病院をもっと身近な存在にしたい
江戸時代に宿場町として栄えた町田市の小野路宿に、2021年3月にオープンした「ヨリドコ小野路宿」があります。約300坪の敷地内には、訪問看護リハビリステーションとカフェ、集会場などのオープンスペース、蔵、菜園、竹林が生い茂る裏山がある複合施設です。ここを運営する一般財団法人ひふみ会まちだ丘の上病院の代表理事の藤井勝巳さんは「病院の敷居が高いというイメージを変え、地域の皆さんの身近な存在にしたい。病院のリニューアルを機に、そのきっかけになる場所がつくれないかと考え“あるといいながあるところ”をコンセプトにプロジェクトがスタートしました。ヨリドコには、地域の人たちの“ 拠り所”になりたいという想いが込められています」と背景を語ります。
母体であるまちだ丘の上病院は、2017年まで重症心身障害児を主軸にした専門病院でした。アクセスしにくい丘の上にあり、外来もありましたが、地域の人たちからはどんな医療を提供しているところか分からない存在だったといいます。一時は廃院が決まっていましたが、2017年に新しく体制を整え、外来と入院、リハビリテーションを提供する医療療養型病院に生まれ変わりました。これをきっかけに「医療で地域を支える」というミッションを掲げ、病院とは別に地域の拠点となる場所を新たにつくりたいと考えました。地域の人との対話を数多く重ね、「あるといいながあるところ」というコンセプトをつくりました。藤井さんは「初めに時間をかけて地域の方たちとコンセプトをつくりこんだこともあってブレない軸ができ、その後の活動もスムーズにすすめることができました」と振り返ります。
集会場や和室・蔵では展示会や各種イベントやワークショップなどが開かれ、ニーズによってフレキシブルに使うことができます。灯篭やカゴなどの竹の民芸品をつくるイベントや、竹林の中で楽しむ篠笛コンサート、アロマや造形教室などジャンルは多種多様。イベントのほとんどがここを訪れた人たちから提案され、横と横のつながりで住民主体のイベントづくりに発展しているといいます。
施設長の古賀寛さんは「驚いたのが、ここでつながった人や団体同士が連携し、ジャンルを超えて大規模なマルシェを開催したことです。今では月1回の定例イベントになっていて、地域からたくさんの方が来場してくれています。皆さん、『地域で何かしたい』という気持ちは持っていて、それを実現できるのがヨリドコ小野路宿だと思っています。施設側からは何も働きかけていませんが、もともと参加者だった人や団体がつながり、今度は主催者側となり役割をもって関わってくれる人が増え始めています」と反響を話します。
住民が心身ともに健康に生きられるために
ここで生まれた関係やイベントが、地域に住む人たちの生きがいややりがいにもつながっているのがヨリドコ小野路宿の魅力のひとつです。古賀さんは「“けんこう”は、自分らしい生活を送るための手段だと思っています。病気に対しては医療で対応することができるけれど、心の健康や孤独・孤立の問題などは病院単体では解決できません。ここなら自分が過ごしたいように過ごせるし、仲間も増える。やりたいことがあるなら実現できる場も整っていますし、学びや発見が生まれる機会が多い。不安や困ったことがあっても親身になってくれる人たちがいます。病院が母体なので場合によっては医療につなぐこともできる。この場所をきっかけに体も心も健康な人たちが地域に増えれば、ウェルビーイングな生き方が実現できるのではないでしょうか」と語ります。
さらに藤井さんは「今後はさらに多くの高齢者や子どもたちへも積極的にアプローチしていきたいです。それと同時に、要介護認定率や要介護度の改善、1人当たりの医療費の削減など、この取組みでの定量的な効果をデータ化して、ほかの地域にも参考にしてもらえるような提言ができたら面白いなと思っています」と、今後の展望を話します。
オープンして約4年。2024年9月にはまちだ丘の上病院内に指定居宅介護支援事業所が新設され、ヨリドコ小野路宿の相談や人と人をつなぐ機能をますます強化する予定です。ヨリドコ小野路宿は、これからも地域の人たちの心身が元気になる場づくりをめざしていきます。
ヨリドコ小野路宿(おのじじゅく)
- 場 所:町田市小野路町892-1(鶴川駅よりバスで約13分)
問合せ先:042-860-5950(代表)