尚工藝 宮田尚幸さん
自分が「福祉」と感じるものごとにデザインを取り入れていきたい
掲載日:2021年11月5日
2021年10月号 くらし今ひと

尚工藝、風と地と木合同会社
代表 宮田尚幸さん

 

あらまし

  • デンマークにある工房「Vilhelm Hertz(以下、ヴィルヘルム・ハーツ)」でつくられる杖を広める取組みをしている宮田尚幸さんに、福祉との出会いや、ものづくりに込める想いについて伺いました。

 

私は、フリーランスのデザイナーとして商品のデザインやブランディングを行うかたわら、「風と地と木合同会社」を設立し、ヴィルヘルム・ハーツの一員として、杖を広める取組みをしています。この杖は、愛着を持って長く使うことを意識して素材にこだわり、デンマークの職人の手によって一つ一つ丁寧につくられています。私は、日本の窓口として、ユーザーの身体の状態や杖に込める想いを丁寧に確認し、理学療法士や作業療法士と連携しながら採寸やモデル選びのお手伝いをしています。

 

私がものづくりにおいて大切にしていることは、ユーザーが使っていて心地良いと思える工夫を施すことです。

 

機能と意匠をデザインし、人の尊厳を大切にするヴィルヘルム・ハーツの杖

 

環境に配慮し、長く愛着を持ってもらえるものをつくりたい

大学卒業後は量販店向け文具雑貨のデザイン開発に4年間携わっていましたが、次第に大量生産、大量消費に疑問を感じていました。次に3年間勤めたのは、環境に配慮し、ユーザーに長く使ってもらうことを大切にした革小物製品の会社で、ものづくりと真剣に向き合うきっかけとなりました。これらの経験を経て、平成30年に「尚工藝」を立ち上げました。

 

ものづくりの視点から、「福祉」に携わりたい

これまで海外生活を2回経験しました。1度目は、革小物製品会社に入社前、「海外文化に触れてみたい」という思いでイギリスに語学留学をしました。ここでは〝ありのままの自分〟を自然と受け入れてくれる環境がありました。私は幼い頃から、人前で話すことが苦手で、人の顔色ばかりを窺い、自分の意見を後回してきました。そんな自分に劣等感を感じていましたが、ありのままの自分を受け入れられるようになりました。

 

2度目は、革小物製品会社を退職後、日本のものづくりから一旦離れたいと思い実行したデンマークでの一年間のワーキングホリデーでした。デンマークの、代々家具を引き継いで使う国の文化、高福祉といわれる社会に、なにか芽生えた思想の芽を育てるヒントがある気がしたんです。最初の半年間は「エグモント・ホイスコーレ(以下、エグモント)」という、障害の有無に関係なく共同生活を行う全寮制の学校に入学しました。

 

〝せっかく行くなら今までにない経験をしたい〟と思いこの学校を選択しました。同時期に入学した日本人の車椅子ユーザーのヘルパーも任されました。

 

エグモントでの学びや彼と日常を共にする中で、どうやったら障害の壁がなく生活が送れるのかを、身をもって体験することができました。例えば、彼が行きたいお店に階段があったとしたら、どうやったらお店に入れるかを工夫します。少しの工夫(デザイン)を施すことで目的が達成でき、幸せになる。「国民一人ひとりの幸せ=福祉」という広義の意味での「福祉」を知ったと同時に、ものづくりにおいての考え方と似ているものを感じ、自分が得意とするものづくりの視点から「福祉」に携わりたいと思うようになりました。デンマークの国際福祉機器展で出会ったヴィルヘルム・ハーツはまさに私の理想とするものでした。後半の半年間は直談判して工房で住み込みで働き、職人の杖に込める思想や大きな愛を学びました。帰国直前「日本で広めることはお前に任せた」という職人の言葉から、日本の窓口の道が開けました。

 

生きづらさを感じる人が、デザインを通して心理的な安心安全を感じ、前向きになるように

現在は、「福祉」と感じるものごとにデザインを取り入れることを意識して仕事をしています。例に、保湿しながら手が洗えるハンドクレンジングのブランディングに携わったことがあります。これは、工場作業員の手荒れに気づいた社員の声により開発されました。手荒れという「生きづらさ」が軽減されるという意味で私にとって「福祉」です。これからも、ものづくりを通して生きづらさを感じる人が少しでも前向きになれるきっかけをつくれたら良いと思います。

取材先
名称
尚工藝 宮田尚幸さん
概要
尚工藝
https://www.facebook.com/naokogei

Vilhelm Hertz Japan
https://www.vilhelm-hertz-japan.jp/
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