姫と王子の医ケアの会、国立成育医療研究センター「もみじの家」、訪問看護ステーション そら
重い病気や障害をかかえた子どもの成長を支えられる地域社会へ
掲載日:2018年1月24日
2016年7月 社会福祉NOW

 

あらまし

  • 在宅で医療的ケアが必要な病気・障害を持つ子どもとその家族が、地域で安心して暮らせるよう支える取組みについて、当事者のニーズを明らかにするとともに、福祉と医療が連携した支援のあり方について考えます。

 

医療の進歩によって日本の小児医療における救命率は大きく上昇しており、多くの重い病気・障害を持って生まれてきた子どもを救うことができるようになりました。しかし、急性期の治療が終了して退院した後も医療的ケアを常に必要とする子どもの数は増加傾向にあります。常時医療的ケアを必要としながら在宅で生活する子どもは、全国で約20万人いると考えられています。その症状の程度はさまざまで、寝たきりの子どももいれば、気管切開等をしていても走ることやしゃべることができる子どもも増えてきています。しかし、このような子どもとその家族を支える包括的な支援や専門家はまだ少ないため、家族は休む間もなく子どものケアに追われ、地域でも孤立しがちです。

 

24時間365日続く家族による在宅ケア―姫と王子の医ケアの会(要医療的ケア児の親の会)

平成27年に設立された「姫と王子の医ケアの会(要医療的ケア児の親の会)」では、当事者の親が月に1回集まり、情報交換や交流を行っています。

 

参加者のAさんは「特に最初の頃は24時間365日、終わりの見えないケアに常に迫られている。自分が倒れたらこの子はどうなるのだろうと、毎日不安で眠れなかった」と、医療的ケアを全面的に家族が背負う身体的、精神的な負担の大きさを話します。しかし、このような負担を軽減できる制度や施設、地域の支援は多くありません。親は子どもと地域に出ていきたくても、医療的ケアの必要な子どもをつれていける親子サロンや児童館等の地域の居場所はなく、受入れてくれる保育所、幼稚園もほとんどありません。児童向けデイサービスについても対象年齢が「未就学児」の施設が大半を占め、就学後もさまざまな場面で保護者の同伴を求められます。

 

Bさんは、「社会のすべてから『あなたのお子さんの居場所はここにはない』と言われている気持ちがする」と話します。Cさんは、「子どもは『大人のミニチュア』ではない。支援者には、大人とは違う、子どもの成長発達や自立という視点を持ってほしい。親が求めているのは、親の代わりになんでもやってくれる人ではなく、親に寄り添って一緒に子どもの将来を考え、成長の段階にあわせた支援を行ってくれる人。親がいなくなっても生きていけるような支援をしてほしい」と強調します。

 

Dさんは、「今、息子が通う幼稚園では、車いすに乗り気管切開で話せない息子を、同級生が『ちょっと変わっているけどふつうの子』と認識してくれるようになったと感じる。外の世界へ出ていき、親から離れて生活することを実現するには非常に大きなエネルギーが必要だが、それが当事者にとっても周囲の人たちにとっても、お互いの視野や考え方を変えるきっかけになる。地域づくりに関わる人たちには、いろいろな子どもたちを受入れる土壌づくりをすすめてほしい」と話します。Eさんは、「親は子どもの可能性を信じている。その可能性をつぶすことだけはしたくない。支援をする側にも、『生命を維持する』支援から一歩踏み出して、『成長を促す』支援をしてほしい」と話しました。

 

姫と王子の医ケアの会での集まりのようす

 

子どもと家族のための短期入所施設―国立成育医療研究センター「もみじの家」

そのような中、平成28年4月、世田谷区の国立成育医療研究センター内に「もみじの家」が開設されました。もみじの家は障害者総合支援法に基づいた医療型短期入所施設で、0~18歳の在宅で医療ケアが必要な子どもを主に受入れています。

 

運営を支える専門職には、医師や看護師等の医療従事者に加えて、保育士や介護福祉士等の福祉職が参画し、毎週ケア会議を行っています。賀藤均病院長は、「今まで分野が違うというだけで、医療と福祉は緊密で有効な協力体制が築けてこなかった。話し合いの場を重ねてお互いへの理解を深め、連携して支援にあたっている」と話します。

 

施設には寄付でよせられた絵本やおもちゃが並び、絵画が飾られています。プレイルームや図工コーナー、音楽室、学習コーナー等があり、子どもたちの成長にあわせた遊びや学習の機会が設けられています。賀藤均病院長は、「現在、子どもへのケアは『生命を維持する』ことに焦点が置かれ、年相応に遊んだり、学んだり、音楽や美術にふれたり、家族以外の人と交流する等、『人間らしい生活をする』ことを通じた成長が考えられていない。子どもたちには医療的なケアだけでなく、社会的、文化的な成長を促す刺激が必要だ」と、子どもの成長に着目したプログラムを今後積極的に行っていくと話しました。

 

病気や障害のために、子どもたちは地域で遊んだり、学校で学んだり、同世代の友だちをつくったりすることが難しい場合が多く、家族も地域から孤立しがちです。そのためもみじの家では、地域のボランティアを幅広く募集しており、現在76名が登録しています。もみじの家のハウスマネージャーを務める内多勝康さんは、「もみじの家を利用するのに、自宅と同じような閉鎖的な空間でケアを受けるだけでは意味がない。地域の人々と交流をもつことで、その子の世界が大きく広がる。ボランティアの方の世界も、子どもたちとの出会いによって大きく変化するだろう。ここで見たこと、感じたことが周囲の人に少しずつでも伝わり、社会の意識を変えるきっかけになってほしいと思っている」と話します。

 

もみじの家の一室

 

医療・福祉関係者のチームによる在宅支援―訪問看護ステーション そら

医療法人財団はるたか会の「訪問看護ステーション そら」では、23区内の在宅医療を必要とする子どもについて、同財団の「子ども在宅クリニックあおぞら診療所墨田」とともに、24時間、電話による対応と、緊急時の往診を実施しています。

 

そらの所長を務める看護師の木内昌子さんは、「ほとんどの利用者について、それぞれのヘルパーと日々連携しながら支援をしている。福祉職を抜きにした支援は考えられない」と言い切ります。少し前まで、重症心身障害児と言えば「呼吸器をつけた寝たきりの子ども」でした。しかし今、呼吸器をつけていても走れるような子ども、学校に通う子どもも増えてきています。

 

木内さんは、「このような子どもたちは、医療の側が健康面や身体的機能の基盤を保障し、ヘルパー等の福祉職が発達を促すようなはたらきかけをすることで、学校に通う等、外の世界に出ていくことができる。事業所によっては『受入れたことがないから無理』、『医療的ケアに関わるのは怖い』と敬遠されることもあるが、今後このような支援を必要とする子どもはますます増えて行く」と言います。そのような連携を行うなかで大切なのは、顔の見える関係づくりだと言います。「福祉職の方は、医師や看護師に対して、一歩引いてしまう面があると感じる。しかし、私たちはひとりの子どものために、対等な立場で支援を行う専門職同士だ。遠慮することなく、気づいたこと、改善すべき点を伝えあい、よりよい支援を行うことが大切ではないか」と木内さんは指摘し、「この子を学校に通わせよう」等の具体的な目標を共有することで、医療の側も福祉の側もお互いにできることを持ち合い、適切に連携することができると話しました。

 

木内さんは、「私たちが実現したいのは、重い病気や障害を持っていても『ふつうの暮らし』ができる社会」と話します。今の日本では、重い病気や障害をもつ子どもが生まれると、とたんにその家庭は『ふつうの世界』からはじきだされてしまいます。ふつうなら、学校に行く、勉強をする、友達をつくる、毎日お風呂に入る。それが重い病気や障害がある子どもにとっても当たり前の社会になれば、歳を取って介護が必要になった人も、事故にあって障害をもった人も、安心して、自分らしく生きることができるはずです。

 

訪問看護ステーションそらの木内さん

 

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重度の病気・障害を持ちながら在宅で支援を受ける子どもへの支援はまさに制度の谷間にあり、現在、家族や一部の事業者・団体によってなんとか子どもたちの生活を守っている状態です。このような支援体制は、熱意だけで続けられるものではありません。医療と福祉の連携体制、地域社会全体の理解と協力が必要になります。障害や病気があっても個人として尊重され、「ふつう」に生きることができる地域社会が、今、一日も早く求められています。

取材先
名称
姫と王子の医ケアの会、国立成育医療研究センター「もみじの家」、訪問看護ステーション そら
概要
姫と王子の医ケアの会(要医療的ケア児の親の会)
http://yoiryoukea.blog.fc2.com

国立成育医療研究センター 医療型短期入所施設「もみじの家」
http://home-from-home.jp/

医療法人財団はるたか会「訪問看護ステーション そら」
http://harutaka-aozora.jp/?page_id=6371
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