(社福)豊芯会 理事長 上野 容子さん
ソーシャルワーカーの視点と活動
掲載日:2017年11月29日
2017年4月号 福祉職が語る

(社福)豊芯会 理事長 上野 容子さん

 

ソーシャルワーカー(SW)としての原点

私の精神保健福祉活動は1971年がスタートで、当時の精神科医療は、治療=入院が主で、退院後の患者さんの生活や就職を支援する福祉制度は皆無の時代でした。ご本人達を医療モデルとして捉え、生活者として必要な福祉の対象外でしたのでご家族はじめご本人は生きていく上でさまざまな権利を奪われていました。

 

最初は小平市にある精神科病院のSWとして患者さんの入院生活を中心とした諸々の相談、家族調整、就職相談や職場との調整等を担当しました。小平・東村山地域では、保健所、医療機関、福祉施設の関係者で、「小平市・東村山市地域精神医療研究会」を立ち上げ、地域医療のあり方や在宅生活の患者さんの日常生活や就労を訪問活動によって支援していく取組みを始めていました。

 

私はベテランの保健師さんの訪問活動に同行することができ、患者さんの生活実態を自分の目で確かめた上でどのような支援が必要なのかを学習することができました。また、関係機関どうしが知恵を出し合い協働することによって、お互いの機能と役割を理解し合い、それを実際の支援に繫げていくチームワーク力の醸成等、地域を基盤とした精神保健福祉活動をとおしてSWとしての原点を学ぶことができたと思います。

 

 

精神障がい者も市民、社会参加を促進する支援へ

1975年に、精神科医穂積登さんが豊島区で精神科診療所を開業。その後自費を投じ、患者さん達が集う場、憩える場として1978年に「みのりの家」を開設し、そのお手伝いをする機会を得ました。さまざまな立場の人達が多数ボランテイアで参加してくれました。

 

それをきっかけに私達は、集まってきた精神障がいが有る人達が仲間どうし安心できる居場所の提供、生活力や病気の回復力を高めていくのに必要な日常的な支援をしながら、彼達が社会参加していく為に、地域に貢献できそうな仕事を模索し、1993年に高齢や障がい者で食事づくりが困難な人達に家庭料理を宅配し、食事に来て頂ける飲食店「ハートランドひだまり」を開業しました。

 

1981年に創設された東京都精神障害者共同作業所補助金と東京都地域福祉財団の地域福祉振興基金の助成を受けることができました。地域福祉振興基金申請から東京都社会福祉協議会の方々とお付き合いが始まっています。そこでは、障がいが有る人達は家庭料理をつくり宅配する仕事をとおして福祉サービスの受け手から食事サービスの提供者になり、人は多様な立場で生きていることを学び、社会人としての尊厳を取り戻していく機会となりました。

 

この活動は、支援者側の意識も変え、障がい者を保護の対象と捉えていた視点から私達と共に市民・社会人として地域社会を築いていく、共に協働する存在であることを強く認識することとなりました。

 

ソーシャルインクルージョンの理念に基いたソーシャルファーム(SF)の実現

障がい者の就労支援として、一般就労と福祉的就労の2種類以外に、障がい者が多様な立場の人達と同等な立場で主体的に働ける職場づくりとしてSFが注目されてきています。財源縮小の背景が見え隠れしますが、国もインクルーシブで横断的な福祉制度の改革を検討しています。

 

障がい者も含めて社会的事情で就労困難な人達が共に協働し主体的な職場づくりを実現するためにはそれをコーディネートする人材が欠かせません。それを担えるのは、地域を基盤としたソーシャルワークを習得したSWだろうと思います。私達SWは、ソーシャルワークの活動を矮小化せず、多様な立場の人達と協働することができ市民に必要とされる人材育成に力を注ぎましょう。

 

プロフィール

  • 上野 容子 さん
    日本社会事業大学社会事業学部社会福祉学科卒業/高崎健康福祉大学にて保健福祉学博士学位取得/医療法人白十字会松見病院:精神科ソーシャルワ―カー/小岩保健所、小平保健所 精神科デイケアグループワーカー/民間任意団体「ハートランド」事務長/平成7年社会福祉法人豊芯会設立し副理事長、現在理事長/法政大学・東京家政大学・日本社会事業大学・駒澤大学非常勤講師を経て2013年~東京家政大学専任教員(現:教授)/精神保健福祉士(NO.03098号)
取材先
名称
(社福)豊芯会 理事長 上野 容子さん
概要
(社福)豊芯会
http://housinkai.or.jp/
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