事業や成年後見制度の利用支援を行います。


権利擁護センターふちゅうの中山圭三さんによれば、「親族との関係が疎遠な人からの相談が多い」といいます。相談時点では介護保険などの高齢者向けサービスを利用していない場合も多いことから、「契約後の見守りでは、生活上の困りごとをうかがうとともに、必要なサービスにつなげる役割もある」と話す通り、月1回の訪問では、近況をたずねることにしています。福祉サービスを必要とする前から関わりをつくることができるのは、社協がこの事業に取り組む意義でもあるといえます。

 

本人の意思を尊重した支援を

取材を通して、不測の事態への不安を少しでもなくそうと、体調や生活に余裕がある時に備えておこうとする高齢者の意向が浮き彫りになりました。一方、現状ではインターネットで情報を集めることができる人の相談が目立つことから、今後は、情報の検索が苦手な人や、介護や低所得などの理由で余裕がない人にも必要な情報が届くようにしていくことが課題になりそうです。また、預託金やサービス利用料が負担で身元保証会社の利用が難しい人がいることも見逃せません。


高齢社会に応じた身元保証のあり方も問われています。権利擁護センターにおける相談には、身元保証等サービスを利用していても、例えば高齢者向け住宅への申込みの時に、保証人を家族に限定している場合があるため利用できなかったり、身元保証会社や成年後見制度の利用をすすめられたという例もあります。


身寄りのない人への支援が制度となりつつある中、人によって生活上の課題が生じる時期や程度が異なることをふまえると、本人の意思決定が最大限尊重されることは欠かせません。その上で、長期的な支援を続けていくことが事業者に求められています。

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