施設長 入江祐介さん(左)、受付ボランティア 関口洋子さん(右)
パール代官山は、渋谷駅と代官山駅の中間に位置する平成11年設立の特別養護老人ホームです。入所定員は50名、ショートステイの定員が10名で、計60床を有しています。施設サービスを基盤としながら、在宅サービスにも力を入れていることが特徴です。訪問介護・看護や在宅介護支援センターの受託、居宅介護支援事業所を持つなど、幅広く在宅サービスを展開しています。「利用者の困った声を断らない」という新谷弘子理事長の理念のもと、在宅サービスの利用者が増えていきました。事業と利用者の拡大に伴い、現在の職員数は約180名に至ります。
また、積極的に外に出向く姿勢を取っており、自施設内で完結するのではなく、地域行事への参加が多いのも特徴です。以前は、地域の運動会やお祭りに招待される立場でしたが、同じ町会の一員として、行事の準備段階から片付けまで参加していくようにしました。そこから、徐々に地域の方との連携が密に取れるようになっていき、地域の方々と一緒に施設をつくり上げるという現在の施設のあり方につながっています。地域包括支援センターでも、相談を待っているだけでなく、近隣のマンションの管理組合に働きかけ、出張相談会を行ったり、介護予防教室を開催したりしているのも特徴です。
基本を徹底することの大切さ
パール代官山は、さまざまな在宅サービスのどこから感染症が持ち込まれるか分からないため、一度感染が発生すると、拡大してしまう可能性が高いという危機感は常に持っていました。それは、新型コロナが流行するよりも以前の、インフルエンザの流行が教訓となっています。平成28年ごろ、インフルエンザがデイサービスの利用者から多くの職員や利用者に拡大し、感染を早期に止められなかったことがありました。この経験から、毎週行う経営会議で、毎日の検温の徹底や、玄関からの手指消毒や手洗いうがいのルートの統一を図るなどの方針を打ち出しました。
玄関で検温をする様子
一度目の緊急事態宣言期間の令和2年4、5月頃は、外部の人の出入りを制限するといった対応を取りました。ほかにも、施設の出入り口を分散させる案が出るなどしましたが、まずは感染症対策の基本を徹底することを優先しました。特に、インフルエンザ流行時の教訓をもとに行っていた基本の感染症対策は、全職員への研修で繰り返し周知することにより徹底を強化しました。
施設長の入江祐介さんは「感染症対策は、いくら費用をかけて物品や設備を充実させても、基本が徹底できていなければ効果が出ない。職員一人ひとりが手洗いうがいや健康管理などの基本を徹底することが重要なのではないか」と言います。
徐々に今までの生活に戻していく
職員体制については、できるだけ出勤する職員数を減らすよう調整しました。また、新谷理事長の発案で職員の車通勤を推奨しました。コロナ禍以前から地域とのネットワークがあったため、近隣の教会や町会長所有のマンションの空き駐車場を無料で借りることができ、現在も継続しています。
在宅サービスやデイサービスの利用については自粛が増えました。デイサービスに関しては「最低限自粛するように」という職員への指示が「原則中止するように」と伝わってしまうなど、これまでにない状況に、職員間でも混乱が見られた場面もありました。面会も制限したので「ご家族や利用者の方々には申し訳ない気持ちもあった」と入江さんは話します。
このように、新型コロナが流行した当初は、制限を強くしてウイルスが入ってくるのを防ぐことに力を注いでいましたが、2年6月ごろからは、今までの日常に近い生活を送っていくために、いかに新型コロナと付き合っていくかという長期の視点に切り替わっていきました。デイサービスなどは感染症予防を徹底した上で通常業務に戻していき、家族等との面会はオンラインでの実施としました。
全職員対象の集合型研修も中止していましたが、2年8月からは、共通のフォルダに研修資料を共有し、職員各々が時間のある時に見て学ぶようにする非対面形式で再開しました。入江さんは「研修の参加人数が約2倍になり、今まで業務の都合等で参加できなかった職員も研修を受けられるようになったことは良かった」と振り返ります。
地域の方々の協力に助けられた
2年9月ごろからは、新谷理事長の考案で、玄関に受付カウンターをつくり、8名の地域のボランティアを交代で配置し、職員や外部の方への手洗いうがいや手指消毒、検温の声かけをしてもらっています。もともと、介護予防教室や元気な高齢者向けのデイサービスのために、施設の空いているスペースを地域の方々に開放していました。それらの活動が、新型コロナの影響で中止となり「施設のために何か協力したい」との申し出を受けたことをきっかけに始まったものです。「地域の方が積極的に助けてくださるのでとてもありがたい」と入江さんは言います。
受付ボランティア 市川美貴子さん
受付ボランティア 近藤良江さん
自分たちにできることをやっていく
新型コロナを施設内に持ち込まない、利用者にうつさないための基本の対策を徹底し続けるのはもちろんですが、今後は、感染者が出た時の対策に力を入れていく予定です。特に、新型コロナを受けて作成した感染者発生時の事業継続計画(BCP)が実践できるのかどうか検証することが重要だと考えています。BCP担当を管理職層ではない職員とし、特定の人からの指示がなくても、職員全員が同じように動くことのできるしくみを構築していく方針です。
渋谷区内の他施設で感染者が出た際には、その施設が孤立しないような支援が必要になります。日頃から横のつながりを密にし、できるだけ早くマスクや消毒液等の物資を届けに行くなど、施設としてすぐに動ける体制でいるようにしています。
また、3年3月以降には、都や区からの要請でPCR検査とワクチン接種を行いました。ワクチンは、特別養護老人ホームの利用者と職員約100名が対象で、約80名に打つことができました。しかし、これらを実施したからといって安心するのではなく、感染者が出ることを常に想定して行動することを意識しています。
「施設内においても、周りの施設に対しても、今自分たちにできることを迅速に行い、徹底することが、新型コロナ感染者を出さない、出たとしても感染拡大を最小限に抑える一番の有効策であり、今後も継続していきたい」と入江さんは話します。
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