認知症グループホーム サンライズホーム
管理者 佐藤利弘さん
あらまし
- 江東区にある認知症高齢者グループホーム サンライズホームは、介護保険制度の地域密着型サービスとして、共同生活による小規模で家庭的な生活環境のもと、認知症の高齢者に専門のサービスを提供しています。7階建ての建物の1階がサンライズホームで、上の階には同じ法人が運営する老人保健施設が入っています。1ユニットの利用者は9名で、2ユニット計18名の方が利用しています。利用者の要介護度の平均は3.1です。一人ひとりのペースや自己決定を尊重し、できること、分かることを大切にした【有する能力に応じた】ケアにより認知症の方たちの日常生活を支援しています。
コロナ禍による利用者の方たちの日常生活の変化
コロナ禍以前は、日中、利用者は職員と共に外出する機会が多くありました。外食をしたり、電車やバスに乗って出かけることや、近所のスーパーに買い物に行き、グループホームに戻りみんなで料理をすることも利用者の方たちにとっては日常生活でした。町内清掃や町会の行事にも積極的に参加していました。
新型コロナが感染拡大しはじめ、外出自粛等により、日常生活が一変しました。感染症対策を徹底する中で、ホーム内での生活が中心となり、家族等の気軽な訪問や買い物へ行くなど、あたりまえの生活ができなくなりました。また、これは利用者だけではなく、職員にも影響がありました。「良い意味で他者から見られるという緊張感が失われ、他のグループホーム等との横のつながりも希薄になった」と管理者の佐藤利弘さんは言います。
職員の感染からクラスターの発生へ
令和2年8月に入り、1つのユニットの職員2名が体調不良となり、検査の結果、新型コロナに感染していることが判明しました。同じユニットの他の職員と利用者は濃厚接触者となり、全員がPCR検査を受けました。保健所からの指示により、同じユニットの職員全員が検査結果を待たずに即日出勤停止となり、その日から2週間の自宅待機となりました。併せて、建物内のゾーン分けを行い、他のユニットや併設事業との接点を無くしました。
その後、令和2年8月中旬~下旬にかけ同じユニットで新たに利用者1名と職員2名の新型コロナ感染が判明し、このユニットによるクラスター(集団感染)と認定されました。利用者には、個室となっている自室で1日中過ごしてもらい、食事も自室でとってもらいました。しかし、一方で自室でずっと過ごすことができない利用者支援の難しさも感じました。日中にぎやかだったフロアは、音のない空間になってしまいました。
感染者発生後の日中のユニットのリビング、誰もいない空間になってしまいました
職員体制の再構築
最初の感染者が出て、ユニットの職員全員が自宅待機となったため、急きょ法人内で調整して人員体制の再構築を行いました。余裕のない人員体制で運営している中で、併設施設から人員を出してもらうことで、必要最低限の介護サービスは継続することができましたが、未感染ユニットや併設施設にも人的な影響が出ることとなってしまいました。
感染者発生により、保健所と区に連絡を入れると、すぐに大量の防護服などが送られてきました。その後も保健所や区とは頻繁に連絡を取り合っていましたが、佐藤さんは「第二波の感染拡大の最中、情報や指示は日々変わり、グループホームも保健所や関係機関も混乱していた」と振り返ります。
ユニットでは職員は必ず防護服を着ることになり、猛暑の8月、クーラー設定をしていても汗だくになりながらの業務が続きました。また、一度使用したフェイスシールドや防護服は医療廃棄物として、処理しなくてはなりません。これまで経験したことのない業務や新たな知識が必要となり、このことも職員の負担となっていきました。
グループホーム内のすべての作業は、このように防護服をつけて行いました
利用者家族への情報提供
従来から利用者の家族への連絡や情報提供として、月1回新聞を発行していました。感染者が出てからは、メールに写真を添付して出来る限りホーム内の情報を送り、これまで以上に利用者の様子をこまめに情報提供するようにしていました。
佐藤さんは「このメールの返信として、家族の方たちから職員へ励ましの言葉をたくさんいただき、大きな力をもらいがんばれた」と、話します。
勤務継続職員と自宅待機職員のメンタルヘルス
勤務を継続する職員は、自身も感染するのではないかという不安や過酷な勤務状況下で疲労困憊していました。また、療養中の職員や自宅待機の職員と佐藤さんは、体調管理の名目でメールで連絡を取り合っていました。佐藤さんは「メールから、職員の責任感や自宅待機のうしろめたさが伝わってきた。中には、深夜に不安を訴える職員もあった。メールの内容が気になる職員もいた。出勤できない職員のメンタルヘルスにも気配りが必要であると思った」と話します。
8月下旬になって、自宅待機の職員が出勤できることになりました。多くの職員が復帰し、感染していた利用者の体調も回復し、日中のフロアにも利用者の方たちが戻り、賑やかな日々が戻ってきました。
クラスターで露呈した福祉サービスの弱点
佐藤さんは「今回のクラスター対応で福祉サービスの弱点を思い知らされた」と言います。一つは【人員体制】の問題です。「福祉サービス全体が慢性的な人材不足の中で、今回のように複数の職員が同時に自宅待機等で人員に欠員が生じると、サービス提供の継続に大きな危機が生じる。運営母体が比較的大きな法人で、かつ同じ建物内の別フロアで別事業を行っていたので、人員調整等の急な対応ができた。東京都は『新型コロナ感染発生施設への応援職員派遣事業』を用意してくれているが、今回、手続きをする余力がなかった」と言います。
また「コロナ禍だけではなく、大規模災害等でも職員の欠員が考えられる。さまざまな場面を想定したマンパワーの確保、サービスの充実を図る等これまで以上に真剣に考えなくてはならない」と話します。
もう一つは【学びの不足】です。福祉サービスを提供している多くの事業所は衛生管理への配慮を怠っていません。コロナウイルスを事業所に持ち込まないことにも細心の注意を払っています。
しかし、佐藤さんは「職員や利用者がコロナ感染症に罹患したときの事業継続のノウハウや関係機関との連携に大きな課題が残った。特にコロナ対応の知識不足が混乱に拍車をかけた」と言います。感染症対応でクラスターに対処しながら福祉サービスの提供を継続するためにはどうすればよいか、専門家による支援や学びの場が必要になっています。
今後も、得られた気づきを活かして対策をすすめていく予定です。