2022年の日本全国の自殺者数は2万1,881人で、前年に比べて874人増加しました。小中高生の自殺者数は514人で、これまで最多だった20年の499人を上回り、過去最多となりました。また、21年の20〜39歳の死因の1位は自殺となっています。このような状況の中、若者の自殺対策事業などに取り組む特定非営利活動法人Light Ring.(ライトリング)にお話を伺いました。
厚生労働省自殺対策推進室・警察庁生活安全局生活安全企画課
「令和4年中における自殺の状況(令和5年3月14日)」をもとに作成
代表理事自身の経験から法人設立に至る
ライトリングは、10年に設立、12年に法人化されました。設立のきっかけは代表理事の石井綾華さん自身の経験です。石井綾華さんが初めて「死」を意識したのは、摂食障害で入院した小学5年生の時です。その後、高校3年生には家族をアルコール依存症で亡くしました。生きづらさや「何もできなかった」という思いを抱えて過ごしてきました。勉強をしていく中で、世界の国々と比べて日本の自殺率が高いことなどを知り、石井綾華さんはその要因の一つに、当事者を専門家だけが助けるという日本の社会構造があるからではないかと考えました。「医師やカウンセラーなど専門家の支援があることに加え、理解してくれる身近な人がいることで支援が続いていき、自死や孤立の予防を可能にするしくみができていく」と話します。
石井綾華さんは「私自身、助かったと思えたのは、母親からの声かけや、退院して学校に戻った時の同級生からの『おかえり』といった何気ない一言だった。身近な人の影響力や可能性はとても大きいと感じている」と言います。
特定非営利活動法人Light Ring.
代表理事 石井綾華さん
ゲートキーパー育成後の支援を大切に
ライトリングでは、身近な支え手を増やすことを目的に、ゲートキーパーの養成講座を実施しています。
ゲートキーパーとは、自殺の危険を示す変化に気づき、話を聞き、必要な支援につなげることのできる人を指し、特別な資格は必要ありません。小学生から大学生、さらには教職員を対象に、依頼のあった全国の教育機関に出向き、講演を行っています。石井綾華さんは「講演では、自身の精神疾患や障害を公言している芸能人などに触れ、若者の文化や価値観に沿った導入をするよう意識している。関心を持ってもらい、精神疾患や自死への違和感や偏見をなくしてもらうことを心がけている」と話します。約10年間の活動で、育成したゲートキーパーの総数は2万人に上ります。
そして、育成後のゲートキーパーを支援する取組みとして支え手居場所事業「ringS」を、オンラインで開催しています。「ringS」は2部構成で、ゲートキーパーの負担を減らすために必要なセルフケアの大切さなどを伝える講義と、お互いの悩みを共有して意見交換ができる座談会の時間を設けています。年6回開催し、22年度は延べ60〜70人ほどの参加があり、その全員が39歳以下の若者で、約7割が20代でした。また、参加者のうち、すでに身近な誰かを支えている人は約6割、さらに身近な人が「死にたい」という気持ちを抱いている希死念慮者である割合は約2割でした。この状況に対して、石井綾華さんは「ここは『死にたい』気持ちを覚えるほど深刻な状態の人を支えている人が集う居場所になっている。私たちとしてもこの活動を大切にしている」と強調します。
養成講座や「ringS」のほかに、24時間365日ゲートキーパーの悩みを受け止める「オープンチャット」を行い、「自分が支えになれているのか分からない」「支えることがしんどくなってきている」といった相談を受け止め、寄り添っています。公認心理師として活動に関わる石井辰彦さんは「支え手は、どうしても『相手の方が辛いはずなのに』と思ってしまうが、『辛い』という感情を持つことはおかしなことではない。セルフケアの大切さを伝えるようにしている」と言います。続けて「支えている側への支えが必要であることを多くの人に知ってもらいたい」と話します。
公認心理師 石井辰彦さん
身近にいる人ができること
現在、さまざまなSNSやオンラインツールがあり、使い方も多様化しています。石井辰彦さんは「ツールが増え、自分の気持ちを表現しやすくなっているが、身近にいるからこそ察知できるような仕草や日常の変化、言語化されていない気持ちもあると思う。ちょっとした声かけや一緒に過ごす時間が自殺や孤立の予防につながってくる」と言います。
今後について、石井綾華さんは「身近にいる人と専門家が連携して、悩みを抱える人を支援する体制を構築していくことが、自殺や孤立の対策の課題だと捉えている」と話します。石井辰彦さんは「ゲートキーパーに限らず、相談を受けたり支援をしている対人援助職の方々には、自分自身のケアを大切にしてほしいと強く願っている。支え手側も相談して良いということを忘れないでほしい」と、思いを語ります。
同じ境遇で悩みながらも支援に従事するピアスタッフの活動の様子
https://lightring.or.jp/