(社福)国立保育会 西国分寺保育園 園長 奥野 かよさん
あらまし
- (社福)国立保育会は、都内で8か所の保育所を運営しています。法人内各園の職員が共に学ぶ場を設けたり業務改善提案を共有していくことは、職員の声が届く職場として職員の定着にもつながっています。また、職員が安心して働く職場の雰囲気は、受入れた実習生や保育士職場体験ボランティアにも伝わっていきます。法人内のモデル園としても日々実践を深めている、西国分寺保育園の質と量の好循環をお伝えします。
私たちの空気を感じて欲しい
新たな人材に働きかける取組みとして、国立保育会では平成28年度より「保育士職場体験ボランティア」の募集を始めました。新卒者と経験者(有資格者)双方に対して、1日コース(9~16時)と、半日コース(9~12時)を設けています。一定額の交通費を法人が負担し、参加回数に制限は設けていません。「日々の保育の中で保育士の姿を見てもらう。まずは、私たちの保育園に入り空気を感じていただきたい。体験者の中には、実習前に、園や保育士の雰囲気を知る機会として活用した学生もいた」と、28年度8名を受入れた西国分寺保育園園長の奥野かよさんは話します。
実習生に対しては、実習期間を通して達成感を得て「保育士になりたい」と思ってもらえることを重視しています。奥野さんは、「以前、『他園の実習が憂鬱な気持ちで終わった』という実習生がいた。本園では『実習が楽しかった。充実していた』と思えるように、職員からの積極的な声掛けと丁寧な指導を心掛けている」と言います。また、実習の内容では、「なるべく地域支援の場面が設定できるように意識している」と言います。西国分寺保育園の特徴を活かし、実習期間中に一時保育室と病後児保育室には必ず1日ずつ入ります。また、在園児が地域と交流する機会があれば同行します。奥野さんは、「最近の学生を見ていると、仕事に“幅”を求めているのを実感する」と言います。そして「実際に、実習で地域との関わりを体験した学生の『在園児のことだけでなく地域の方の声も聞けて感激した』という反応が印象的だった」と話します。
養成校に対しては、法人本部が作成するリストを基に、28年度は法人内の各園長が5、6校ずつ訪問しました。養成校から得た最近の学生の状況や特徴、各園が実習生から得た情報は、その後、法人内の園長会で共有し次の取組みに活かしています。
「保育士職場体験ボランティアのお知らせ」チラシ
新卒向けと、経験者向けを用意している。
実習生の様子もホームページで紹介
職員が互いに学び合う
国立保育会では、禁止語、否定語、命令語を使わず、子どもの自主性を引き出す保育を行っており、西国分寺保育園は法人内のモデル園となっています。日々の保育に追われがちな中、職員のスキルアップや法人統一の保育をすすめていく機会をどう持つか検討する中で、平成28年度より毎月、各園の指導職や職員が集まり共に学び合う「保育内容統一化研究室」を開始しました。研究日には、法人内の各園から20名弱の職員が西国分寺保育園に集まり、外部講師として井上さく子先生にも参加いただき、午前は公開保育、午後はふり返り会議を行います。具体的な場面を基に「子どもの自主性を引き出す保育」として環境構成の人的環境、物的環境について、意見交換をします。参加した職員は西国分寺保育園の職員が子どもに穏やかに語りかけ相談し対話しながらすすめていく保育の心地よさを感じ、公開保育やふり返り会議を通じて、たくさんの気づきや学びを自園に持ち帰り、自園での実践につなげていきます。
園内においても同様に、「リーダー会議」「フロアー会議(月1回)」「職員全体会議(月1回)」を活用しながら、他のクラスやフロアーの様子を職員同士が把握し、日々のクラス運営の中で悩むことの意見交換や、ベテラン職員からの経験談を聞く機会となっており、気になることを一人で抱え込まない環境がつくられています。
研究日の様子。午前中の公開保育を振り返る。
外部講師として井上さく子先生に関わっていただいている
「園長になりたい」と思えるように
入職1年目は、自分の園の業務をしっかり努めてもらい、2年目以降の職員へは、法人内の交換研修(1日)を実施しています。同期などから話を聞き、「是非、あの保育園の現場が見てみたい」と希望がある場合に手を挙げることが出来ます。現在は保育士のみが対象ですが、栄養士や調理師からも要望があり、現在検討しているところです。人事異動に関しては、年1回、職員から理事長宛に異動希望や要望を出す機会を設けています。6年目から異動対象になりますが、6年目以下の職員でも異動希望があれば、なるべく希望に沿うようにしています。法人内でも年々運営保育園数が増える中、中堅職員からベテラン職員までが、これまでに培った力を新たな園で活かせる機会にもなっています。「指導職の職員に『園長になりたい』と思ってもらえることを意識している」と奥野さんは話します。
休暇面では、夏休みは5日間、健康休暇は月1回、園長も含め必ず取得しています。休暇の希望日については、行事等を考慮して月ごとに優先するクラスを決める工夫をしています。また、介護や看護、育児を理由とした短時間勤務者は西国分寺保育園では現在4名います。他の職員への朝夕の勤務負担の偏りを懸念しがちですが、法人では、朝7時から7時半と、夕方18時から20時半の時間帯は、1回500円の手当てをつけ、バランスよく平等に働ける方法を考えています。
新年度、理事長もクラスに入りながら新任職員の様子を見守ります。
職員の声が届く職場
国立保育会では、平成29年度から職員の業務改善の一つとして「業務改善提案票」をつくり、職員から業務改善提案があれば、その提案票に記載し園長に提出する取組みを開始しました。業務改善提案一件について、200円の手当てをつけています。西国分寺保育園では常勤職員全員が業務改善提案を提出しました。中間報告として法人内の提案事項約80項目を一覧にし、法人全園が職員へ回覧し周知しています。理事会でも中間報告を行いました。
職員の改善案から実施された一つが「短時間勤務の7時間勤務の枠を一枠から三枠に増やし時間帯の幅を広げて欲しい」という提案です。職員の声が届き、6月の理事会で承認され7月1日から運用が開始されています。また、平成29年4月からは、保育士の業務改善の一つとして書類作成に関わる業務を軽減させる目的で保育内容や児童票の作成をシステム化しました。項目を定め内容を記入する形式にしたところ、数日かかっていた作業が数十分で終わるようになったという声もあります。
職員の声が届く職場で安心して働けることは、保育園で過ごす子どもの安心感にもつながります。そして、その職員と子どもたちの雰囲気は、実習生や保育士職場体験ボランティアなど保育園に足をふみいれる方にも伝わります。こうして新たな人材の循環につながっていきます。
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