児童養護施設退所者を支える 福田茂雄さん
一人では頑張るにも頑張れない
掲載日:2017年11月29日
2015年9月号 くらし今ひと

スタッフと福祉交流サロンの参加者

 福田さんは下段の左から2番目

 

あらまし

  • 児童養護施設で育ち、先輩・後輩や同輩の自殺をきっかけに、退所者を支える活動をしている福田茂雄さんにお話をお聞きしました。

 

後輩が寮に押し寄せてきた

私は生後3か月で乳児院に預けられたそうです。児童養護施設で暮らし、中学卒業後に住み込みで働きながら定時制高校に一度も休まずに通いました。

 

ある時、お店の裏庭に建てられたベニヤ板の簡素な寮に、施設で顔馴染みの後輩が「車の免許を取得したいから」とか「父親にお金を送らないといけないから働かせてほしい」と押し寄せてきました。むげに断るわけにもいかず、一緒に働けるよう店のご主人に頼み込みました。

 

その後、私は大学受験の失敗をきっかけに、トルコ語を勉強するために海外へ旅立ちました。帰国後は得意の英語を生かして外資系の企業で働きました。60歳で退職して、今は企業の内部統制を監査・支援する仕事をしています。

 

ある日、元園長から電話がありました。施設の後輩が自殺してしまったことを知らされました。後輩は社会に馴染めず、定職にもつけなかったようでした。施設では仲が良かっただけに大変ショックを受けました。また、小さい息子がいる同輩が突如私を訪ねてくれました。しかし、私は仕事に追われ応えられずにいました。しばらくして、彼女が列車に飛び込んだと聞いて、私はどうして彼女の深刻さを理解できなかったのかを悔やみました。

 

一人では頑張れない

幸いにも、私は数多くの恩人に恵まれてきました。だからこそ今があり、未来があります。しかし、一人では頑張れない人もいるのです。児童養護施設を退所すると、頼れる親の存在はないことが多く、社会のしくみや働くことの意味を充分に理解しないまま、社会に投げ出されます。孤独になり、精神的に不安定になる人もいます。仕事が長続きしない人もいます。これは今でも同じだと思います。社会に出てつまずいた時に相談できる人や場所が身近に必要なのです。そのような想いから、退所した仲間と定期的に連絡を取り合い、ハイキングや無料バイキング食事会を開催しました。また、愛情を注いでくれた元園長が亡くなった平成2年には、退所生70人余と連絡を取り合い、追悼文集を出版することができました。

 

児童福祉専門員会の外部委員に

仕事と子育てに追われていた平成16年、東京都の広報紙に東京都児童福祉審議会の公募委員募集が出ていたので応募しました。論文提出・面接の結果、委員の一人として列席しました。そこでは、「児童養護施設退所者の自立に求められるものは」などを話し合いました。

 

この活動がきっかけとなり、児童養護施設や里親を退所した経験者が、仕事や人間関係の悩みを話し合い、助け合っていけるように「フク21ふらっとホーム」を設立しました。「フク21」の由来は、21世紀の福祉を目指すという意味です。活動目的は、施設退所者等との交流を続けること、そして、ただ職場を紹介するだけではなく、企業主と連携して就職後に働き続けられるよう支援することです。

 

気軽に参加できる”福祉交流サロン“を毎月第2土曜日に水道橋のちよだボランティアセンターで実施しています。就労支援、シェアハウス、退所者の相談全般についても、お茶を飲みながら話し合っています。今後は、企業や地域住民に対象を広げて楽しくてたまらないワクワクする”就労の場“提供に挑戦します。

取材先
名称
児童養護施設退所者を支える 福田茂雄さん
概要
NGOフク21ふらっとホーム
http://www.ngofuku21.org/
児童養護施設経験者等への退所後の支援を行うため、平成26年7月に設立。退所者がふらっと寄れる居場所づくりや、就労相談、シェアハウスの運営管理などを行う。
TEL:03-6324-4433
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