あらまし
- 社会福祉施設は地域にあり、近隣の学校や地域住民との交流をはじめ“施設と地域とのつながり”が重視されてきています。今号では、施設の中にいる地域とのつなぎ役の姿から地域という場で人がつながることで生まれる可能性を考えます。
職員一人ひとりが「地域交流大使」 ―障害者支援施設 リアン文京
(社福)武蔵野会「リアン文京」は、有楽町線江戸川橋駅近くにある障害者複合施設です。生活介護や入所支援、就労継続支援等の障害福祉サービスを行う他、施設には法人が受託運営する子育て広場や老人センター等が併設され、障害福祉サービス利用者約2万人と合わせ、年間約15万人が訪れる場となっています。
ところが、子どもは子育て広場、シニアは老人センター、障害者はリアン文京とそれぞれの目的で各施設を訪れるため、多世代間や共生的な相互交流につながっていませんでした。「集まった人が知り合ってつながる『交流』をしていくには、複合施設があるだけでなく、しかけが必要だった」と、総合施設長の山内哲也さんは話します。そのしかけは、チームリアンという職員同士のつながりによる協働体制です。
「絆社会の実現をめざす」ことをミッションに、地域とつながる8つの柱を定め、地域交流委員会の「ふれあいプロジェクト」を中心に、事業横断型で取組んでいます。職員は各自が業務目標で地域に関する内容を挙げます。そして、業務やイベントを通じて聞こえてくる、参加者やボランティア団体などの「地域のつぶやき」を拾い、職員会議等で共有し、想いを具現化していきます。引きこもりの方の中間的就労、在宅障害者や孤立している方の余暇支援など、制度の狭間のニーズに応える活動も始まっています。
リアン文京
- 地域と繋がる8つの柱 地域とともにチームリアン ミッションー絆社会の実現ー
- ・育む ・集う ・伝える ・参加する
- ・出会う ・共に生きる ・交流する ・支え合う
取組みで大切にしているのは、職員だけでなく、地域の人も巻き込んで「一緒に」協働するプロセスです。山内さんは、「『地域』という場でつながった人たちが、それぞれ持ち味を活かし、楽しみながら生活を共有することが『ふくしの街づくり』になっていく」と続けます。山内さんが特に考えていきたいという入所支援の利用者の社会参画も、この共生社会に基づく地域があってこそすすんでいきます。
「リアン」はフランス語で「絆」を意味します。職員一人ひとりが地域交流大使として絆を結んでいく「つながり型の地域貢献」は、協働することで大きな力となり、誰もが住みやすい地域づくりを実現していきます。
地域の一員として「職員の姿」を地域に見せる ―特別養護老人ホーム サンライズ大泉
(社福)芳洋会「サンライズ大泉」は、練馬区西大泉に5年前にできた特養です。地域で行われる高齢者向け講座への参加や、近隣小学校への出前授業、町会行事への参加など、職員が地域に出て「地域の一員」になることを大切にしています。施設長の番場隆市さんは「地域に施設があることだけでなく、そこで働く職員の姿を見せて、建物ではなく人の姿として認識してもらいたかった」と話します。実際に、小学校での出前授業を担当したソーシャルワーカーの西村雄大さんは「小学校近くの駐車場で登校中の小学生に『サンライズの人?』と話しかけられて嬉しかった」と言います。また、町会の行事に継続して参加しているケアスタッフの澤井裕美さんも「継続して参加することでこちらの顔も覚えてもらえ、スーパーなどで見かける地域の方の顔がわかるようになった」と言います。
サンライズ大泉では、近隣の小学校や学童保育からの働きかけが増えてきたことをきっかけに、平成26年度から施設内に「地域交流委員会」を設置しています。現在は職員9名がメンバーとなって3か月に1度定例会を開いています。「在宅サービスを行っていないので、意図的に地域とかかわることを考えなければ、社会資源としての役割が果たせないと考えた」と番場さんは当時を振り返ります。
近隣の大泉西小学校との交流は、継続することで例年の行事になってきました。小学生が施設を訪問する交流からスタートしましたが、現在では学校に出向いての出前授業も実施しています。対象学年も年々増えています。内容は担任の先生の提案も受けながら、主に高齢者のことや施設のことなどを伝えています。番場さんは「できる範囲で、できることを誠実にやっていく」と、継続していくためには無理をしすぎないことが大切だと言います。マネジャーの遠藤求さんは、「特養としての機能だけではなく、地域で当たり前の存在になりたい。イベントも含めて施設に出入りしてもらい、大人になってふり返った時に、自分が育った地域の楽しかった思い出の中にサンライズがあってくれたら嬉しい」と言います。高齢者や介護についての正しい知識を伝えながら、子どもたちの記憶の中に、地域で仕事をする大人の姿として残っていく事が期待されます。
サンライズ大泉「地域交流委員会」
施設長 番場隆市さん(右から三番目)
小学校3年生への出前授業
施設と地域に暮らす多様な家族のことを伝える―二葉乳児院「二葉・子どもと里親サポートステーション」
(社福)二葉保育園「二葉乳児院」は、新宿区内にあり、さまざまな事情から家庭で暮らすことができない0歳から就学前までの子ども達を預かって養育する入所施設です。二葉乳児院が東京都から受託した里親支援機関事業「二葉・子どもと里親サポートステーション」の里親開拓コーディネーター(※1)の吉川公一さんは、二葉乳児院のある地域を含めた都内各所で、里親や地域で里親を支えてくれる方のことを伝える活動をしています。
毎年、区民まつりや子育てメッセ等には里親委託等推進員(※2)とともに出向き、社会的養護における里親制度や施設のことを知ってもらうブースを設置しています。ブースにはボードを設置し、立ち寄った地域の方に里親制度を説明するコーナーを設けています。吉川さんは、「確実に昨年より今年は認知度があがっている。『昨年も来たから知っているわ』との嬉しい声があった」と話します。興味・関心を持ってもらうことがすすんでいる実感を得ています。また、「用意した風船を欲しがる子どもには、親も一緒に来てもらうよう声かけして、親が社会的養護の情報に触れてもらう機会を増やしている」と、社会福祉士で里親委託等推進員の宮内珠希さんは話します。
一方、大学に対しては、授業の一環として、地域で暮らす里親家族のことや里親制度について考える出前講座を行っています。この授業をきっかけに、乳児院等の遊びや学習ボランティアとしてかかわってくれるようになった大学生もいます。
その他の取組みとしては、多くの教育関係者に、里親制度や社会的養護のことを正しく理解してもらうため、都立高校の家庭科の先生が組織する研究会に参加し、制度の説明をしました。その結果、先生方へのグループ研修、生徒への福祉の授業など、現在4校での『出前講座』の実施に致りました。
地域社会の中に、多様な家族がいて当たり前になることで、その家族を支える理解者が増え、誰もが暮らしやすい地域づくりにつながっていくことが望まれます。
(※1)里親開拓コーディネーターとは、里親制度の理解を広め、里親登録の拡大のため普及・啓発活動をします。
(※2)里親委託等推進員とは、担当児童相談所エリアの里親に対して、子どもの養育に関する支援を総合的に行います。
右)吉川公一さん
左)宮内珠希さん
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3つの事例では、地域住民と施設が双方向に関わる事で、地域という場に新しい人と人のつながりが生まれています。また、施設として利用者に関わる想いを伝えていく事で、地域に理解や関心の輪が拡がる地域づくりの姿があります。施設の中にいる地域との「つなぎ役」は、職員一人ひとりが地域に向けてアンテナを張ることにつながっています。
http://www.team-lien.com/
(社福)芳洋会 特別養護老人ホーム「サンライズ大泉」
http://www.h-sunrise.com/service/ooizumi/
(社福)二葉保育園 「二葉・子どもと里親サポートステーション」
http://www.futaba-yuka.or.jp/int_nyu/